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【DAY5】過去問から学ぶ!京都大学大学院臨床心理学試験の攻略法〜臨床心理士・公認心理師への道!心理系大学院試験攻略のための完全ガイド〜


はじめに

はじめに

カウンセラーを目指す皆さん、心理学の知識を深めることは重要ですが、その最終目標は、実践の場でクライエントを支えるカウンセラーになることです。つまり、ゴールはカウンセラー資格を取得すること。そして、そのための第一歩は、心理系大学院への合格です。

特に、京都大学大学院臨床心理学の試験は、出題の傾向を把握し、戦略的に学ぶことで合格への道が開けます。もちろん、トップダウンアプローチで体系的に学んでいくことも大切ですが、臨床心理学を本当に理解し、実際の現場で役立つ力を養うには、ボトムアップアプローチが有効です。つまり、試験問題を通じて、具体的な知識を得ながら、深い思考力を身に付けていく方法です。

京都大学の入試問題は、臨床心理学の知識を「点」として覚えるだけでなく、「点」と「点」を結びつけて思考力を鍛える素晴らしい機会です。たとえ受験を予定していない場合でも、過去問を活用することで、臨床心理学をボトムアップで深く学ぶことができます。そして、試験問題を通して、大学院が求めているカウンセラー像を理解することができるでしょう。

本記事では、京都大学大学院臨床心理学の過去問を通じて、受験対策を中心に、その解き方や対策方法を解説していきます。皆さんの努力が、将来のクライエントを支える力になることを願いながら、応援しています。

1. 出題傾向と対策

1. 出題傾向と対策

1.1. 問題I

1.1.1. 出題傾向

臨床心理学の知識を、実際の臨床場面でどのように活用できるかを問う問題が多く出題されています。例えば、架空の臨床場面を設定し、受験者自身の経験や知識に基づいて考察し、適切な対応を導き出すことが求められます。これは、カウンセラーとしての実践力や思考力を評価するためです​(京都大学院臨床心理学2022)​(京都大学院臨床心理学2023)。

1.1.2. 対策

臨床心理学の基礎知識
臨床心理学の基礎となる心理療法やアセスメント技術、発達心理学など、主要な分野の知識をしっかりと身につけておくことが重要です。

臨床場面の想定
クライエントと対面する実際の場面を想定し、どのような状況においても適切な対応ができるように準備をしておくことが必要です。また、過去問を活用して、実際の試験に近いシミュレーションを行うことも効果的です​(京都大学院臨床心理学2023)​(京都大学院臨床心理学2024)。

倫理観の涵養
クライエントとの関係において、守秘義務や倫理的な判断力は不可欠です。これを日頃から意識しながら学び、試験でも適切に対処できるようにしましょう。

1.2. 問題II

1.2.1. 出題傾向

特定の心理学的テーマに基づいて、そのテーマが臨床心理学の主要な領域(心理アセスメント、心理療法、研究)とどのように関連しているかを問う問題が多く見られます。例えば、「無意識」や「記憶」といったテーマについての出題があり、それぞれのテーマが実際の臨床でどのように活用されているかを理解することが必要です​(京都大学院臨床心理学2022)​(京都大学院臨床心理学2023)。

1.2.2. 対策

主要な心理学的テーマの理解
無意識や記憶、抑うつなど、臨床心理学において重要なテーマについて、各領域との関連を深く理解し、それを基に論述できるようにすることが重要です​(京都大学院臨床心理学2023)。

理論と実践の結びつけ
過去問を解きながら、テーマと実際の臨床心理学の理論を関連付け、具体的な事例を交えながら論じる訓練を積んでください。

1.3. 問題III

1.3.1. 出題傾向

臨床心理学における重要な用語や人物について、その定義や意味を簡潔に説明する問題が出題されています。これにより、受験者の基礎知識が試されます​(京都大学院臨床心理学2022)。

1.3.2. 対策

用語の理解と定義
臨床心理学の幅広い領域にわたる主要な用語の定義を、理解しておく必要があります。また、各用語が臨床場面でどのように使用されるか、具体的に理解しておきましょう​(京都大学院臨床心理学2022)​(京都大学院臨床心理学2023)。

重要な研究者の理解
臨床心理学に影響を与えた主要な研究者とその業績についても学び、時代背景や学派との関連も整理することが求められます​(京都大学院臨床心理学2023)。

2. 【問題I】キーワード

問題Iキーワード

第2章では、京都大学大学院臨床心理学の過去の問題において出題されたキーワードを取り上げ、それぞれの定義や具体例について詳しく解説していきます。問題Iは、著名な文献からの抜粋に基づき、臨床心理学の実践的な知識や技法を問う問題が多く出題されています。各年の問題には、それぞれの著作に基づく重要なキーワードが含まれており、それらの定義や具体例をしっかりと理解することで、試験対策に役立ちます。

本章では、2022年、2023年、2024年に出題されたキーワードについて、文献の内容に基づき、臨床心理学の実践にどう応用されるかを解説します。特に、「心のケア」「聞く技術」「面接の方法」といったテーマは、カウンセラーとしての実践力を問う問題の核心であり、理解が重要です。

2.1. 2022年問題Iキーワード

キーワード: 心のケア

定義:

「心のケア」は、クライエントの心の状態を理解し、彼らが直面している困難や苦痛に寄り添いながら、心理的サポートを提供する行為を指します。具体的には、心理的な負担やストレスを和らげ、精神的な健康を取り戻すために行われる様々な手法やアプローチを含みます。

具体例:

例えば、災害後のトラウマを抱える被災者に対して、セラピストが感情表現を促し、安心して話せる環境を提供することが「心のケア」の一例です。また、クライエントが自己理解を深め、感情をコントロールできるようにサポートすることで、心理的な回復を促します。このようなケアを通じて、クライエントは再び自分の生活を取り戻すための力を育んでいくことができます​(京都大学院臨床心理学2022)。

2.2. 2023年問題Iキーワード

キーワード: 聞く技術

定義:

「聞く技術」とは、カウンセリングの場において、クライエントの話を適切に傾聴し、深いレベルでの理解を目指す技法です。単に言葉を表面的に受け取るだけではなく、クライエントの感情や内面のニーズ、隠れた意図に焦点を当てて聞くことが求められます。これにより、クライエントは自らの思考や感情をより深く理解し、自己洞察を深めることが可能になります。

具体例:

例えば、クライエントが「最近、仕事でうまくいかないんです」と話す際、単にその言葉を受け取るのではなく、背後にあるストレスや自己効力感の低下、または人間関係の問題などに着目します。カウンセラーは、クライエントが表現する内容の背後にある感情や信念に耳を傾け、例えば「その状況で、あなたはどのような気持ちを感じていますか?」と問いかけることで、クライエントの自己洞察を促します。このプロセスを通じて、クライエントは自分の感情や思考のパターンを理解し、問題解決への手がかりを見つけることができます​(京都大学院臨床心理学2023)。

