「虫の知らせ」は意外と科学的な話かもしれない
何年前のことか忘れたが、本のタイトルか何かで、「あと何回親に会えると思いますか」といった感じの言葉を見てハッとしたことがある。
他県在住の姉は、多くても、ゴールデンウィークと盆暮れ正月×何年か。
当時嫁いでいた私も、親と同じ町内に住んではいたが、意識して会いに行かなければ案外足が遠のくものである。親が元気であれば、意識することすら薄らいでゆく。
だから私はそれ以来、虫の知らせのようにちょっとでも気になったら、すぐ会いに行くことにした。
虫の知らせというのは案外ばかにできない。スピリチュアルなことではなくて、多分、科学的な意味で。
それはラジオのチャンネルなようなものだと、昔何かで聞いたことがある。身内同士であれば周波数が近いから、虫の知らせを受信しやすいのだと。
それだけ聞くと、やっぱりスピリチュアルでは、と思ってしまう。でも量子力学の世界では、この世界に存在するすべてのものは皆粒子であり、振動して、それぞれ固有の周波数を出していて、波動性があって――てな感じらしいので、だとしたら「身内同士は周波数が近い」って話はわりと本当なのでは、と思った次第である。
そうなると試したくなるので、虫の知らせらしきものを感じたらすぐすっとんで行くことにした。――それにいくら元気とはいえ、当時すでに「いつ何があってもおかしくない」年齢に親はなっていたので、内心不安も抱いていた。
実家へすっとんで行くと、父は不在、母は畑仕事をしていた。
「あら、どうしたの」
陽気に尋ねる母。虫の知らせ、空振りか。
「あのさ。今日、なんかあった?」
ダメ元で母に聞くと、母は驚いて手を止めた。
「なんでわかったの?」
「え、マジでなんかあったの?」
聞いた私の方が驚いた。
「そういやお父さんいないけど、まさか入院でもした?」
「入院? するわけないっちゃー。ちょっと顔出しに行ってんのよ。私たちの同級生の奥さんが亡くなってねぇ……。脳梗塞だか脳卒中だか、とにかく頭のアレで、いきなりだったのよ。本当あっという間」
どうやら今回の虫の知らせの受信は、ちょっとずれていたようだ。
「やだーん! 同世代が亡くなるとショックー! ショックだわー!」
あるいは母の嘆きをキャッチしたか。
この奥様を亡くされた同級生さんは、今年うちの父が脳梗塞で亡くなったとき、お焼香に来てくれた。
「本当、あっという間だったのよね……」
父の遺影の前で語る母に、わかるよ、と言った同級生さんのその言葉は、心からの言葉だったと思う。
もしかしたら母の悲しみの周波数を、この人も受信していたかもしれない。