カメムシのカメ子 第37話 侵略者~  一つ目ベータ。。。1/8

僕が朝いつものように起きていつものようにテレビの部屋へ行くとそこにはお母さんだけじゃなくミヨさんもいて二人して食い入る様にテレビを観ていた。
その画面には繰り返し航空機が撃墜された映像が流されていて、それを観ながら専門家が一つ目の戦力を分析していくというもので、具体的にはこれはどこかの国のミサイルと同じくらいの破壊力でそこから推察すると敵、すなわち一つ目達の持つ戦力はこれくらいでは無いかというような話だった。
他の局でも専門家が違うだけでどこも似たような番組ばかりだった。
確かになんの情報も無い中でできる話はそれくらいなのかも知れないけど、たった一機の飛行機が撃墜されたのを見ただけで、月まで行くのがやっとな地球の人間が銀河を越えてやって来た宇宙人の力を測るなんてさすがにナンセンスだなと僕は思った。
だけど宇宙船がやって来たことで学校が休校になって、テレビも一つ目の事を伝えるこの様な番組ばかりになったのでしょうがないのかも知れないなと考えながら、それにしてもなんでこんな朝早くにミヨさんがいるんだろうと僕は不思議に思った。

「おはようございます」
「あ、丸男君。おはよう。朝早くからお邪魔してごめんなさいね。カーメルちゃんの事で何か連絡が入ってないかと思ってね」
「えっ、カーメルの事? カーメルに何かあったんですか? あれ? そういえばカメ子は? ねぇお母さん、カメ子はどうしたの?」
「それがね、夜中にお父さんの所に研究所に一つ目が現れたからすぐ来てくれって電話があって行っちゃったのよ」
「研究所に一つ目が現れた? なんで? どういう事?」
「詳しい事はお母さんも聞いてないんだけど、とにかく慌てて出て行ったわ」


流石にお父さんもお母さんには詳しいことは話さないだろう。
でも僕が寝ている間に話が大きく展開していたのには驚いた。
ただ、研究所に一つ目が現れたというのはお父さんから聞いた東岸さんの推測からすると意外というか少なくとも今の段階では有り得ない事なのにと僕は思った。
それはカメ子とカーメルが一つ目と対峙したのを見ていた僕にとっても東岸さんの推測は大いに納得できるものだったからだ。
それだけにここにきて一つ目がそれも研究所に現れたという事が僕には何か少し腑に落ちない思いがした。

「でも、なんで僕を起こしてくれなかったの? 起こしてくれればよかったのに」
「お母さんも連れていかないにしても丸男には一声かけた方がいいんじゃないかって言ったんだけど、お父さんもカメちゃんも丸男には起きてから話してくれればいいからって、カーメルと三人で行っちゃたのよ」
「一つ目が現れたって何しに来たんだろう?」

不思議に思った僕がぽつりと言うとお母さんは不安そうに言った。

「それはこっちが聞きたいくらいよ。ねぇカメちゃんもカーメルも大丈夫よね?」


「に、逃げたぁ?」

以前この研究所で一つ目と向かい合った時、一つ目は動けない体だったのでカメ子とカーメルの二人で容易に挟み込んで抑えることができたが今回の一つ目は生きている。
その一つ目にどう向かっていったらよいか、カメ子とカーメルはタクシーの中で話し合っていた。
しかし、研究所に着き東岸から話を聞かされると、一つ目の行動は想像してたものとはあまりにも違い三人は拍子抜けというかあっけにとられた。

「そうなんですよ。私が部屋を出て通路を歩いているといきなり目の前に現れたんです。私は瞬時に ”あの時” の光景が頭をよぎり体が固まって動けなくなって、このままここで殺されるのかと思ったんですよ。でも一つ目が私を襲ってくる気配はなく、なにか様子がおかしいんです」
「おかしい? 何がおかしかったんですか?」
「何かこう、私と鉢合わせして驚いてると言うか、うーん、なんて言うか、脅える。そう、脅えてるような感じだったんです」
「ちょっと待ってくださいよ。 一つ目は皮みたいになっても私たちを殺そうとしたんですよ。 実際あの時この子達がいなかったら私達だってどうなってたかわかりませんし、その一つ目が東岸さんを見て脅えるなんて考えられないな」
「菱形さんの仰りたい事はわかります。確かに今回現れた一つ目の行動は不思議な感じがします。私だって信じられないですよ。でも一つ目は私と対面した後一瞬の間をおいて、私を突き飛ばすと逃げていったんです。私がされた事といったらそれだけなんです。それに突き飛ばすと言っても押し倒そうというような力を込めてというものではなく、慌てて払いのけるというような軽い感じだったんです」
「もしかして東岸さんにもカメちゃん達のような力があるとでもおもったんでしょうか?」
「それもあるかもしれませんが、はっきりとはわかりません。ただ今度の一つ目は何というか、姿形はカメちゃんとカーメルちゃんが前に倒した一つ目と同じなんですが、あの圧倒するような威圧感が全く感じられなかったんです。そのかわりなんというか、おどおどしてると言うかビクビクしてるというような感じでしたね」

