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幸せの雨が降る島。2泊3日の壱岐の旅。
1月の平日。有給をとって熊本から壱岐へ一人旅してきました。素敵な景色や人とたくさん出会えたので文章にまとめました。最後に簡単な旅情報も載せてますので、これから壱岐に行こうという方は参考に(なれば)してください!
EP1:油絵を描きたい漁師のいる島
島の北にある勝本港で漁船の写真をスマホで撮っていたら、「そんなの撮って面白いのか?」と声をかけられる。漁師、もしかしたら船の持ち主かもしれない。70代くらいのおっちゃん
「はい。とってもいい景色だと思いますよ」住んでいる方には当たり前かもしれませんけど。そんな気持ちを込めて伝えると、何か様子がおかしい。僕は何か間違えたのだろうか。
「あんた、絵は描くのか」
おっちゃんはそんな事を聴いてくる。いえ、絵心は全くなく。
「俺もなんだけどさ、俺、油絵始めようかと思って」え、おっちゃんが?めっちゃいいじゃないですか。
「これ、見てくれてよ」
おっちゃんは大きなスマホをスクロールして、絵を見せてくれた。漁港から見える島を描いた、素朴な水彩画。あ、いいじゃないですか?誰が描いたんすか?
「俺だよ、俺」
あ、おっちゃん。自分の話がしたかったんだ。僕は楽しくなってくる。展覧会とか出さないんですか?
「でもよ、俺より上手い絵を見ると、やる気無くなっちゃうんだよ」
あ、その気持ちわかります。じゃ、家に飾るしかないですね。
おっちゃんは、我が意を得たりという風に頷く。これはすでに飾っているな。
おじさん、今も海に出てるんですか?
ていうか僕が撮影してたのおじさんの船?
「そうだよ。でもイカがさ、今年は全然なんだよ。海水が暖かくてさ」
漁の話が続くかと思えば、「スケッチはいいんだけどさ、絵の具塗るとダメになっちゃうんだよ」と絵の話に戻る。
わかりますよ。僕もそうでした。でも、油絵なら重ね塗りできるから、いいんじゃないですか?またしても我が意を得たり、いただきました。
そんな話をしてたら、話はまた急角度で変わる。「この前、フジテレビの社長の会見があっただろ」
え?その話に行く?
「あの社長の後ろに飾ってた、富士山の絵、イマイチだったな〜」
ええ!あの会見で絵を見てたの!
僕は、めっちゃ笑う。
そんなの、おっちゃんくらいですよ!
そうか?
と三度目の満更なおじさん。
壱岐には油絵の絵の具が売ってないんだよ。おっちゃんはそんな事で悩んでいた。水彩とかアクリル絵の具はあるんだけどさ。
Amazonとか通信販売で注文すればいいんじゃないですか?
お、その手があるか、おっちゃんはそんな顔をした。ていうか島で絵の具を探してる姿を想像して、微笑ましくも思った。
少しすると満足したのか、おっちゃんは船の仕事に戻っていった。車の後ろには、大物のブリのような魚も見えた。今日はいい日だったのかな。
油絵を始めようかと悩む漁師のいる島。とっても素敵だと思いました。旅はもう少し続きます。
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EP2:油ぎったオジサンを食す?
「そうですか、熊本からですか」
イカ丼を食べに入った店の女将さんが言う。
「熊本、地震ありましたよね」
そうですね。もう今年で9年になります。
「壱岐はね、災害な〜んにもないんですよ。大雨とか地震とか、何もこないの」女将さんは無邪気に自慢する。
明るく人懐っこい、壱岐の人たち。そういった気質の、それは源なのかもしれない。羨ましくもなる。
でも、めっちゃ昔に超弩級のやつ来てますよね。元寇が。僕は心の中でそう思ったけど、言わずにおいた。島のあちこちには、元寇の遺跡があった。マンガ「アンゴルモア」を読んでたから、港から海を見た時に、この小さな島にモンゴルの大船団がやってきた時の恐怖が少しだけ伝わってくる。
イカ丼だけでなく、地魚がてんこ盛りの壱岐スペシャルがやってくる。2000円。
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煮付けの魚は「オジサン」と言うらしい。
めっちゃ脂が乗ってるオジサン。脂ぎったオジサンを食す。とっても美味しかった。
「私たちは朝、塩焼きで食べて、美味しかったですよ」どちらかと言えば、そっちの方が美味しそうで笑う。
EP3:幸せの雨が降る島
「壱岐の雨は、幸せが降るって言うんですよ」
最終日は雨。配膳の女性が教えてくれる。どこまでもポジティブな壱岐の人たち。雨が降るたびに、もっと幸せになると信じられたら、それは素敵な人生だな。
と、窓の外がふいに明るくなる。虹だ。大きな虹が出ていた。
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僕はまた笑うしかない。すごいな壱岐。でも雨はすぐにまた激しく降り始め
た。幸せが激しく降る。海もかなり時化てくる。
「ジェットフォイルは無理かもだけど、フェリーは出るでしょ」港の観光案内の人は海を見ながら教えてくれた。
「ちょっと待ってな。波の高さ見るわ。うわ、7mか。12時には10m。お客さん、酔う方?」土産物屋のおばちゃんが、スマホで波の高さを調べてくれる。いや、酒は強いですけど、船は久しぶり過ぎてわからないです。
「私なら今日はフェリーは乗らんな」
