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【後編】NFT取引は本当に「電気通信利用役務の提供」なのか? ~国税庁「NFTに関する税務上の取扱いについて」の分析と検討~

【前編】NFT取引は本当に「資産の譲渡」に該当しないのか?

FAQは「電気通信利用役務の提供」だとする

FAQについて、より問題なのは、問11のようなNFTアートの取引(以下「NFTアート取引」という。)を「電気通信利用役務の提供」(消費税法2条1項8の3)に当たるとした部分である。

「電気通信利用役務の提供」とは、条文上、「資産の譲渡等のうち、電気通信回線を介して行われる著作物……の提供(当該著作物の利用の許諾に係る取引を含む)…(以下略)」をいう。
NFTアート取引は、電気通信回線(インターネット)を介して著作物(デジタルアート)が提供され、またその利用許諾に係る取引もされる(=NFT保有者に利用を許諾する)から、「電気通信利用役務の提供」に該当するようにも思える。

FAQに対する疑問

個人作家が「役務の提供」をしている?

個人的には、NFTアート取引が直ちに「電気通信利用役務の提供」に該当するといえるかは疑問をもっている。
というのも、この「電気通信利用役務の提供」は、そもそも書籍や音楽のインターネット配信サービス等を想定して平成27年に新設されたものである[※1]。

※1 佐藤英明・西山由美『スタンダード消費税法』164頁以下参照。国境を越えたコンテンツ配信サービスでは、従来の規定では提供者が国内事業者か国外事業者かで内外判定の結果が異なっていたところ、競争中立性を確保する観点からこのようなサービスを「電気通信利用役務の提供」と類型化して、内外判定の結果を統一するために立法化されたものである。

音楽やメタバースなどのデジタルコンテンツを配信・提供するサービスを展開する事業者であればともかく、NFTアート取引をする個人作家の場合、一般的には、委託を受けずに著作物を制作し、制作した著作物をNFT購入者に利用させることを認める(利用を禁止しない)というものに過ぎず[※2]、個人作家がデジタルアートをユーザーの要求に応じて積極的にコンテンツを配信するサービスや、作家のサーバーにアクセスさせる環境を提供するものではないだろう。
このような、コンテンツ配信サービスを業としているとはいえそうにない個人作家まで、この「電気通信利用役務の提供」に含められるのだろうか。

※2 著作物の利用の許諾の実体は不作為の合意である。中山信弘『著作権法(第3版)』528頁。

著作物の利用取引は「資産の貸付け」と解されてきた

「電気通信利用役務の提供」の定義規定である消費税法2条1項8号の3では、「電気通信回線を介して行われる役務の提供」であっても、「他の資産の譲渡等に付随して行われる役務の提供」は除外されている。
これは「電気通信利用役務の提供」が「役務の提供」の特則であるところ、「資産の譲渡等」の過程でインターネットが利用されることが多いことに鑑み、「資産の譲渡等」(特に「役務の提供」)でインターネットが利用される場合のすべてが「電気通信利用役務の提供」に該当するものではないことを注意的に確認したものと解される。

この点、「著作物の利用の許諾に係る取引」は、「著作物を利用させる行為」として「資産の貸付け」に該当すると解されてきた[※3]。
そして、著作物の貸付けを行う場合に当該著作物の受け渡しがインターネット等を介して行われたとしても、「著作物の利用」という「資産の貸付け」に付随してインターネット等が利用されたものであり、このような場合は、「電気通信利用役務の提供」に該当しないとされている[※4]。

※3 消費税法基本通達5-4-2(2)参照。
※4 国税庁消費税室「国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税に関するQ&A」(平成27年5月(平成28年12月改定))。

このような(従来の)国税庁の見解からすると、FAQのようにNFTアート取引を「著作物の利用の許諾に係る取引」と捉えると、たとえそれがインターネット上で行われていても、それは「電気通信利用役務の提供」ではなく、「資産の貸付け」に該当するのではないかという疑問が生じる。