この節では、「聞く技術」の重要性と、その技術を通じてクライエントにどのように寄り添うかを考察しました。次の2.3.節では、2024年問題Iのキーワードを解説します。

2.3. 2024年問題Iキーワード

キーワード: 面接の方法

定義:

「面接の方法」とは、臨床心理士やカウンセラーがクライエントとの面接場面において、効果的にコミュニケーションを行い、クライエントを深く理解するための技法を指します。これは、単に言葉を交わすだけでなく、クライエントの言動や感情の背景にある意図や意味を探り、適切なフィードバックを行うことが重要です。また、面接の際に守秘義務や倫理的配慮も欠かせない要素となります。

具体例:

例えば、面接の場面でクライエントが「自分のことを誰も理解してくれない」と話した場合、カウンセラーはその発言をそのまま受け取るだけでなく、「どのような場面でそう感じましたか?」と問いかけ、クライエントが直面している具体的な状況や感情を引き出すことができます。また、面接の進行中にクライエントが自らの感情に気づき、洞察を深められるようにサポートすることが、面接の方法の一つです​(京都大学院臨床心理学2024)。

面接の技法は、クライエントが自己理解を深め、適切な心理的支援を受けられるようにするための重要な手段です。クライエントとの信頼関係を構築し、効果的な治療介入を行うためには、面接の技法の習得が欠かせません。

この節では、「面接の方法」の具体的な技法とその応用について解説しました。

3. 【問題III】キーワード

問題IIIキーワード

第3章では、京都大学大学院臨床心理学の試験で出題される、臨床心理学に関連する重要なキーワードを取り上げ、その定義と具体例を日本語と英語で詳しく解説します。臨床心理学の試験では、専門用語や著名な心理学者の理論を理解し、臨床の現場でどのように応用されるかが問われます。この章では、2022年、2023年、2024年の試験に出題されたキーワードを通して、臨床心理学に必要な基本的な知識とその応用力を確認することができます。

各節では、それぞれの年度に出題された10個のキーワードを、定義と具体例を交えて解説していきます。これにより、受験生は臨床心理学の基礎概念を深く理解し、臨床現場での実践的なスキルを身につけることができるでしょう。

3.1. 2022年問題IIIキーワード

1. Minuchin, S

定義:
サルバドール・ミニューチンは、家族療法の分野で知られる臨床心理学者です。彼は、家族システムが個人の精神的健康に与える影響に注目し、構造的家族療法を発展させました。

具体例:
例えば、ミニューチンは家族の中での役割や力関係に焦点を当て、家族メンバーがどのように相互作用しているかを理解することで、家族全体の機能を改善しようとしました。家族内でのコミュニケーションやルールの構造を変えることで、特定のメンバーが抱える問題の解決を図るというアプローチです。

Definition:
Salvador Minuchin is a well-known clinical psychologist in the field of family therapy. He developed structural family therapy, focusing on the impact of family systems on an individual’s mental health.

Example:
For instance, Minuchin emphasized examining roles and power dynamics within families. By understanding how family members interact with one another, his approach sought to improve the functioning of the entire family. Structural family therapy aims to change communication patterns and the structure of rules within the family to address the issues faced by specific members.

2. 原光景 (The Original Scene)

定義:
原光景は、精神分析において、個人の心的発達において重要な初期の体験や記憶を指す概念です。これは、後の人間関係や感情反応に影響を与えるとされています。

具体例:
例えば、幼少期に親との関係が不安定だった場合、その記憶が成人後の人間関係において、相手との距離感に問題を抱える原因となることがあります。

Definition:
The "original scene" is a concept in psychoanalysis referring to early experiences or memories that play a crucial role in an individual's psychological development. These early memories can influence later relationships and emotional responses.

Example:
For example, if a child experienced an unstable relationship with their parents, this memory may later affect their ability to maintain healthy emotional boundaries in adult relationships.

3. Kinetic Family Drawings (KFD)

定義:
キネティック・ファミリー・ドローイング(KFD)は、家族療法や心理アセスメントで使用されるプロジェクティブテストの一つで、クライエントが家族の絵を描くことで、その人の家族関係や感情を評価します。

具体例:
クライエントに家族全員が何かしている絵を描いてもらい、その絵から家族内の役割や関係性の問題を読み取ることができます。例えば、家族の一員が他のメンバーから遠くに描かれている場合、その人が孤立感を感じている可能性が示唆されます。

Definition:
Kinetic Family Drawings (KFD) is a projective test used in family therapy and psychological assessment. The client draws a picture of their family, which helps the therapist assess family relationships and emotions.

Example:
The client is asked to draw their family doing something together, and from the drawing, the therapist can interpret dynamics like roles or issues within the family. For example, if one family member is drawn distant from the others, it may suggest feelings of isolation.

4. ロールシャッハ法におけるSequence analysis (Sequence Analysis in Rorschach Test)

定義:
ロールシャッハ法におけるシーケンス分析とは、クライエントがインクブロットテストの各カードに対してどのように反応するか、その反応の順序やパターンを分析する手法です。この分析により、個人の認知や感情の変化を追跡することが可能です。

具体例:
例えば、あるクライエントが最初のカードに対して漠然とした反応を示し、次のカードで急に非常に具体的な反応を示した場合、その変化から心的過程や感情的な反応がどのように進行しているのかを考察することができます。

Definition:
Sequence analysis in the Rorschach test refers to examining how a client responds to each card of the inkblot test in a specific order. By analyzing the sequence and patterns of these responses, psychologists can track shifts in cognition and emotion.

Example:
For instance, if a client gives a vague response to the first card but provides a highly detailed response to the second card, this shift may indicate important changes in their mental process or emotional state.

5. active imagination (アクティブ・イマジネーション)

定義:
アクティブ・イマジネーションは、ユング派心理学における技法の一つで、クライエントが自発的にイメージや感情を追体験し、無意識と対話することで自己理解を深める方法です。

具体例:
例えば、クライエントが過去のトラウマ的な出来事をイメージ化し、それと向き合いながら感情を表現することで、その出来事に対する新たな洞察を得ることができます。

Definition:
Active imagination is a technique used in Jungian psychology, where the client engages with spontaneous images and emotions to interact with the unconscious mind, fostering deeper self-understanding.

Example:
For example, a client may visualize a past traumatic event and explore their emotions surrounding it, allowing them to gain new insights and emotional resolution regarding the event.

