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デスクレスSaaSが産業のインフラになる日

デスクレスSaaSとは?

教育、医療、建設、観光、物流などの業種で、デスクから離れて専門的な業務に従事している方々、いわゆる”ノンデスクワーカー”は世界の労働市場の80%にのぼる。

日本では、人数に換算すると約3000万人。これは労働市場の半数近くを占めると言われている。

市場のポテンシャルは巨大でビジネスで解決できる課題は山積している。だが、もっと大切なのは、業界の専門性や慣習に寄り添い、CX(顧客体験)を磨き上げ続ける姿勢だと思う。

ALL STAR SAAS FUNDでは3/25に「ネクストブレイク本命!CxOが語るデスクレスSaaSのリアル」と題し、SaaSビジネスで業界に潜む社会的課題の解決に挑戦している、支援先3社によるパネルディスカッションを開催する。

そこで、これまで Salesforce, Veeva, Box, Yammer, Zoomなどの名だたるSaaS企業に、「厳選して投資」をしているEmergence Capital Partnersのレポートを参考に、日本におけるデスクレスSaaSの可能性をまとめてみたい。

見過ごせない2つの特徴

物流、小売、医療、介護、農業などに代表される「ノンデスクワーカー」が働いている業界は、経済や社会を維持していく上で必要不可欠な「インフラ」であることは言うまでもない。

一方で、エンドユーザーがデジタルによる業務効率化や最適化の恩恵を、享受しづらかった背景を考えると、よく課題視される「ITリテラシーやデバイスの偏りの問題」に加えて、下記の2つの特徴を考慮する必要があるように思う。

①「人と人の関わり合い」が価値の源泉

特に介護、教育、医療、小売などの業界では、サービス提供時に「人間の介在」による「人と人」との関わり合い(ホスピタリティ)が満足度を大きく左右することが多い。

人と人とのコミュニケーションがもたらす価値は、文脈やそれぞれの状況によって大きく変化するため、ITを導入して得られる「投資対効果」が見えづらい。

結果として、ソフトウェアを導入する際には「人間にしかできないこと」により時間やコストをかけることができるよう、それ以外の業務を効率化・最適化していくことを期待されることが多いが、「人と人の関わり合いが価値の源泉」であるが故に、少しでも煩雑で使いづらくなると一気に不満が溜まりやすく、ユーザーから受け入れられなくなってしまうことが多い。

②暗黙知によるナレッジ継承

そして、専門的な仕事を担うノンデスクワーカーは、暗黙知ベースで知見や経験が属人化されることが多いのも特徴の一つである。

マニュアルでの体系化が難しく、個人でもっているノウハウや事例が、組織的な学びとして還元しづらいことを意味する。

ITソフトウェアの導入で一見業務が効率化・最適化が実現できたように見えたとしても、その業界経験が長い方が専門的な観点で見れば、出力されるデータや設計フローに違和感や疑問を呈される場面も少なくない。

すでに焦点はDX→CXへ移行している

これまでにもノンデスクワーカーの市場にもIT化は一定程度進んでいた。ただし、提供されていたシステムやソフトウェアはオンプレミスや最新ではない技術をベースに提供されることが多かった。

それは、①初期導入費用が高いこと、つぎに②ユーザーの声を集合知的に集め、プロダクトに即時反映するということが難しいという課題を生み出し、実際に使うエンドユーザーにとって「使いやすい=夢中になる」ような顧客体験を実現することが難しかった。

しかし、時代の変化とともに、確実にITやデバイスの普及は一定程度進みつつある。

これからのノンデスクワーカー向けSaaSに求められるのは、DX化のその先。「ユーザーが夢中になる」プロダクトの絶え間ない改善と顧客に寄り添い続けCX(顧客体験)の向上を達成していくことだと思う。

そこで忘れてはいけないのは、決して「人と人との関わり合い」で生まれる価値や、これまで築きあげてきた慣習貴重な暗黙知を軽視しないことだと考える。それぞれの業界や現場に存在する事情を丁寧に汲み取り、プロダクトとサービスの改善を図っていくかがより重要になってくる。

その慣習が続いていることには必ず意味があり、現場のコンテクストに理解・共感し、対話を重ねることを忘れてはいけない。

そのためには業界マニア的なナレッジ、直接ユーザーの元へ何度も足を運ぶ共感と寄り添いつづける姿勢が不可欠である。

SaaSが各産業のインフラになる時代へ

そういった顧客から熱狂的に支持されるSaaSは業界のインフラとしての地位を確立していく。つまり、そのSaaSを導入していることそのものが業界の中でのステータスとなり、就職希望者の入社の意思決定取引するか否かの判断基準そのものになる時代がやってくることを意味する。

今週開催されるデスクレスSaaSのイベントは、顧客から熱狂的に支持をされている3社が登壇する。高い顧客解像度とマニア的な知識を持って、プロダクトを改善し続け、素晴らしいサービスを提供している(※)。

※ALL STAR SAAS FUNDの支援先に共通する特徴であり、私たちの投資判断における最重要基準の一つである。

ぜひ、その業界のインフラサービスを提供する矜持を持ったCXOの熱い想いを感じていただければ幸いです。

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