カメムシのカメ子 第40話 侵略者~ 一つ目ベータ。。。4/8
「よく来たね丸男」
「何言ってんのカメ子。よく来たねじゃないわよ。“なんで来たの” でしょ」
研究所にやって来た僕に対してのカメ子とカーメル反応はいつものように対照的だった。
普段ならこれでいいんだと僕は思う。
だけど今は違う。
この部屋にはカメ子とカーメル、お父さんに東岸さんに増田さん。
そしてもう一人、絶対にいちゃいけない奴がいる。
僕は東岸さんの推測に納得していたので今になって突然一つ目が現れたという事が不思議でしょうがなかった。
だけど今僕の目の前にその一つ目がいる。
本当だったんだ。
この部屋に入ってから、いや、この部屋に入って一つ目の姿を確認してから、僕は体を動かすどころか声を出すことすらできないでいた。
それなのにカメ子とカーメルは一つ目の前でいつものように話している。
僕にはその光景がとても奇妙に感じた。
だってカメ子とカーメルが普通に話してるその横に一つ目がいるなんてありえない。
二人を前に自分でもわかるくらい僕は顔が強張っていた。
そんな僕の顔を見て緊張を感じ取ってくれたのか東岸さんは大丈夫だよと言ってこれまでの経緯を話してくれた。
話を聞き終えると確かに僕も残っていたカプセルの事は頭になかった。
だからといって ”はいそうですか” と簡単に納得できる話じゃない。
目の前にいる一つ目を見るとやっぱり恐怖が先にたち僕の体はいうことをきかないままだった。
でもそんな僕の緊張を解いたのは他でもないその一つ目だった。
「おいらあんたの事知ってるよ」
「えっ、僕の事を知ってる?」
「うん。前に一度あのカプセルが到着した場所で見たんだよ」
カプセルの到着した場所と聞いて僕は一瞬首をかしげたけど、すぐに一つ目が何を言ってるのか理解した。
「あんたはこのカメ子って人を助けようとして二人で倒れたんだ。おいらはそれをカプセルの中から全部見てたんだよ」
「そうか。あの時か。でもなんで出てこなかったの? 僕達を倒そうとは思わなかったの?」
「ジーク様が敵わなかった相手においらが勝てるわけないじゃないか。あれを見ておいら本当におっかなくてどうしたらいいかわかんなくなっちまったんだ。本当言うとあんた達が倒れた後カプセルを飛ばして逃げようとしたんだ、でもその後すぐに大勢の人が集まってきて怖くなってカプセルから出れなかったんだ」
”怖くなってカプセルから出れなかった” その言葉を聞いて僕は東岸さんが言った、大丈夫だよという意味がわかったような気がした。
それから僕の体はやっと正常に反応するようになった。
すると僕の心の動きをキャッチしたのかカメ子が僕に言った。
「ねぇ丸男、この子ベータっていうの」
カメ子がそういうとベータは僕のほうを見て恥ずかしそうに挨拶をしてくれた。
と言っても、ベータの顔には大きな目が一つあるだけで実際恥ずかしそうなのかわからない。
だけどその時の僕にはそのように見えた。
「おいらベータ」
「僕は丸男、菱形丸男だよ。よろしく」
一つ目に挨拶をされて僕はおかしなことに気がついた。
「あれ? 声が聞こえる」
僕が不思議そうにそう言うとはじめて他のみんなもさっきから普通に話してる事に気がついたようだった。
「ねぇベータ、なんで君はちゃんと話せるの?」
僕が聞いてもベータはなんのことを言ってるのか理解できてないようだった。
僕もうまく説明できなかったけど、このベータという一つ目は明らかに前の一つ目とは違う。
ベータは僕達が普通に会話をするように言葉を発している。
この顔のどこが口に当たるのかはわからないけど、とにかくベータの発した言葉がこちらの耳に届いて会話が成り立っている。
「ちゃんと話せる? どう言う事だい? これが普通だろ。おいらだけじゃなくみんなも普通に話してるじゃないか」