FAQの問題点
(著作物の利用許諾取引を「電気通信利用役務の提供」としている点について)

FAQがNFTアート取引を「電気通信利用役務の提供」に該当するとした理由として、「電気通信回線を介して行われる著作物の利用の許諾に係る取引」であるという点が挙げられそうである。

たしかに、「電気通信利用役務の提供」は、条文上「著作物の利用の許諾に係る取引を含む」と規定されているから、NFTアート取引を著作物の利用許諾取引と捉えればこれに当たりそうな気もする[※5]。

※5 DHC『コンメンタール消費税法』(法第2条第1項第8号の3)には、「(電気通信回線を介して行われる)著作物の利用の許諾に係る取引は、役務の提供に該当することが明確になっている。」と記載されており、本文のような見解を示しているようにも読める。

しかし、「電気通信利用役務の提供」は、「電気通信回線を介して行われる役務の提供」という、資産の譲渡等のうちの「役務の提供」の特殊類型として新設されたものであり、「電気通信利用役務の提供」に「著作物の利用の許諾に係る取引を含む」と規定されたのは、次のような理由による。

すなわち、いわゆるコンテンツ配信サービスでは、ユーザーに対してコンテンツにアクセスし視聴等ができるようにする役務を提供しているところ、視聴等の過程でユーザーのデバイスに複製等がされることがあり、これが形式的には著作権(複製権等)の侵害にあたる。
そのため、配信サービスにおいては、サービスの提供に必要な範囲で複製等の利用を許諾することになるが、従来、著作物の利用に係る取引は「資産の貸付け」に該当するとされていたことから、配信サービスが「電気通信利用役務の提供」なのか「資産の貸付け」なのかが不明確になる。
そこで、このような「役務の提供」に付随して著作物の利用許諾が行われる場合は、利用許諾取引は「役務の提供」に包摂され、全体として「電気通信利用役務の提供」に該当するということを注意的に規定したというべきである[※6]。

※6 政府税制調査会・国際課税ディスカッショングループ資料(2013年11月14日)「国境を越えた役務の提供等に関する消費税のあり方について[財務省説明資料]国境を越えた役務の提供等に対する消費税の課税の在り方に関する研究会報告」参照。

つまり、ここでいう「著作物の利用の許諾に係る取引」は、コンテンツ配信等の「役務の提供」の存在を前提としており、「役務の提供」なく単にインターネット上で著作物の利用許諾に係る取引を行う場合は、「資産の貸付け」に該当すると解されるのである[※7]。

※7 このように考えると前掲・国税庁消費税室のQ&Aとも整合性がある。

条文上も、正確には、「当該著作物の利用の許諾に係る取引を含む」とあり、ここでいう利用許諾取引が「電気通信回線を介して行われる著作物の提供」という「役務の提供」で提供される著作物に係るものであることを意味していると思われる。
要するに、インターネット上で著作物の利用許諾取引が行われても、「著作物の提供」という役務の提供がなければ「電気通信利用役務の提供」に該当しないのである[※8]

※8 この点は、「著作物の提供」は必ずしも著作権者でなくても実施可能であることを想定すれば理解しやすいだろう。

八の三 電気通信利用役務の提供 資産の譲渡等のうち、電気通信回線を介して行われる著作物(著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)第二条第一項第一号(定義)に規定する著作物をいう。)の提供(当該著作物の利用の許諾に係る取引を含む。)その他の電気通信回線を介して行われる役務の提供(電話、電信その他の通信設備を用いて他人の通信を媒介する役務の提供を除く。)であつて、他の資産の譲渡等の結果の通知その他の他の資産の譲渡等に付随して行われる役務の提供以外のものをいう。

消費税法2条1項

以上から、FAQのようにNFTアート取引を「電気通信利用役務の提供」であるというためには、NFT作家が「資産の貸付け」を越えた「著作物の提供」という「役務の提供」を行っていると言えなければならない。
しかし、FAQを読む限り、作家の提供役務の有無について検討されているとは言い難い。よって、FAQには(結論はともかく、)理由付けに問題があると言わざるを得ない(省略したのかもしれないが)。

NFTアート取引は「電気通信利用役務の提供」か「資産の貸付け」か?