6. 内向的思考タイプ (Introverted Thinking Type)

定義:
内向的思考タイプは、ユングの心理機能理論に基づく性格タイプの一つで、主に内省的で論理的な思考を重視し、自己の内面的な論理や理論を探求する傾向があります。

具体例:
例えば、内向的思考タイプの人は、物事を論理的に分析し、自分の価値観や理論に基づいて意思決定を行うことが多いです。他者の意見よりも、自分自身の理論に重きを置く傾向があります。

Definition:
The introverted thinking type is one of Jung's personality types, characterized by a focus on introspective, logical thinking, with an emphasis on understanding one's own internal theories and logic.

Example:
For instance, an introverted thinking type person might prioritize logical analysis and decision-making based on their own internal values and theories, often placing less emphasis on external opinions or influence.

7. Constellation (コンステレーション)

定義:
コンステレーションは、ユング心理学で使われる概念で、特定の心的要素が無意識の中で活性化され、特定の状況や刺激によって表出されることを指します。この過程で、無意識のパターンが意識に浮上します。

具体例:
例えば、ある状況が過去の経験を想起させ、その記憶や感情が強く浮かび上がるといった場合、それはコンステレーションの一例です。

Definition:
Constellation is a concept in Jungian psychology where certain mental elements are activated in the unconscious and manifest in response to specific situations or stimuli, bringing unconscious patterns into conscious awareness.

Example:
For instance, a particular situation might trigger a past memory or emotional response, bringing those repressed thoughts or feelings to the surface—this is an example of constellating a pattern.

8. 複雑性心的外傷後ストレス症 (Complex Post-Traumatic Stress Disorder, CPTSD)

定義:
複雑性心的外傷後ストレス症 (CPTSD) は、長期にわたる虐待やトラウマによって引き起こされる、感情の調節や対人関係における困難、自己認識の変化を伴う心理的障害です。

具体例:
例えば、幼少期から持続的な虐待を受けていた人が、成人後に人間関係において著しい不安定さを示す場合、それはCPTSDの症状の一つです。

Definition:
Complex Post-Traumatic Stress Disorder (CPTSD) is a psychological disorder resulting from prolonged abuse or trauma, characterized by difficulties in emotional regulation, interpersonal relationships, and changes in self-perception.

Example:
For instance, an individual who experienced sustained abuse during childhood may exhibit significant instability in adult relationships, which is a common symptom of CPTSD.

9. 自閉症広域表現型 (Broader Autism Phenotype)

定義:
自閉症広域表現型とは、自閉症スペクトラムの特徴を持つが、診断基準を満たさない程度の特性を持つ人々のことを指します。これらの特性は、社会的コミュニケーションの難しさや感覚過敏などが含まれます。

具体例:
例えば、社会的な場面での会話の難しさや、特定の音に対して過敏に反応する人が、自閉症広域表現型に該当する場合があります。

Definition:
Broader Autism Phenotype refers to individuals who exhibit characteristics of autism spectrum disorder but do not meet the full diagnostic criteria. These traits may include difficulties with social communication and heightened sensitivity to sensory input.

Example:
For instance, someone who struggles with conversational skills in social settings or has a heightened sensitivity to certain sounds may fall under the broader autism phenotype.

10. 阿闊世コンプレックス (Akatsuse Complex)

定義:
阿闊世コンプレックスは、特定の文化や価値観に由来する心理的な複合的問題を指し、日本の精神分析において特有のものとされます。具体的には、社会的な圧力や文化的な期待によって引き起こされる心理的葛藤を意味します。

具体例:
例えば、家族や社会からのプレッシャーによって自己実現が困難になる場合、その葛藤が阿闊世コンプレックスの一部として現れることがあります。

Definition:
The Akatsuse Complex refers to a psychological issue rooted in specific cultural values or pressures, commonly discussed in Japanese psychoanalysis. It refers to conflicts caused by societal expectations and cultural norms.

Example:
For instance, an individual struggling to achieve personal fulfillment due to family or societal pressure might experience internal conflict, which can be classified as part of the Akatsuse Complex.

3.2. 2023年問題IIIキーワード

1. 再接近期 (Reapproachment Phase)

定義:
再接近期とは、発達心理学における子どもの成長過程の一段階で、特に乳幼児期に見られるものです。これは、子どもが母親からの一時的な自立を経験した後、再び母親との親密な関係を求める時期を指します。

具体例:
例えば、2歳前後の子どもが一度自立して遊び始めたものの、不安を感じて再び母親の元に戻って安心を求める行動が典型的な再接近期の例です。

Definition:
The reapproachment phase refers to a stage in a child's development, particularly during the toddler years, where the child, after experiencing a sense of independence, seeks to reestablish closeness with their primary caregiver, usually the mother.

Example:
For example, a child around the age of two may explore their environment independently but then return to their mother for reassurance when they feel anxious, demonstrating the reapproachment phase.

2. Searles, H.F.

定義:
H.F. シアレスは、アメリカの精神分析家であり、特にクライエントと治療者の相互関係、特に投影性同一視や転移・逆転移に関する研究で知られています。

具体例:
シアレスは、クライエントと治療者の相互作用が治療過程で重要な役割を果たすと述べました。例えば、治療者がクライエントの感情を無意識に受け取り、それが治療の進展にどのように影響するかを考察しました。

Definition:
H.F. Searles was an American psychoanalyst known for his work on the therapeutic relationship, particularly his contributions to understanding projective identification, transference, and countertransference.

Example:
Searles emphasized the importance of the reciprocal interaction between client and therapist. For instance, he explored how a therapist might unconsciously absorb the emotions of a client, affecting the therapy's progression.

3. アニマ・アニムス (Anima and Animus)

定義:
アニマ・アニムスは、ユング心理学における概念で、アニマは男性の無意識の中に存在する女性的側面、アニムスは女性の無意識の中に存在する男性的側面を指します。これらは個人の心理的バランスに重要な役割を果たします。

具体例:
例えば、男性が自分の感情を認識し表現する過程で、アニマが重要な役割を果たすとされています。また、女性が論理的思考を強化する際には、アニムスが関与します。

Definition:
Anima and Animus are concepts in Jungian psychology, with Anima representing the feminine aspect within a man's unconscious and Animus representing the masculine aspect within a woman's unconscious. These elements are crucial for psychological balance.

Example:
For example, a man who becomes more in touch with his emotions is thought to be integrating his Anima, while a woman developing logical thinking skills may be integrating her Animus.

4. テストバッテリー (Test Battery)

定義:
テストバッテリーとは、複数の心理検査や評価ツールを組み合わせて使用することで、個人の心理的状態や特性を総合的に評価する方法です。

具体例:
例えば、知能テスト、性格テスト、認知機能テストなどを組み合わせることで、クライエントの全体的な心理状態を把握することが可能です。

Definition:
A test battery refers to the use of multiple psychological tests or assessment tools in combination to comprehensively evaluate an individual's psychological condition or characteristics.

Example:
For instance, combining intelligence tests, personality assessments, and cognitive function tests allows for a holistic understanding of a client's psychological profile.