隣の土産物屋のおばちゃん2は言う。それはあまり聞きたくなかったです。
隣の隣のおばちゃん3は「ビール呑んで寝てしまうのがいい」と、明らかに適当なアドバイス。一瞬そのプランを検討するけど、流石にやめる。僕はおばちゃん3の店でレトルトの壱岐牛カレーを買う。どの店でも売っていたけど。
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2等の船室は、カーペットに雑魚寝のスタイル。対馬から来た船、いい場所はすでに埋まっている。
「とにかく、すぐ横になることやな」それが、おばちゃん123の共通の船酔いアドバイス。確かに半分くらいの人は毛布にくるまって横になっている。でも寝てる人と、どれだけ距離を開ければいいのか。迷っている間に、どんどん場所はなくなっていく。
迷彩服の自衛隊員が寝ている横を、何とか確保して横になった。船は動き出した。古びた窓の外から壱岐の島が離れていく。旅が終わろうとしている。
横になって僕は、この文章を書いている。背中にエンジンを感じる。船はそれなりに揺れる。ふわっと浮き上がり、ドスンと押し付けられる。それが同じリズムで繰り返される。時に穏やかで、時に激しく。窓を波が打ちつけ、頭が下になる感覚もある。でも2時間なら何とかなるかな。
隣の自衛隊員がいびきをかいて眠り始めた。僕はこの旅を思い返す。目的のない一人旅は久しぶりだった。
電動自転車のシェアサイクル「壱岐ちゃり」で旅したこと。でも、旅先で島の人に「え、自転車で回ってるの?」と何度も驚かれたこと。坂道が多く、それなりに大変だったけど、小さな島を巡るスピードとして、自転車はぴったりだった。
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国造り神話の島には古い神社がたくさんあった。神社の近くに住むというおじさんにお勧めの観光スポットを聞くと、島中の神社にマーカーで印を付けた。さっきまで自転車で巡ることを驚いていたのに。
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フェリーが着く芦辺港の近くに泊まったけど、そこには殆ど飲み屋が無く、名物はほとんど食べられなかったこと。神社のおじさんに聞いたら、「あるにはあるけど、お高くとまってて好かん。郷ノ浦に行った方がいい」と明らかに何かがあったらしいこと。
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とんでもなく綺麗だった清石浜。猿にしか見なかった猿岩。珍しそうに電動自転車を見る小学生。小さな牡蠣の入ったおにぎり。ランニングする僕に挨拶してくれる中学生。壱岐高校のセンバツ出場を喜ぶ旅館の女将。鶏皮餃子を1個から頼める居酒屋。すっきりとして美味しかった壱岐焼酎。
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そんな事を思い出しながら、僕は眠っていた。起きたら、窓の外には青空が広がっていた。博多までは、あと1時間くらい。もう船の揺れは穏やかになっている。
幸せを呼ぶ雨が必要になったら、またフェリーに乗ろうと思う。
(了)
INFO:素敵な壱岐を旅する人へのプチ情報
【アクセス】
・文中にもありますが、選択肢はジェットフォイルかフェリーか。前者は博多から1時間で6千円。後者は2時間で6千円。わかりやすいですね。
・港は芦辺か郷ノ浦。便が多くないので、博多から向かう時は、10時からフェリーで郷ノ浦か、11時からのジェットで芦辺かの2択。
・今回、郷ノ浦は行かなかったですが、栄えてるのは郷ノ浦っぽいです。でもレンタカーを使うなら、芦辺まで行って、レンタカーで郷ノ浦に行く手も。フェリーも刺激的ですが、体力的には、やっぱりジェットです。
【どこに泊まる?】
・僕はほとんど調べずに芦辺にしました。カネヤ別館。料理は美味しく、宿の人は親切ないい宿でした。お風呂は温泉ではありませんが。
・芦辺は静かでとても落ち着きますが、飲食店の数で選ぶなら郷ノ浦、お風呂で選ぶなら湯本温泉でしょうか。
【いつが旬?】
・少なくとも海水浴も出来ず、ウニも食べられない1月はオンシーズンではないでしょう笑。
・ウニのシーズンは、4月から10月。名物のウニ飯食べてみたかったです。でも1月でも熊本より暖かくは感じ、観光客の少ないのんびりとした感じは、それなりに良かったです(本当に)
【何を食べる?】
名物はほぼ何も食べなかったので、何も言えないですが、芦辺では壱岐牛の「味処うめしま」に行けとほぼ全員の人に言われました。
・芦辺の居酒屋で食べたものでは、壱岐の豆腐(壱州豆腐)で作る厚揚げが美味しかったです。店によって作り方が違い、それも面白かったです。
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・壱岐の焼酎で多くの人に勧められたのが、「海鴉」。木樽で仕込まれ、ウィスキーのような風味が楽しめます。
島内限定の壱岐焼酎も多く、その中では神社近くのおっちゃんに教えてもらった「鶴亀触鯛」も美味しかったです。
その他、詳しい観光情報は以下のページがわかりやすいです!
それでは素敵な壱岐の旅を!
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