あるタクシー運転手の格言『赤で進むのは良くない、青で進むのが一番だ』
タクシー運転手からは時たま格言が生まれる。
タクシー運転手以前の経験、タクシー運転手になってからの経験、
失敗を経験した者が就くというイメージも少なからずあるこの職業には
それらの経験の中で生まれた格言が多くの人間を納得させ、少しだけ困惑させる。
そんな、一度は聞いておきたいタクシー運転手の格言を紹介していく。
今回は「静岡県、美子さん(仮)、48歳」が頂いたという格言を紹介。
美子さんはタクシーに乗る度に、運転手さんが嫌がらないのであれば会話を自分からするそう。
そして、その時に毎回聞くというのが「タクシー運転手として大切にしていることは?」という質問。
この返事を聞いた後、とぼけて返す運転手さんもいれば真面目に返す運転手さんもいてそれがタクシーに乗る際の楽しみの一つだとか。
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いつものように駅から家までのタクシーに乗った時のことです。
駅から家までは少々坂道を登らなければならず、いつもタクシーを利用しています。
その際、必ず「タクシー運転手として大切にしていることは何ですか?」と聞きます。
最初は会話を続けるために聞いていたのですが、色んな運転手さんに聞くたびに違った返事があって面白かったので、今ではそのためにタクシーに乗っているとも言えます。
今日はそのうちの一つをお伝えします。
その運転手さんのタクシーに乗った時、最初から気になるモノがありました。
運転手さんのお名前です。
助手席の前のボードに置いてあるカードには「桃下護」とありました。
なんとなくあまり聞かない名前だとは思ったのですが、最初から名前について聞くことはせず、いつものようにのんびり会話をしていました。
(運転手さんへ名前公開了承済)
運転手さんの「桃下」さんは丁寧でゆっくりとした口調で
墨汁と筆で文字を書いているかのように、間違えば違う半紙に書き直さなければならないプレッシャーがあるように、あの傾注した雰囲気で話します。
「私はいつも、朝起きて、こうやってお仕事して帰るんです」
「お客様をお乗せしているときが、一番、お仕事をしている瞬間ですかね」
ところどころ、変わった運転手さんだなと感じることはありましたが気になるほどではなく、いよいよいつもの質問の時が来ました。
「運転手さんがタクシー運転手として『これだけは大切にしている』ってことはなんですか?」
と聞いたら、3秒ほど黙って
「『赤で進むのは良くない、青で進むのが一番だ』ってことでしょうかね~」
「. . . . . ほー、うん、. . .確かに、信号は守らないと事故の元ですものね」
間違ってはいません。運転手さんは何も間違ったことは言っていません。
でも、でも何故か気になるんです。
何かがあるんだけど何もない。
鼻が詰まっているのに噛んでも噛んでも鼻水が出ないような、なんだか分からない感覚になるんです。
それで、二言三言前の質問を頭のなかで遡ってみました。
「私はいつも、朝起きて、こうやってお仕事して帰るんです」
この言葉は「いつもはどんな感じでお仕事されているんですか?」に対しての返事でした。
もしかしたら私の聞き方がざっくりとし過ぎたせいで、運転手さんもざっくりと返したのかもしれません。
「そうですね、お客様をお乗せしているときが、一番、お仕事をしている瞬間ですかね」
この言葉は「最近はお客さんが減ってるって聞きましたけど、お仕事大変じゃないですか?」に対しての返事でした。
たぶん、お客様というのはその時の私を指していて、他のお客様をお乗せすることが減ったから私を乗せしている瞬間であり、今がお仕事している瞬間だと言いたかったのだと、私は解釈しています。
そして、最後の言葉を聞いて少し考えてみました。
『赤で進むのは良くない、青で進むのが一番だ』のお返事で何故気になっていたのか分かりました。
運転手さんは、当たり前のことを当たり前じゃないような、とても大切なことのような雰囲気で堂々と丁寧に仰るものですから、納得感と内容がマッチしないのだと思います。
もちろん間違いではありません。
でも「赤で進むのは良くない、青で進むのが一番だ」って
基本中の基本で、まさかそんな答えが返ってくるとは思いません。
その瞬間は納得感というか「お~、なるほど~」と思って「ん?」となってしまう。
聞いただけではその中身に気付きませんでした。
それだけ納得させる言葉の力を持っているのですから、
きっとこの運転手さんに名言を言わせるとスーッと心に入って来るんだろうなと思いながらまた一つ思い出になる時間でした。
今回も良い出会いでした。
追伸
聞き忘れていた運転手さんのお名前ですが、降りる際に伺ってみると、
「桃下護」こう書いて「ももしもまもる」と呼ぶそうです。
もしかしたら、この名前を聞いた時が一番ビックリした瞬間かもしれません。
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以上が「静岡県、美子さん(仮)、48歳」の頂いた格言のお話でした。
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