5. Dissociative Disorder (解離性障害)

定義:
解離性障害は、個人が意識、記憶、自己認識、感覚などの統合が一時的に失われることで、現実感の喪失や記憶の断片化が生じる心理的障害です。

具体例:
例えば、過去のトラウマ体験を持つ人が、その記憶を断片的にしか思い出せなかったり、自分が体外離脱しているような感覚を抱くことがあります。

Definition:
Dissociative disorder is a psychological disorder where an individual's consciousness, memory, self-identity, or sensory perception is temporarily disrupted, leading to a loss of connection with reality or fragmented memories.

Example:
For instance, a person who has experienced trauma may only recall parts of the event or feel as though they are detached from their body, as seen in cases of dissociative identity disorder.

6. 内観療法 (Naikan Therapy)

定義:
内観療法は、日本で発展した自己反省を促す療法で、過去の人間関係や出来事に対して感謝と後悔を深く考察し、自己成長を図る方法です。

具体例:
例えば、内観療法では、クライエントが自分の親や近しい人々に対する感謝の気持ちを再確認し、自己中心的な行動への反省を行うことで、自己理解を深めます。

Definition:
Naikan therapy is a form of introspective therapy developed in Japan, encouraging individuals to reflect deeply on their past relationships and actions, particularly focusing on gratitude and regret, to foster personal growth.

Example:
In Naikan therapy, a client might reflect on their relationships with their parents, realizing feelings of gratitude while acknowledging any regret over self-centered behaviors, leading to deeper self-awareness.

7. Bleuler, E.

定義:
エミール・ブロイラーは、統合失調症(スキゾフレニア)という用語を初めて用いたスイスの精神科医であり、精神病理学の発展に大きく寄与しました。

具体例:
ブロイラーは、統合失調症を「精神の分裂」として定義し、この疾患が感情や思考、行動の統合に関する問題であると考えました。

Definition:
Eugen Bleuler was a Swiss psychiatrist who coined the term "schizophrenia" and made significant contributions to the understanding of psychiatric disorders.

Example:
Bleuler defined schizophrenia as a "split mind," describing it as a disorder involving problems with the integration of emotions, thoughts, and behaviors.

8. コース立方体組み合わせテスト (Kohs Block Design Test)

定義:
コース立方体組み合わせテストは、視覚的-空間的能力や構造的知能を評価するための心理検査で、特に認知機能の評価に用いられます。

具体例:
被験者に色が異なるブロックを使って、特定のパターンを再現させ、その過程を通じて認知機能や問題解決能力を評価します。

Definition:
The Kohs Block Design Test is a psychological assessment tool used to measure visual-spatial abilities and constructive intelligence, particularly for cognitive function evaluation.

Example:
In the test, the subject is asked to reproduce specific patterns using blocks of different colors, and the process is used to assess their cognitive abilities and problem-solving skills.

9. Counter Transference (逆転移)

定義:
逆転移とは、治療者がクライエントに対して、自分自身の感情や過去の経験を無意識に投影する現象を指します。これは、治療過程において、治療者の自己認識が重要であることを示唆します。

具体例:
例えば、治療者がクライエントに対して過度に同情的な態度を取る場合、逆転移が起きている可能性があります。これは、治療者の過去の経験に影響されているかもしれません。

Definition:
Counter transference refers to a phenomenon in therapy where the therapist unconsciously projects their own emotions or past experiences onto the client. It highlights the importance of therapist self-awareness in the therapeutic process.

Example:
For instance, if a therapist becomes overly sympathetic towards a client, it might be a sign of counter transference, possibly influenced by the therapist's own past experiences.

10. 中井久夫 (Hisao Nakai)

定義:
中井久夫は、日本の精神科医であり、精神病理学および精神療法において多くの貢献をした人物です。特に統合失調症の研究で知られています。

具体例:
中井は、統合失調症患者の社会復帰に向けた支援プログラムを作成し、患者の回復を促進するための新しい治療法を提案しました。

Definition:
Hisao Nakai was a Japanese psychiatrist known for his contributions to psychopathology and psychotherapy, particularly in the study and treatment of schizophrenia.

Example:
Nakai developed support programs aimed at helping schizophrenia patients reintegrate into society, proposing new therapeutic methods to aid their recovery.

3.3. 2024年問題IIIキーワード

1. HTP (House-Tree-Person Test)

定義:
HTPテストは、投影法の心理テストで、被験者が家、木、人の絵を描くことを通じて、その人の内面的な感情や精神状態を評価します。このテストは、被験者の無意識的な問題やパーソナリティの特徴を探るために用いられます。

具体例:
例えば、家を描く際に窓が非常に小さく描かれたり、木の枝が不自然な形で描かれた場合、それは被験者が社会的に閉ざされているか、または心理的に不安定である可能性を示唆します。

Definition:
The House-Tree-Person (HTP) test is a projective psychological test where individuals draw a house, a tree, and a person. The drawings are analyzed to understand the individual's internal emotions and psychological state, providing insights into unconscious issues or personality traits.

Example:
For instance, if a person draws a house with very small windows or a tree with oddly shaped branches, this might indicate social isolation or emotional instability.

2. 成瀬悟策 (Sosaku Naruse)

定義:
成瀬悟策は、日本の心理学者であり、特に動作療法の開発者として知られています。動作療法は、身体的な動作を通じて心理的な変化を促す療法です。

具体例:
成瀬は、身体の動作を用いて、抑圧された感情や心理的な問題を解放し、心身の健康を取り戻すことを目指しました。例えば、特定の身体的動作を行うことで、トラウマを乗り越える支援を提供します。

Definition:
Sosaku Naruse was a Japanese psychologist known for developing Dousa Therapy, a form of therapy that aims to bring about psychological change through physical movements.

Example:
Naruse's method involved using specific physical movements to help individuals release suppressed emotions and resolve psychological issues, such as helping trauma survivors recover through guided motions.

3. Compensation (代償)

定義:
代償とは、個人が自分の欠点や劣等感を克服するために、他の分野で成功や優位性を追求する心理的メカニズムのことです。これは自己防衛の一形態であり、個人がバランスを取るために行う行動です。

具体例:
例えば、学業で自信を持てない人が、スポーツで成功を追求し、その分野での達成感を得ることがあります。

Definition:
Compensation refers to a psychological mechanism in which an individual seeks success or superiority in one area to compensate for perceived deficiencies or feelings of inferiority in another area.

Example:
For instance, someone who struggles academically might pursue success in sports to gain a sense of achievement and compensate for their academic challenges.

