詩「思い出って所詮それ程度」
さて
ふと 過去を思い返せば ぼんやりとした記憶が蘇ってくるわけで
はちみつの匂いがする石鹸とか
まあまあ派手に焦げたパンとか
暑くて何もする気になれなかった夏とか
路地を歩いていたあの猫とか
もう帰ってこない あなたの声とか
鍵が二つ あるわけで
コップも 歯ブラシも あるわけで
過去に縋る僕を見ても
あなたは 僕を思い出せなくて
思い出って所詮それ程度なわけで
かしこまって 書いてみても
あなたの顔もぼんやりとし始めているわけで
あなたの名前もぼんやりとし始めているわけで
電柱のカラスが 僕を薄情な人間だと笑っているわけで
さて
僕は 今日も あなたの帰りを待っている