カメムシのカメ子 第39話 侵略者~ 一つ目ベータ。。。3/8
「それじゃあいってくるよ」
お母さんもミヨさんも止めたけど僕はどうしても気になったので研究所へ向かうことにした。
僕には何の力もない。
それはわかってる。
もしかしたら足手まといになるかもしれない。
それだってわかってる。
でもカメ子とカーメルがまたあの一つ目と戦ってるかもしれないっていう時に僕だけ家でじっとしてるなんてできない。
前に研究所で死んだと思っていた一つ目が息を吹き返し僕達は襲われそうになった事があった。
あのとき一つ目はもう一度カメ子に会う為に周りの人達に自分を死んだと思わせ脱け殻のようになった体でカメ子の来るのを待ち構えていたんだ。
そしてカメ子がやって来ると自分を覆っていたガラスケースを粉々に砕きその破片をカメ子目がけてぶつけてきた。
あの時はカメ子を守らなきゃっていう思いで頭が一杯になってて考えるより先に体が動いて気づいたら僕はカメ子の前に立っていた。
その後にカーメルからもの凄く怒られてさすがに僕も反省した。
もちろん今だってその事を反省してないわけじゃない。
でもやっぱり僕も一緒にいなくちゃだめなんだ。
僕は研究所へ向かうタクシーの中でそんなことを考えていた。
そしてまた怒られちゃうかもしれないなとボソッと呟くと、運転手さんは自分が何か尋ねられたのかと勘違いして「何でしょう?」と聞いてきた。
慌ててなんでもありません独り言ですと僕は言った。
ベータの話だと研究所へ発せられた一つ目のメッセージはベータの乗ってきたカプセルが受信機の役割を果たしそれをベータが研究所内に流していたという事だった。
それも本当ならカプセルで受け取ったメッセージをベータが研究所内の誰かに直接話をして伝えるという所謂交渉役を任せられていたのだが、ベータとしては自分一人でドールを倒したような相手にまともに話をする事など出来ず、送られて来たメッセージをそのまま流したという事だった。
「という事はこの研究所に直接語りかけて来ているという私の考えは間違っていたという事か。ま、それはいいとして、君はどの様に返事をしていたんだい?」
「してない」
肩を落としうな垂れながら答えるベータに東岸は少し驚いた。
「してない? なんの返事もしてないって事かい? 私が言うのもおかしな話だがそりゃまずいじゃないのかい? 君はそのドールっていうのは統率者だと言ったよね? 要は一番偉い人物って事だろ? 君はその命令に背いたって事になるんじゃないか?」
命令に背いたと言われたベータは顔を上げた。
気のせいかその顔の中心で大きく開いた一つ目が潤んでいるようにも見えたが、ベータの震える声を聞くとその心情がはっきりと見てとれた。
「ド、ドール様からは何度も何度もどうなってるのかって聞かれたんだ。で、でもおいらドール様もおっかないけどジーク様を倒した奴だっておっかなくて。それで、それで、どうしたらいいか分からなくってカプセルから飛び出したんだ。そしたらあんたに見つかったんで慌ててたら、ジーク様の部屋があったんで逃げ込んだんだ。だからこのままじゃおいらはドール様に殺されるかも知れない・・・・」
最後ははっきりと涙声になったベータに東岸はもう一つ不思議に思っていた事を聞いた。
「そうそう。それも不思議だったんだ。なんで君はジークがあの部屋にいるってわかったんだい?」
「なんでって、感じるんだよ。ジーク様の気配が。勿論もう死んじまってるけど感じるんだ。あんた達は仲間の気配を感じないのか?」
「我々にはそう、なんていうか、君達のようにどこに人がいるかなんてわかる能力はないんだよ」
ベータは時折感情的になる事はあったが、こちらの聞く事には全て答えていた。
しかしその答えというのはほとんどが今後一つ目が攻めて来る事に対して何かプラスの材料になるようなものではなかった。
実際の所、東岸たちが聞きたいのは侵略者と名乗る一つ目ドールがどのような力を持っておりどの様に攻めようとしているのかという事だったが、その肝心な事はわからないというのがベータの答えだった。