4. 境界知能 (Borderline Intelligence)

定義:
境界知能は、知能検査で通常の知的範囲と知的障害の間に位置する知能指数(IQ)を指し、IQ70〜85程度の範囲を示します。この状態は、学習や社会生活において困難を伴うことがありますが、明確な知的障害とは異なります。

具体例:
学校での学習や日常生活で困難を抱えるが、知的障害とは診断されない子どもがこの範疇に入ります。例えば、社会的スキルの発達に遅れが見られる場合があります。

Definition:
Borderline intelligence refers to an intelligence quotient (IQ) that falls between the range of normal intelligence and intellectual disability, typically between 70 and 85. Individuals with borderline intelligence may face challenges in learning and social functioning but do not meet the criteria for intellectual disability.

Example:
A child who struggles academically and socially but does not qualify for an intellectual disability diagnosis may fall into this category. For example, they might exhibit delayed social skills development.

5. フォーカシング (Focusing)

定義:
フォーカシングは、ユージン・ジェンドリンによって開発された心理療法の技法で、身体感覚を通じて、心の奥深くにある感情や問題に焦点を当てて、自己探求を行う方法です。

具体例:
クライエントがセッション中に心身で感じる「漠然とした感覚」に注意を向け、その感覚を探求することで、自分の本当の感情やニーズに気づくことができます。

Definition:
Focusing is a psychotherapeutic technique developed by Eugene Gendlin that involves paying attention to one's bodily sensations in order to explore deeper emotions and unresolved issues.

Example:
During a therapy session, the client might focus on a "felt sense" in their body, exploring it to uncover underlying emotions or needs that had previously been unrecognized.

6. Training Analysis (訓練分析)

定義:
訓練分析は、精神分析を学ぶ治療者が自ら治療を受ける過程であり、自分の無意識の葛藤を理解し、他者の治療に役立てるために行われます。

具体例:
精神分析を学ぶ学生が、自分自身の内面を探求し、無意識の影響を理解するために、訓練分析を受けて自己洞察を深めます。

Definition:
Training analysis is the process in which therapists in training undergo their own psychoanalysis to understand their unconscious conflicts and prepare them for treating others.

Example:
A psychoanalysis student undergoes training analysis to explore their own unconscious and better understand the impact of these forces when treating clients.

7. ディスチミア親和型うつ病 (Dysthymia-Affinity Depression)

定義:
ディスチミア親和型うつ病は、慢性的に軽度の抑うつ状態が持続するディスチミア(気分変調症)に似た症状を持ちつつ、重度の抑うつエピソードも経験する特徴を持つうつ病の一形態です。

具体例:
長期間、軽い抑うつ状態が続いている人が、突然激しい抑うつエピソードに見舞われる場合があります。

Definition:
Dysthymia-affinity depression is a type of depression characterized by chronic, mild depressive symptoms (dysthymia) accompanied by episodes of more severe depression.

Example:
Someone with long-term mild depression who suddenly experiences a severe depressive episode would be an example of this condition.

8. 世界技法 (World Technique)

定義:
世界技法は、クライエントが砂の中にオブジェクトを配置することで、その人の無意識の感情や心理状態を表現する砂遊び療法の一形態です。この技法は、非言語的な表現を通じて、自己理解を促進します。

具体例:
クライエントが砂の中に家や人物のフィギュアを配置し、家族や社会の中での自己の位置を表現することができ、そこから内的な葛藤が浮き彫りになります。

Definition:
The World Technique is a form of sandplay therapy in which clients place objects in a sandbox to represent their unconscious emotions and psychological states, promoting self-understanding through nonverbal expression.

Example:
A client might place figures of a house and people in the sand to represent their position within the family or society, revealing internal conflicts through the arrangement of these objects.

9. Balint, M. (マイケル・バリント)

定義:
マイケル・バリントは、医師と患者の関係に焦点を当てたバリントグループを創設した精神分析家であり、特に治療者が患者との関係性を理解することが治療の効果を高めると主張しました。

具体例:
バリントグループでは、医師が患者とのコミュニケーションを振り返り、患者の心理的ニーズに応じた対応を考察します。

Definition:
Michael Balint was a psychoanalyst who founded the Balint Group, focusing on the relationship between doctors and patients. He emphasized that understanding this relationship enhances therapeutic outcomes.

Example:
In a Balint group, doctors reflect on their communication with patients, exploring how they can better meet their psychological needs.

10. Acting Out (アクティングアウト)

定義:
アクティングアウトは、無意識の葛藤や抑圧された感情を、意識せずに衝動的な行動で表現することを指します。これにより、内的な感情が外部に向けられ、行動として現れます。

具体例:
例えば、過去のトラウマに対する未解決の感情を抱える人が、突然怒りを爆発させたり、リスクの高い行動に走ることがあります。

Definition:
Acting out refers to expressing unconscious conflicts or repressed emotions through impulsive actions rather than verbalizing them, often as a way to externalize internal struggles.

Example:
For instance, someone with unresolved trauma may suddenly explode in anger or engage in risky behaviors as a way of acting out their repressed emotions.

4. 【問題II】解答と解説

4. 問題II解答と解説

第4章では、京都大学大学院臨床心理学試験における問題IIについて解説します。この問題は、心理学的概念や臨床心理学における重要なテーマについて、深く掘り下げて考察するものです。具体的には、無意識、抑うつ、記憶といった心理学の中核的なテーマが取り上げられ、それらが臨床の現場でどのように活用されるかが問われています。

各節では、2022年、2023年、2024年に出題された問題IIを扱い、それぞれのテーマに対して心理アセスメントや心理療法、研究における意義を論じることが求められています。解答の中では、臨床心理学における基礎知識を踏まえた上で、実践的なアプローチや具体例を用いて論じることが重要です。

この章を通して、受験者は各テーマに関連する理論や技法を学び、臨床現場での実際的な応用力を高めることができます。

4.1. 2022年問題II

4.1.1. 問題

2022年の問題IIでは、「無意識」に焦点が当てられています。無意識の重要性を以下の三つの観点から論じることが求められています。

  1. 心理アセスメント

  2. 心理療法

  3. 研究

4.1.2. 解答

1. 心理アセスメントにおける無意識の意義
無意識は、心理アセスメントにおいて非常に重要な役割を果たします。無意識的な動機や感情は、表面的には意識されないため、臨床心理士はプロジェクティブテストや自由連想法などの技法を用いて、無意識の内容を把握しようとします。例えば、ロールシャッハテストや夢分析を通じて、クライエントの深層心理を探ることができ、そこから行動や感情の根底にある無意識的な動機を理解することが可能です。

2. 心理療法における無意識の意義
無意識は心理療法においても非常に重要です。多くの心理療法、特に精神分析やユング派のアプローチでは、クライエントが抱える問題の根本には無意識の葛藤や抑圧された感情が存在すると考えられます。治療者は、クライエントが自分では気づいていない無意識の問題にアクセスし、それを意識化することで、クライエントの症状を改善させることができます。例えば、夢や自由連想を通じてクライエントの無意識に働きかけ、その内容を明らかにすることが治療の焦点となることがあります。