「それはそうなんだけど、前のそのジークっていうのは言葉を発するって言うんじゃなくて、なんていうか直接言葉が頭に響いてきたんだよ」
そう言うとベータはなーんだという顔をして答えてくれた。
もちろんこれも僕がそのように見えたというだけなんだけど。
「ジーク様とドール様は特別な力を持ってるんだよ。おいら達のように言葉じゃなく自分の考えたことを直接相手の頭に話しかける事ができるんだ。勿論おいら達のように普通に話す事もできるけど、直接頭に話しかける方が相手に伝わりやすいし言う事を聞かせやすいんだって言ってたよ」
「言う事を聞かせやすい?」
「うん。普通は頭で考えてそれを体から発する。そして相手はそれを体で受け取ってから頭で理解するだろ? それを相手の頭へ直接話しかけると相手が怖がるからコントロールしやすくなるんだって」
言葉でのやりとりする事を体から発し体で受け取るというのはきっと一つ目と僕達人間の体の違いからくる事なんだろうなと思った。
そういう少し感覚が違うところがあるけどベータの言う事は理解できた。
特に相手が怖がるからというのは経験しているだけによく分かった。
僕がベータの話に納得したところで二人の話に一区切りついた。
すると今度は東岸さんが話に入ってきた。
「その特別な力っていうの他にどのようなものがあるんだい?」
ベータも詳しいことは知らないらしく腕を組んで頭をひねりながら思い出し思い出し話をしてくれたけど、指先を伸ばしたり尖らせたり出来る事や、体全体で威嚇し相手の動きを止める事など基本的に僕達が体験したもので新しい何かを聞き出せはしなかった。
ただ、ジークとドールという一つ目だけは他の一つ目達とは別格だという事とそれ以外の一つ目の能力はベータとそんなに差は無いのだという事は分かった。
一つ目が皆あのジークの様な恐ろしい力を持っているわけじゃ無いって事がわかると正直少しほっとした。
だけど、航空機が撃墜された様子をみると一つ目たちの攻撃力はやはり半端なものではないのはわかるし、ベータにしたって身分が低いといってもその力は人間では到底太刀打ちできるような物じゃなくやはりカメ子とカーメルの力を借りる他ないのは変わりはない。
僕はカメ子とカーメルの二人にはそんな戦いには参加して欲しくない。
ずっと思っていた事だ。
だけど少しずつ戦う方向に向かっているのは確かだった。
もう誰にも止める事はできない。
ここにきて更に現実を突きつけられた感じになった。
その時ベータの話を聞いている間中ずっと厳しい顔をしてた東岸さんがベータに聞いた。
「君が乗ってたカプセルから宇宙船に話はできるのかい?」
「えっ? 出来るけどどうするんだい?」
「出来ればドールと話がしたいんだ」
「 ド、ドール様と話をする? 嫌だよおいらは」
「でもできるんだろ?」
「話はできるけど、あんた達にカプセルのこと話したなんて知られたらおいら・・・・」
そこまでいうとベータはうなだれてしまった。
その姿は震えている様にも見えた。
そんなベータに向かってカーメルが現実的な事を口にした。
「でももうカプセルから逃げ出しちゃってんだからどっちにしても終わりなんでしょ?」
「大丈夫。あたし達が守ってあげるから。気にしないで」
なんとかベータを落ち着かせようとするのはわかったけど、僕はカーメルとカメ子の言い方がまたも対照的で可笑しかった。
だけど本気で怖がっているベータを見るとさすがに笑うのは悪いと思いなんとかこらえた。
その後、色々話をしたけど宇宙船へ連絡をするという事でベータが折れる事はなかった。
でも渋々ではあったけど中を見せるだけならと皆でカプセルが置いてある部屋まで行くことになった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?