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ツバメたちの巣立ち

うちの巣箱で生まれたシジュウカラは、数日前、いつの間にか巣立っていた。
「なんだ、あいさつもしないで」
母が寂しそうにぼやく。
毎日シジュウカラのヒナを狙っていたスズメたちも、ぴたっと来なくなった。

車庫に巣を作って住み着いたツバメたちも、ついに巣立ちのときが来た。卵のカラを見つけた7月3日から、きっかり3週間後のこと。

朝、2階の部屋にいた私の耳に聞こえたのは、すごくたくさんの鳥の声と、母の叫び声。

これは何かあった。
ツバちゃんたちが天敵にでも襲われたか。

慌てて窓を開けると、20羽前後のツバメたちが我が家の庭を飛びまわっていた。どうやらご近所中のツバメファミリーが合流したらしい。

母はそれを見上げて歓声を上げていた。愛犬たちも、飛びまわるツバメたちを見上げていた。これだけの数は見たことがない。

真っ青な空。朝の強い日差し。
雨上がりのキラキラした世界に、我が家の車庫で生まれた5羽のヒナたち――と、ご近所中のツバメたちが、飛び立った。

車庫で愛犬の散歩の準備をしていると、ツバメが1羽戻ってきて、巣を見ていた。

「忘れ物はないか」
声をかけると、スイッと外へ出ていった。忘れ物はないらしい。

すぐに旅立つのだろうか。
飛ぶ練習をしばらくするのだろうか。
自分でエサを取れるようになったのだろうか。
きっとこの何世帯ものツバメファミリーたちが、合同で集中教育しているんだろうな。

もう巣には戻ってこないのだろうか。
頑張れよ、と応援しつつ、ちょっと寂しい。

「今まで番犬してくれてありがとね」
愛犬オオキイノ(ゴールデンレトリバー)を抱きしめる。卵をあたため始めてから、オオキイノには毎晩車庫で寝てもらった。

夜中にネコの鳴き声がして跳ね起きたことがあるが、その一度だけで、今年はネコの襲撃を防ぐことができた。

この日、雨が降ったりもしたが、ツバメたちはもう巣に戻ることはなかった。

でも飛びまわって疲れたのか、夕方、車庫に設置した止まり木にズラッと4羽、とまっていた。1羽足りないが、こんなに慣れた様子でいるのは絶対にうちの子たちである。

しばらくして4羽が外へ飛び立ったあと、遅れて1羽が車庫の窓から窓へと通過していった。はぐれるなよ、と手を振って見送る。

  *

翌朝、外からまた母の歓声。
見ると、庭の電線に、5羽並んでとまっていた。
もうコレ絶対にうちの子たち。
かわいくてしょうがない。

そこへ親鳥が入れかわり立ちかわりやってきて、順番にエサを与えていく。どうやらヒナたちは、まだ自分でエサをとれないらしい。親は大変だ。

この日も飛び方練習をしていたようで。ツバメの大群は、あちこち場所を移してビュンビュン飛びまわっていた。

夕方、愛犬たちの散歩をしていたら、またまた母の歓声が上がった。散歩道にある電線に、ツバメが5羽、並んでいた。絶対コレうちの子たち(笑)。

そしてまた親鳥が来て、エサを与えていた。あの子たち、ちゃんと自分でエサを捕まえるようになるのだろうか。ちょっと心配である。

でもそれまでは、まだ旅立たずにいてくれるのかな。いやいや、案外明日になったら、みんないなくなっているかも。……寂しくなるな。すっかり親心が染みついてしまった。

元気でね。
無事に旅ができますように。

「……待てよ。もしかして来年、あの子たちパートナー連れて戻ってくるのかもしれないね」
「えー! 困るー!」

来年のツバメハイツへの入居をどうしたものか、今から思い悩む私と母であった。


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