3. 研究における無意識の意義
無意識の研究は、臨床心理学の発展において重要な位置を占めています。無意識に関する理論は、フロイトやユングによって提唱され、現在に至るまで多くの研究が行われています。現代の神経科学においても、無意識のプロセスが脳のどの部分で発生しているのか、またそれがどのように行動に影響を与えるのかが研究されています。さらに、無意識に関連する研究は、トラウマや自動思考に関する理解を深め、治療法の改善に貢献しています。

4.1.3. 解説

無意識に着目することの意義は、臨床心理学の様々な分野において非常に大きな影響を与えています。心理アセスメントにおいては、クライエントの表面的な言動だけでなく、その背後にある無意識的な要因を探ることで、より深い理解を得ることが可能です。心理療法においては、無意識を意識化するプロセスが、クライエントの自己洞察と症状の改善につながります。研究分野では、無意識に関する知見が治療法の発展に寄与しており、今後も無意識の研究は心理学の重要なテーマであり続けるでしょう。

このように、無意識に関する理解は、臨床現場での診断、治療、そして研究において非常に重要であり、臨床心理士としての実践力を高めるために不可欠なテーマです。

4.2. 2023年問題II

4.2.1. 問題

2023年の問題IIでは、「抑うつ (depression)」について、次の3つの発達段階において、どのように現れると考えるか、さらに、それらの理解のために必要な心理アセスメントについて論じることが求められています。

  1. 児童期

  2. 青年期

  3. 老年期

4.2.2. 解答

1. 児童期における抑うつの現れと心理アセスメント
児童期における抑うつは、しばしば行動面での変化として現れます。例えば、友達との遊びや学校への関心が失われたり、攻撃的な行動や引きこもりといった形で症状が出ることがあります。子どもは感情をうまく言葉で表現できないため、身体的な不調(頭痛、腹痛)や不安感などを訴えることがよく見られます。心理アセスメントにおいては、児童の行動や情緒面の変化を観察し、また保護者や教師からのフィードバックを収集することが重要です。加えて、児童に対して適切なプロジェクティブテストや、児童向けの心理検査(例えば、児童行動チェックリスト)を用いることで、抑うつの程度や原因を評価します。

2. 青年期における抑うつの現れと心理アセスメント
青年期は、自己認識やアイデンティティの確立が進む時期であり、抑うつはしばしば感情的な混乱として現れます。特に、この時期は対人関係や自己評価に関する問題が抑うつの引き金になることが多いです。症状としては、感情の不安定さ、自尊心の低下、自傷行為、反社会的行動、孤立などが見られることがあります。心理アセスメントでは、青年期特有の自尊心やアイデンティティに関する問題を探るために、臨床面接や自己評価尺度(例えば、Beck抑うつ尺度)を活用することが有効です。また、学校や家庭での社会的な関わりについても詳細な情報を収集する必要があります。

3. 老年期における抑うつの現れと心理アセスメント
老年期における抑うつは、しばしば身体的な健康問題や社会的な孤立と関連しています。老年期の抑うつは、活動の減少や無気力、孤独感、さらには認知機能の低下と結びつくことが多く、これが日常生活の質に大きな影響を与えます。また、抑うつ症状が認知症などの他の疾患と混同されることもあり、診断が難しくなる場合があります。心理アセスメントでは、老年期特有の健康問題や社会的背景を考慮しつつ、Mini-Mental State Examination (MMSE) や老年期うつ病評価尺度などを用いて、抑うつと認知機能低下の区別を明確にすることが重要です。また、家族や介護者からのフィードバックも大きな役割を果たします。

4.2.3. 解説

抑うつは、発達段階ごとにその現れ方が異なり、各段階での心理アセスメントもそれに応じた方法が求められます。児童期には、行動観察や保護者との協力が必要であり、青年期には自己認識や対人関係に焦点を当てた評価が重要です。そして老年期には、身体的および認知的側面に着目し、抑うつと他の疾患との鑑別が課題となります。

抑うつの理解と評価においては、単に症状を評価するだけでなく、各発達段階に応じたアセスメントのアプローチを採用することが不可欠です。これにより、より適切な支援や介入が可能となり、クライエントの精神的健康の回復に寄与することができるでしょう。

4.3. 2024年問題II

4.3.1. 問題

2024年の問題IIでは、「記憶」に着目し、心理アセスメントおよび心理療法の観点から記憶がどのように現れるか、またどのように理解されているかについて述べることが求められています。

  1. 心理アセスメント(心理検査を含む)

  2. 心理療法

4.3.2. 解答

1. 心理アセスメント(心理検査を含む)における記憶の役割
心理アセスメントにおいて記憶は、個人の認知機能や精神的健康を評価する重要な要素です。特に、記憶に関する検査は、認知障害や精神疾患の評価において不可欠です。例えば、ウェクスラー記憶検査(WMS)やMMSE(ミニメンタルステート検査)などの心理検査は、短期記憶や長期記憶、作業記憶などの多様な記憶機能を測定します。これにより、認知症やトラウマ、注意欠陥多動性障害(ADHD)などの疾患を診断するための重要な情報が得られます。

さらに、記憶はトラウマやストレスに関する診断でも重要です。例えば、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の患者は、過去のトラウマ的な記憶がフラッシュバックとして再現されることがあり、このような症状は心理アセスメントの一環として評価されます。このように、記憶に関連するアセスメントは、精神疾患の診断や治療計画の立案に重要な役割を果たします。

2. 心理療法における記憶の重要性
心理療法において記憶は、クライエントの過去の経験や感情的な出来事にアプローチするための重要な手がかりとなります。特に、精神分析や認知行動療法(CBT)では、過去の記憶や経験が現在の心理的問題にどのように影響しているかを明らかにし、それを治療の対象とします。

例えば、認知行動療法では、クライエントが持つ歪んだ思考パターンが、過去の否定的な経験や記憶に根ざしていることが多く、これを再評価し、新しい意味付けを行うことで治療効果を高めます。また、精神分析では、クライエントが無意識に抑圧した記憶やトラウマを掘り起こし、現在の問題行動や感情との関連を解明することが治療の目的となります。

記憶を扱う治療法としては、EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)が有名です。これは、トラウマ的な記憶を再処理し、感情的な負担を軽減するための治療法で、特にPTSDなどに効果的です。記憶を意識的に取り扱うことで、過去のトラウマ的経験が現在の行動や感情に与える影響を緩和することが可能になります。

4.3.3. 解説

記憶は、心理アセスメントおよび心理療法において極めて重要な役割を果たします。心理アセスメントでは、記憶機能を評価することで、認知症やPTSDなどの精神疾患を正確に診断し、治療の基礎情報を提供します。また、心理療法においては、過去の記憶に焦点を当てることで、クライエントの現在の問題に対処し、症状の改善を図ることが可能です。