さて、FAQの論理的欠陥はさておき、個人作家が行うNFTアート取引は「電気通信利用役務の提供」と「資産の貸付け」のいずれに該当するというべきだろうか[※9]。

※9 秋山高善『消費税法における著作権の譲渡又は貸付けと著作物の提供の区分問題』中央大学商学論纂59-5.6では、どのような行為が「電気通信利用役務の提供」に該当するかは現時点(2018年3月時点)では明確な区分ができないと指摘しているが、それでは実務上困るので、あえて考察に挑戦してみる。

まず、議論の前提を整理すると、「資産の貸付け」には、電気通信利用役務の提供に該当するものを除く、資産を使用させる一切の行為が含まれ(法2条2項)、従来、著作物を利用させる行為は、著作物という「資産」を「使用させる」ものとして、「資産の貸付け」に当たると解されてきた。
そして、条文の文言解釈としても、著作物の貸付けを行う場合に、当該著作物の受け渡しがインターネット等を介して行われたとしても、「著作物の貸付け」という他の資産の譲渡等に付随してインターネット等が利用されているものであるから、「電気通信利用役務の提供」に該当しないと解される。

そうすると、著作物の利用許諾に係る取引が「電気通信利用役務の提供」に該当するか、それとも「資産の貸付け」に該当するかは、結局のところ、「著作物の提供」という「役務の提供」を行っているかどうかで決せられることになると考えられる。

「著作物の提供」とは?

では、この「著作物の提供」とは何か。
著作権法の世界で「著作物を提供する」といえば、提供者が著作物を「有形的に利用」することをいうが[※10]、取引を課税対象とする消費税においては、「利用」は有形・無形を問う必要はない。
そして、著作物の本質は情報である[※11]というのが著作権法の世界の一般的な考え方であることから、その「利用」の本質は、情報の享受にあると考える。
したがって、著作物の「利用」とは、著作物という情報を自ら享受し、又は他人に享受させる行為をいい、消費税法にいう「著作物の提供」とは、それが取引(対価を得て相手方に対して行う役務の提供)であることに鑑み、特に後者を意味することになろう。
つまり、消費税法にいう「著作物の提供」とは、著作物の内容たる情報を他人に享受させる行為をいい、これがインターネットで対価性を伴って行われる場合は、「役務の提供」たる「著作物の提供」に当たると解する。

※10 前掲・中山・245頁参照。なお、著作権法19条1項の「提供または提示」は、特段の理由がない限り著作権(支分権)の対象行為に限定されない(最高裁判所令和2年7月21日判決(リツイート事件))と解されている。
※11 前掲・中山・21頁。

「電気通信利用役務の提供」と「資産の貸付け」の見極め方

ところで、著作物の利用許諾取引では、対象著作物を既に利用者が取得していない限り、著作権者(利用許諾者)から利用にかかる著作物を提供されることが通常であり、現代ではデータ形式でインターネット等を通じて授受がされることも多い。

上記の解釈からすれば、インターネットを介して著作物のデータを渡す場合は「著作物の提供」に該当する。
しかし、利用許諾取引に付随するこの「著作物の提供」は、著作物の利用という「資産の貸付け」に付随する行為として「電気通信利用役務の提供」から除外されるというのが国の見解であった。つまり、利用許諾取引において行われるインターネット上の著作物の授受は、著作物という情報を他人に享受させるものとして「著作物の提供」には該当するが、「資産の貸付け」に付随するものであるから、「電気通信利用役務の提供」には該当しない、という理解になる。