そう言った後、東岸は逃げ込んだのはあそこですと、一つ目が逃げ込んだ部屋を指差した。
それは東岸が一つ目と向かい合った時脳裏に浮かんだ ”あの時” の部屋であり、菱形やカメ子、カーメルにとっても決して忘れることの出来ない部屋だった。

「この部屋って、もしかして・・・」
「そうです。あの時カメちゃんとカーメルちゃんが一つ目を倒した部屋です。そしてその遺体はこの部屋で保管してあります」
「ここで保管してたんですか?」
「ええ。当初違う部屋への移動も考えたんですが、ここも一応研究室なので遺体を他へ移動させるよりここで調査をすれば効率もいいですし、この部屋も研究資料として調査をしていけば何かわかるかもしれないということになりましてね。あの時砕け散ったガラスの破片なんかも調査の対象としてそのままにしてあります。なので今は一部の人間しか入る事が出来ない様になっていました」

そこまで話しを聞くと、カーメルが東岸の言ったことの確認をする様に口に出して言った。

「ふーん。それじゃあ、東岸さんが見た一つ目は東岸さんを突き飛ばすと逃げるようにこの部屋へ入っていった。 で、この部屋にはあたしとカメ子が倒した一つ目がそのまま残されたままになってる。そういう訳ね」

それはいつもの素っ気ない話しぶりだったが、あきらかに緊張の面持になっていた。
そしてそれは何も言わず隣に立っているカメ子も同じだった。
菱形はそんな二人を見て逃げた一つ目を追って中に入る事がない様に釘をさした。

「この部屋に入ったって言うのはただの偶然なんだろうけど、とにかくそう言うことらしいね。でもカメちゃんもカーメルちゃんも落ち着いて行動してくれよ。東岸さんには危害を加えなかったからって、この後も大丈夫って保証はないんだからね」
「あの部屋へ入ったのは偶然なんかじゃない」
「いや、偶然だよ偶然。 いきなり現れた奴がこの広い研究所のどこに何があるかなんてわかるわけないよ」
「そうそう。私もあの驚きようからはそんな計画的な事は感じられなかったよ。とにかくびっくりして、慌てて近くの部屋へ逃げ込んだってだけだと思うな。 あれ? そう言えば増田君はどうしたんだろう? さっきから姿が見えないがどこへ行ったんだ。 増田君、増田君いるか?」

そう言うと東岸は声のトーンをあげ姿の見えない増田の名前を呼んでみた。
すると東岸のすぐ後ろから返事をする増田に東岸は驚きの声をあげた。

「わぁ。なんだよ増田君。脅かすなよ。それより今までどこにいってたんだ君は」
「すみません。ちょっと気になる事があったんでそれを確認しに言ってました」
「気になる事? なんだねそりゃ」
「今の菱形さんの言った事ですが、あの部屋へ入ったのが偶然かどうかはさて置き、いきなり現れたっていうのはどうも違う様ですよ」
「どう言う事だ増田君」
「まだ気づかないの東岸さん? 増田さんの言う通りいきなり現れたわけじゃないわ」

首をひねる東岸をカーメルが呆れたというような顔で見て言った。
そんなカーメルを見て先に理解したのは東岸ではなく菱形だった。

「あ、そうか。でもなんで今なんだ? チャンスはいくらでもあったろうに」
「多分カメちゃんやカーメルちゃんを警戒して出ようにも出られかったんじゃないですかね」
「な、なんですか増田君だけじゃく菱形さんまで。どう言う事か説明してくださいよ」

仲間ハズレにされた子供の様にむくれている東岸に菱形はゆっくりと言った。

「いいですか東岸さん、思い出してください。ここに連れてきた一つ目が何体だったのかを」

そこまで言われて東岸ははっと息をのんだ。
その横でカメ子が一つ目の逃げ込んだ部屋を真剣な目で見つめていた。

「ここに逃げ込んだのは偶然じゃない。絶対に偶然じゃないわ」

そしてその手は一つ目が逃げ込んだ部屋のドアを開けようとしていた。



#創作大賞2023

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?