特にトラウマや抑圧された記憶に焦点を当てた治療法は、クライエントが無意識に抑圧してきた感情や体験に光を当て、それを再解釈することで症状の改善を促します。記憶を扱うことで、クライエントは過去の経験を乗り越え、新たな自己理解と心理的な回復を得ることができるのです。

このように、記憶に関する理解と適切なアプローチは、臨床心理学における効果的なアセスメントと治療の鍵となります。

5. 【問題III】解答と解説

問題III 解答と解説

第5章では、京都大学大学院臨床心理学試験における問題IIIに焦点を当てています。この問題は、臨床心理学に関連する重要な用語や人物について理解を深めることを目的としています。各年度において異なるキーワードが出題され、それぞれのキーワードに対して、定義と具体例を説明することが求められています。

問題IIIの狙いは、受験生が臨床心理学の基礎概念や理論的枠組みを理解しているか、さらにその概念をどのように臨床の現場で応用できるかを確認することです。受験者は、広範な知識を持ち、これらのキーワードに対して論理的かつ実践的なアプローチを示すことが期待されています。

本章では、2022年から2024年にかけて出題されたキーワードに基づき、それぞれの用語や理論の定義と、臨床での応用例を解説しています。これにより、受験生は臨床心理学における基本的な理解を深め、実践力を高めることができます。

5.1. 2022年問題III

5.1.1. 問題

2022年の問題IIIでは、以下の10個のキーワードに対して、定義とその具体例を説明することが求められています。

  1. Minuchin, S.

  2. 原光景

  3. Kinetic Family Drawings

  4. ロールシャッハ法におけるSequence analysis

  5. active imagination

  6. 内向的思考タイプ

  7. Constellation

  8. 複雑性心的外傷後ストレス症 (complex post-traumatic stress disorder)

  9. 自閉症広域表現型 (broader autism phenotype)

  10. 阿闊世コンプレックス

5.1.2. 解答

1. Minuchin, S.
Minuchinは、構造的家族療法の創始者であり、家族システム全体を治療の対象として見るアプローチを提唱しました。彼の理論は、家族内の力関係や役割のバランスが個人の精神的健康に影響を与えることを強調しています。

2. 原光景
原光景とは、精神分析における重要な概念で、個人が最初に経験した感覚や出来事が、その後の心理的発達に強い影響を与えるとされます。幼少期のトラウマや記憶が、後の行動や感情に大きな影響を与える例が見られます。

3. Kinetic Family Drawings
Kinetic Family Drawings(KFD)は、家族の関係や役割を視覚的に表現する投影法の一つです。被験者が家族のメンバーを描くことで、家族内の力動や感情的なつながりを分析します。例えば、あるメンバーが他のメンバーから離れて描かれている場合、その人物が孤立感を感じている可能性があります。

4. ロールシャッハ法におけるSequence analysis
Sequence analysisは、ロールシャッハテストにおいて、クライエントの反応が時間経過とともにどのように変化するかを分析する手法です。これにより、無意識的な心理状態の変化や心的プロセスを追跡することができます。

5. active imagination
ユングの提唱した「アクティブ・イマジネーション」は、夢や空想を積極的に探求し、無意識の内容を意識に浮かび上がらせる技法です。クライエントは、意識的にイメージを深めることで、自分の内面と対話し、新しい洞察を得ることができます。

6. 内向的思考タイプ
ユングの心理タイプ論において、内向的思考タイプは内省的で、自分の内面的な論理や理論に基づいて物事を考える傾向があります。外部の出来事よりも自分の内的な世界に関心を持つ特徴があります。

7. Constellation
Constellation(星座形成)は、ユング派心理学で、ある特定の状況や出来事が無意識の要素を引き起こし、それが意識に現れる現象を指します。例えば、特定の対人関係が、過去のトラウマを思い出させ、それに対して強い感情反応を引き起こす場合です。

8. 複雑性心的外傷後ストレス症 (Complex Post-Traumatic Stress Disorder)
CPTSDは、長期間の虐待やトラウマにより引き起こされる心理障害で、感情の調節が難しくなったり、対人関係が不安定になるなどの症状が現れます。CPTSDはPTSDよりも症状が複雑で、長期的な支援が必要です。

9. 自閉症広域表現型 (Broader Autism Phenotype)
自閉症広域表現型とは、自閉症スペクトラム障害の特徴を一部持っているが、診断基準に達しない人々を指します。例えば、社会的コミュニケーションに軽度の困難を感じるが、自閉症とは診断されない場合です。

10. 阿闊世コンプレックス
阿闊世コンプレックスは、特定の文化的背景に由来する心理的問題を指し、自己と他者の関係における強い葛藤や圧力を示します。日本の社会的な価値観や期待が、個人の心理的葛藤を引き起こす場合などに関連します。

5.1.3. 解説

2022年の問題IIIは、臨床心理学の幅広い用語や理論を理解し、それらが実際の臨床場面や心理的な評価にどのように役立つかを問う問題です。各用語は、臨床心理学の基礎を理解する上で重要であり、特にクライエントとの関係性や無意識の理解に関連するものが多く含まれています。

5.2. 2023年問題III

5.2.1. 問題

2023年の問題IIIでは、以下の10個のキーワードについて臨床心理学の観点から説明することが求められています。

  1. 再接近期

  2. Searles, H.F.

  3. アニマ・アニムス

  4. テストバッテリー

  5. 解離性障害 (dissociative disorder)

  6. 内観療法

  7. Bleuler, E.

  8. コース立方体組み合わせテスト

  9. 逆転移 (counter transference)

  10. 中井久夫

5.2.2. 解答

1. 再接近期 (Reapproachment Phase)
再接近期は、発達心理学における乳幼児の成長過程の一段階で、幼児が一度母親から自立した後、再び母親との親密な関係を求める時期を指します。自立と依存の間で葛藤するこの時期は、子どもの心理的発達にとって重要なプロセスです。

2. Searles, H.F.
H.F. シアレスは、精神分析家として、治療者とクライエントの相互作用に関する研究で知られています。彼は、逆転移の重要性を強調し、治療者がクライエントとの関係を通じて自身の感情を認識し、治療過程での相互作用を深めることを提唱しました。

3. アニマ・アニムス (Anima and Animus)
ユング心理学におけるアニマとアニムスは、男性の無意識にある女性的要素(アニマ)と、女性の無意識にある男性的要素(アニムス)を指します。これらは個人の心理的バランスに重要な役割を果たします。ユングは、これらの要素が統合されることで、個人の精神的成長が進むと考えました。