ということは、同じようにインターネットで利用許諾を含めて著作物が提供されても、それが「電気通信利用役務の提供」に当たるかは、当該取引が、「(利用許諾取引を含む)著作物の提供」なのか、それとも「(付随して著作物の提供がされる)著作物の利用許諾取引」なのかで判断されるべきこととなる[※12]。
別の視点からいえば、NFT購入者の支払う対価が「著作物の提供」に対するものか、「著作物の利用許諾」に対するものかで区別されるということもできる。

※12 なお、条文上、「資産の貸付け」の対象から「電気通信利用役務の提供」に該当するものが除外されているが、「資産の貸付け」に付随する著作物の提供は「電気通信利用役務の提供」から除外されているので、結局、本文のような整理になろう。

アクセス環境による判断は合理的か?

実際の事案において、NFT購入者の支払う対価が「著作物の提供」に対するものか、「著作物の利用許諾」に対するものかを判断することは難しい。

立法経緯からすると、「著作物の提供(利用許諾取引を含む)」とは、ユーザーに対してコンテンツに「アクセスし視聴等ができるようにする役務」が想定されている。
このアクセス環境の構築に着目し、例えば、ユーザーのアクセスに応えて著作物が提供される場合は「著作物の提供」に該当し、具体的なアクセスを前提とせずに(例えばメールでの提供依頼に応える形で)ユーザーに著作物が提供される場合は単なる「著作物の利用許諾取引」に該当するという考え方もあり得る。

しかし、NFTアート取引でアート作品をどのようにNFT購入者に提供するかは取引ごとに異なり得る。個人作家がNFTアート取引を行う場合でも、NFT購入者に著作物のサーバーデータへのアクセス権を付与しダウンロードさせるような場合もあれば、NFT購入者に個別にデータを送信する場合もあるだろう。
そのような場合に、前者は「電気通信利用役務の提供」に当たり、後者は「資産の貸付け」に該当するというのは、結論の合理性に欠けるように思われる。

かといって、出展の規模やデータの提供方法にかかわらず個人作家のような場合は単なる「資産の貸付け」に過ぎないのだと比較的一律に解するのが妥当かと問われると、疑問もある。
すなわち、例えば、個人作家が大量のポートフォリオ(作品群)を有している場合に、作品ごとに個別にデータを提供するからといって単なる「資産の貸付け」の集合であると評価して良いかは疑問である。
特に、それが非独占的に出品されるような場合は、個人作家とはいえ、より「電気通信利用役務の提供」が想定していた配信サービスに近づくのではないだろうか。

「著作物」の享受か、「著作権」で保護される行為か

前述のように「著作物の提供」の本質は情報の享受であり、「著作物の提供」は対価を伴う「役務の提供」として課税対象とされるものである。そこでは、ユーザーは、視聴等の情報享受それ自体を目的としており、それは自己完結的行為である(そのため、情報の享受行為自体は、著作権の守備範囲外である。)[※13]。

※13 著作権は、情報の流通をコントロールする権利であり、他者への情報の享受を直接コントロールするものではない。例えば、著作権法は、著作物の視聴行為を禁ずる規定を置いておらず、あくまで、視聴に資する複製やアップロード等を禁止する権利を規定するにすぎない。つまり、他者への情報の享受のコントロールは、あくまで情報の流通をコントロールした結果である。

他方、著作権法63条の「著作物の利用許諾」は、ユーザーにおいて自己が情報を享受することを越えて、当該著作物を物理的に活用することを目的とするものであり、それは本来的に、自己利用行為にとどまらず、第三者に提供・提示して情報を享受させること、すなわち情報を流通させることも含むものである[※14]。

※14 著作物の利用許諾(著作権法63条)は、著作権の不行使約定であり、著作権の守備範囲外の行為に対しては、原則として許諾は必要ない(不法行為の成否はともかく)。

