運転中は常に平常心を心がけろ!
この仕事で一番悔しいのは、乗車希望のお客さんの見落としです。ずっと流しの営業を続けているとつい気が緩み、せっかくのお客さんの横を通り過ぎてしまうことがあります。見落としは1乗務あたりどうしても3、4回は出てしまうものですが、少しでも減らせるよう、できるだけ集中力を切らさないことが大切です。
お客さんは、普通は手をあげて運転手に合図しますが、なかには奥ゆかしいのかアイコンタクトで合図する人もいます。運転手を始めた当初はそれがよくわからず、お客さんを逃すことが多々ありました。「しまった!」と、あわててバックミラーで確認すると、次に来たタクシーに乗車する姿が見え、その瞬間ほど悔しいことはないのです。この教訓から僕は、「お客さんかな?」と感じたときはとりあえず横に停車し、ドアを開けるようにしています。もちろん勘違いのケースも少なからずあります。でもその恥ずかしさをこらえてやり続けることで、見落としの数を減らすことができました。
見落としの次に悔しいのが、ほかのタクシーにお客さんを奪われることです。運転手同士が穏やかなつけ待ちとは異なり、流しの走行はまさに戦場です。油断して歩道側の車線を空けるような隙を見せてはいけません。内側の車線を走っていた場合、こちらが先にお客さんを見つけようが、歩道側の車線を猛スピードですっ飛ばし、先にお客さんを乗せてしまうような輩が少なくないのです。
実は、運転業務で直面するトラブルもお客さん相手より運転手同士のケースが圧倒的に多いのです。道を走っているとお客さんの奪い合いや割り込みが原因で車を降りて喧嘩している運転手たちの姿をよく目にします。タクシーが絡んだ事故も、タクシー車両同士の接触事故の割合が少なくありません。
ただでさえ都内の道は渋滞が多く、マナーの悪い運転に出くわすなどストレスが溜まります。それを溜めずに如何に発散させていくかが、この仕事を楽しく続けるためのコツです。ほかのタクシーにお客さんを奪われたり、割り込まれたりしてもイライラせずに「次行ってみよう!」という大きな心で向き合えば、自然と流れも自分に向いてきます。僕はタクシー運転手をやったことで心に余裕を持つことを覚え、人間的にも成長できたと思います。