4. テストバッテリー (Test Battery)
テストバッテリーは、複数の心理検査を組み合わせて個人の心理状態や能力を総合的に評価する方法です。例えば、知能検査と性格検査を組み合わせることで、より全体的な評価を行うことが可能です。

5. 解離性障害 (Dissociative Disorder)
解離性障害は、意識、記憶、自己認識などの統合が失われることで、現実感の喪失や記憶喪失、アイデンティティの混乱などが生じる精神障害です。解離性同一性障害(多重人格障害)はその一例です。トラウマやストレスが主な原因となります。

6. 内観療法 (Naikan Therapy)
内観療法は、日本で発展した心理療法で、自己の過去の行動や他者との関わりを振り返ることにより、自己理解と自己成長を促す療法です。特に、感謝と反省を通じて、自己の行動や感情の源泉を理解します。

7. Bleuler, E. (エミール・ブロイラー)
エミール・ブロイラーは、スイスの精神科医で、統合失調症という用語を初めて用いた人物です。彼の研究は、統合失調症の理解に大きな貢献をし、精神病理学の発展に重要な役割を果たしました。

8. コース立方体組み合わせテスト (Kohs Block Design Test)
コース立方体組み合わせテストは、視覚的および空間的認知能力を測定する心理検査です。被験者は異なる色の立方体を使って、特定のパターンを再現することを求められ、その能力を評価します。

9. 逆転移 (Counter Transference)
逆転移とは、治療者がクライエントに対して無意識に自分の感情や過去の経験を投影する現象です。治療者が自己の逆転移に気づくことで、クライエントとの関係性をより深く理解し、治療の進展を図ることができます。

10. 中井久夫 (Hisao Nakai)
中井久夫は、日本の精神科医であり、統合失調症や精神障害の治療において多大な貢献をした人物です。彼は、患者の社会復帰に焦点を当てた治療法を開発し、日本における精神医療の発展に寄与しました。

5.2.3. 解説

2023年の問題IIIでは、臨床心理学における基本的な用語や概念に関する深い理解が求められています。特に、発達心理学、精神分析、統合失調症の理解など、多岐にわたるテーマが含まれています。

これらのキーワードは、臨床現場での実践やクライエントとの対話において重要な役割を果たします。再接近期の理解は、子どもの発達における大切なポイントを捉え、逆転移の概念は治療者自身の感情への洞察を促します。また、テストバッテリーや解離性障害の知識は、適切な診断と治療のための基盤を提供します。

中井久夫の業績を通じて、日本の精神医療の発展にも焦点が当てられており、これらの用語を理解することが臨床心理学における幅広い知識と応用力を養うために不可欠であることが示されています。

5.3. 2024年問題III

5.3.1. 問題

2024年の問題IIIでは、以下の10個のキーワードについて、臨床心理学の観点から説明することが求められています。

  1. HTP

  2. 成瀬悟策

  3. compensation

  4. 境界知能

  5. フォーカシング

  6. training analysis

  7. ディスチミア親和型うつ病

  8. 世界技法

  9. Balint, M.

  10. acting out

5.3.2. 解答

1. HTP (House-Tree-Person Test)
HTPテストは、投影法の一種で、被験者が家、木、人の絵を描くことによって、被験者の内面的な感情や心理状態を評価する方法です。このテストは、特に子どもや言語的に自己表現が困難なクライエントの評価に使われます。絵の内容や構図から、被験者の自己認識や対人関係に関する問題を推測します。

2. 成瀬悟策 (Sosaku Naruse)
成瀬悟策は、動作療法の創始者として知られる日本の心理学者です。動作療法は、身体的な動作を通じて心理的な問題を解決し、感情の解放や心身のバランスを整えることを目指す療法です。成瀬は、身体と心のつながりに着目し、動作を用いた自己調整を提唱しました。

3. Compensation (代償)
代償は、心理学において、自分の弱点や欠点を他の領域で成功を収めることで補おうとする防衛機制です。例えば、学業でうまくいかない人が、スポーツで優れた成果を上げることで自信を保とうとする行動が挙げられます。

4. 境界知能 (Borderline Intelligence)
境界知能は、IQ70〜85の範囲にある知能を指し、通常の知能と知的障害の境界に位置します。学習や社会生活での困難は見られますが、正式な知的障害とは診断されません。教育や支援が必要となる場合があります。

5. フォーカシング (Focusing)
フォーカシングは、ユージン・ジェンドリンによって開発された心理療法の技法で、身体感覚を通して感情や無意識の問題に気づき、それを解決するための手法です。クライエントは、自分の身体に感じる「漠然とした感覚」に焦点を当て、それを言語化することで、自己理解を深めます。

6. Training Analysis (訓練分析)
訓練分析は、精神分析の訓練を受ける治療者が、自身の無意識の問題を理解し、他者を治療するための自己洞察を深めるために行う分析過程です。治療者自身が精神分析を受けることで、クライエントとの治療関係をより良いものにすることが期待されます。

7. ディスチミア親和型うつ病 (Dysthymia-Affinity Depression)
ディスチミア親和型うつ病は、慢性的な軽度の抑うつ症状が長期間続き、時折、重度の抑うつエピソードが発生するタイプのうつ病です。この型のうつ病は、日常生活に影響を及ぼすことが多く、長期的な治療が必要となることがあります。

8. 世界技法 (World Technique)
世界技法は、砂箱療法の一種で、被験者が砂の中にオブジェクトを配置することで、無意識の心理状態を視覚的に表現する技法です。この技法は、子どもや言葉で表現することが難しいクライエントに対して、感情や心理状態を理解するために使われます。

9. Balint, M. (マイケル・バリント)
マイケル・バリントは、精神分析家であり、医師と患者の関係性に焦点を当てた「バリントグループ」を提唱しました。バリントグループは、医療従事者が患者との関係性を振り返り、より良い治療関係を築くための技法として発展しました。

10. Acting Out (アクティングアウト)
アクティングアウトは、無意識の葛藤や感情を、意識的に処理せずに衝動的な行動で表現することを指します。例えば、過去のトラウマに対する未解決の感情が、突発的な怒りや自己破壊的行動として表出される場合です。

5.3.3. 解説

2024年の問題IIIでは、臨床心理学における重要な概念や技法が出題されています。これらのキーワードに対する理解は、臨床現場での診断や治療に直接関わるものが多く、特にクライエントとの治療関係や、無意識的な感情の扱い方についての知識を深めるために重要です。

例えば、フォーカシングやHTPテストは、クライエントの内面的な感情や無意識の問題にアクセスするための有効な手法です。また、バリントの理論や訓練分析は、治療者自身がクライエントとの関係を理解し、より良い治療を提供するための自己理解を促進するものです。

これらの概念や技法を理解し、実際の臨床場面にどのように応用するかを考えることは、臨床心理学の実践力を高めるために不可欠です。



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