つまり、「著作物の利用許諾」が「資産の貸付け」となるのは、自分自身の情報の享受を越えて、著作権法で本来的に禁止される情報流通行為の適法化を目的とし、その対価として代金が支払われる場合を意味する。
そうだとすれば、ユーザーの視点から見て、情報の享受それ自体に対価を支払っているのか、それとも情報流通行為の適法化に対価を支払っているのかという主観的事情及び、利用規約等で当事者がそのような法律関係の創出を意図したといえるかという客観的事情に基づいて、「どんな利用の対価として代金が支払われたのか」が重要なポイントになるように思われる

実際の事例では、もちろん具体的な取引内容によって個別に判断されるものであるが、簡単にいうと、ユーザーが、
①視聴等という情報の自己享受が目的でその対価を支払っている場合(事業者からすれば、取引相手に視聴等をさせる役務を提供するにとどまる場合)は「電気通信利用役務の提供」であり、
②著作権対象行為を適法に行うために対価を支払っている場合(事業者からすれば著作権不行使という不作為の代償として対価を受領する場合)は「資産の貸付け」に当たる、
と一応考えられそうである。

これは、感覚的にいうと、情報という「著作物」そのものの価値を消費するのか、流通権という「著作権で保護された権利」を消費するのかを判断基準とするものである[※15]。

※15 消費税の世界では、「著作物」と「著作権」が混同されているように思われる。例えば、前掲の国税庁消費税室Q&Aでは、「著作権・著作隣接権という資産の譲渡又は貸付け」と記載されている。
著作権という権利は譲渡の対象になるので、「資産の譲渡」はありうるが、利用許諾の場合「著作権」を貸し付けるものではなく、「著作権」を行使しない約定で「著作物」を利用させるというのが正しい表現だろう(これを「著作物」を「貸し付ける」と表現するのが正しいかはともかく。)。

NFTアート取引は「資産の貸付け」になりそうだが……

以上からすると、典型的なNFTアート取引では、NFT保有者に著作物の利用を許諾すると明記されることが多く、(NFT購入者の主観はともかく)客観的にみるとNFT購入者は必要な範囲で複製・公衆送信等の情報流通行為が可能となり、かつその対価としてNFT購入代金を支払っているといえるから「資産の貸付け」に該当するといえそうである。

他方、例えば、メタバースやゲームアイテムなどのNFT取引は、基本的にはメタバースやゲームといった提供者が用意するコンテンツの内部だけで提供され利用できるものであり、当該コンテンツを超えて複製や公衆送信等をすることが予定されていない。
よって、こういったタイプのものは「著作物の提供」として「電気通信利用役務の提供」にあたるといえそうである。

FAQを善意解釈する余地

そうすると、NFTアート取引を「電気通信利用役務の提供」としたFAQは誤りだ、となりそうである。
しかし、FAQが公開されている以上、実務家としては、これに真っ向から反対するのも現実的ではない。そこで、FAQの結論を正当化するロジックを考えてみる。

「電気通信利用役務の提供」と「資産の貸付け」の決定的違いは内外判定にあり、前者は消費者の住所地等となり、後者は資産の所在地(事業者の住所地とする[※16])となる。仮に、NFTアート取引が「資産の貸付け」だとすると、国内事業者であれば世界中の誰にNFTアートを譲渡しても日本の消費税の課税取引になるが、逆に、国外事業者が展開するNFTアート取引は不課税取引となる。

※16 「資産の貸付け」の内外判定は、「当該資産が所在していた場所」である。著作物の利用許諾取引における「資産」は「著作物」であって「著作権」ではないから、施行令6条1項7号の適用はない。そして、著作物がデータの場合に所在地の判定が困難なこと(クラウド等が一般的になった現在、サーバーの所在地をもって判断するのは現実的ではない)から「所在していた場所が明らかでないもの」として、貸付けを行う者の事務所等の所在地が基準となる(令6条1項10号)。

また、もし、メタバース等のコンテンツサービスを提供する事業者のNFT取引が「電気通信利用役務の提供」に当たり、他方で、一般的なNFTアート取引が「資産の貸付け」に当たるとすると、同じような「NFT取引」という、世界を市場としたインターネットによるデジタルコンテンツの越境取引であるにもかかわらず消費税の課税・不課税が異なることになる。