ただベータが何か隠し事をしてるのでは無いというのはその場の全員が理解していたのでそれ以上無理に話を聞き出そうとする事はしなかったが、歯がゆい思いを残すというのも本音の一つだった。
「結局わかったのは相手がカメちゃんやカーメルちゃんを恐れて手を出せないっていうのだけか。ま、それがわかっただけでもよかったかも知れないな」
東岸がベータの話をまとめひとごこちついたところで部屋の入り口にある電話が鳴った。
「ひゃあ。な、なんだ? 何か始まるのか」
飛び上がるほど驚くベータにカメ子が笑いながら言った。
「これは電話っていうの。人間はこれで話をしたりもするんだよ」
「電話? 攻撃の合図じゃないの?」
違うよと言った後、大丈夫だよとベータを落ち着かせるように優しく言うとカメ子は東岸に自分が取っていいか目線を送ると東岸はうなづいた。
「あたしはカメ子。あなたは誰?」
ベータに胸を張って電話の説明をしたカメ子だったが、その唐突な電話の取り方は一同を笑いに包んだ。
「あ、坂東さん、どうしたの? えっ? 丸男が来た?」
研究所にやってきた丸男は受け付けで東岸に会わせてて欲しいと頼んだが、受け付けの担当者は電話での呼び出しさえもしてくれなかった。
「東岸からは大事な調査をしているので誰であっても研究室への立ち入りはおろか研究室があるフロアにも人の出入りはさせないようにといわれております。 私も菱形様の事は存じ上げておりますが、東岸からの指示がないとたとえ菱形様の息子さんでもお通しすることはできません。申し訳ありませんがお引き取りください」
あまりにも事務的な応対だった。
しかし受け付けの担当者が教えてくれた東岸の指示からすると本当に一つ目が現れたのかもしれない。
そうだとすると丸男も簡単には引き下がれない思いだった。
その場で何か方法はないか考えていると坂東の事を思い出し、坂東を呼び出してもらうよう頼んでみた。
坂東は基本的に調査には関係ないはずなので会うことは可能だと思ったからだ。
受け付けの担当者も外部から調査に協力に来てくれている菱形の息子だという事で困りながらも渋々坂東にはつないでくれた。
「それは本当なの?」
「僕も信じられなかったけど、今聞いた東岸さんの指示を考えると本当の事なんだと思います。 それにうちのお父さんとカメ子とカーメルがこっちに来てるのは間違いないんです」
坂東は話を聞くと、受け付けの担当者に丸男の事を調査に関係がある人だからと強引に電話を取ると東岸達がいる部屋へ連絡を入れ話をつけると丸男と二人で東岸達がいる部屋へ向かった。
その部屋の前に着くと丸男はまさかというような表情で立ちすくんだ。
「どうしたの?」
「東岸さん、いや、カメ子とカーメルは本当にここにいるんですか?」
「ええ。さっき受け付けで確認したから間違いないわよ。それに電話を取ったのもカメちゃんだったもの」
丸男は電話を取ったのがカメ子だと聞いてとりあえず無事でいる事はわかりほっとしたが、不思議な気持ちになった。
ここは丸男にとっても絶対に忘れる事の出来ない部屋だからだ。
そう、ここはあの時死にぞこなった一つ目がカメ子を待ち構えていた部屋だ。
坂東は丸男がこの部屋の前に立った時からとても緊張してるのかわったがその理由まではわからなかった。
そして坂東がさあ入りましょうとドアのノブに手をかけようとしたところでその腕を丸男に掴まれた。
丸男は坂東の目をしっかり見つめ僕が開けますと言った。
心なしかその腕は震えているようにも感じたが、坂東は軽くうなづくと丸男にしたがい手を引いた。
そして丸男はゆっくりとその部屋のドアを開けた。
「ひゃあ」
先に声をあげたのはベータだった。
その後一つ目を見た坂東が腰を抜かさんばかりに驚き声を震わせた。
「あ、あれは何? なんなの? あれが一つ目なの?」
丸男は坂東のように声こそあげなかったが、目の前にいる一つ目を見て体が固まって動けなかった。
いわゆる放心したようにしばらくはその場に立ちすくんだままだった。
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