前述のように、平成27年に新設された「電気通信利用役務の提供」は、国境を超えるインターネットを活用したサービスや無形資産の提供(越境サービス)に関する課税関係の適正・明確化が目的である。越境サービスについては、従来は、徴税技術上の問題から、役務提供者の住所地国に課税権があるという原産地主義が事実上採用されてきたが、それでは越境サービスの競争中立性を害することから、消費税の基本発想に忠実な仕向地主義を徹底するよう仕組みを変化させてきたというのが世界の流れである[※17]。
日本の平成27年改正による「電気通信利用役務の提供」も、基本的にその流れを汲むので、同文言の解釈にあたっては、世界の消費課税にかかる仕向地主義の徹底への流れを考慮する必要があろう[※18]。

※17 沼田博幸「消費税の仕向地主義への意向」税務弘報2015.5月号40頁、西山由美「越境取引と消費税」租税法研究第49号41頁参照。
※18 原産地主義か仕向地主義かという点は、結局のところ、越境取引においてどの国が課税権を有するかという問題であるから、理想的には国際的にみて整合性のある解釈が求められるべきであり、EUやOECDの議論は日本の内外判定の解釈にとっても考慮されるべきだろう。

この仕向地主義の徹底の流れは、「サービスや無形資産の取引には税関がないが、どうしたら適正・公平に課税できるか」という問題意識から生じたものである。換言すれば、「税関がないサービスや無形資産の越境取引に適切に課税するためには仕向地主義によるべきである」ということである。また、この仕向地主義の徹底は、消費に消費税を課すという消費税の本質に沿うことにもなる[※19]。

※19 前掲・西山・45頁参照。

いかにNFTアート取引が多様であれ、「世界をマーケットに国境を越えてデジタルデータが取引される」という性質は共通するから、仕向地主義を適用していくというのが今後世界の主流となるだろう。
また、NFTアート取引の課税関係を一律明確にすることも実務上は重要な要請である[※20]。

※20 大石篤史=増田雅史=間所光洋=緒方航=原田昴「私法上の法律関係に即した課税論から国税庁「NFTに関する税務上の取扱いについて」を読み解く」NBL第1242号・39頁は、FAQ問11について、「当該取引が『資産の譲渡又は貸付け』(消費税法4条3項1号)に該当するかを検討する必要はないこと等を明らかにした」とする。もっとも、本稿に述べたように、個人的にはこのFAQを盲信していいか疑問を抱いている。

以上の点を考慮し、それまでの議論は一旦置き、「電気通信利用役務の提供」にいう「著作物の提供」は、およそインターネット上で有償で情報が提供される場合を広く含む[※21]、と解することも、必ずしも否定されるものではないだろう。
ただし、そうなると、従来の「資産の貸付け」に関する議論は今一度見直す必要があり、従来から行われてきた「資産の貸付け」としてのインターネットを利用した著作物に係る取引に及ぼす影響が大きいと思われる。

※21 このときの対価性は比較的緩やかに認定されるだろう。

おわりに

日本の消費税法は、現在のところ「役務の提供」のうち「電気通信利用役務の提供」に限って仕向地主義を徹底することにしたが、上記の趣旨や背景からすれば、デジタルな著作物の利用にかかる取引は、原産地主義である「資産の貸付け」ではなく仕向地主義である「電気通信利用役務の提供」に該当すると考えていく流れが予想される。
しかし、解釈論としてはやはり限界がある。日本の消費税が「関税なきサービス・無形資産の移転」に仕向地主義を徹底していくためには、立法的な解決が求められる。
以上、前後編に分けてFAQを検討したが、筆者自身まだまだ勉強不足である。今後の議論の蓄積と自分の努力に期待したい。

(弁護士 日隈将人)

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