スタートアップの時価

フィンテック分野のスタートアップ企業価値Top3

1 freee
2 Origami
3 WealthNavi

そのうち、freeeとWealtNaviに、ベンチャーキャピタルとして初期段階で投資できていることは本当に光栄なことだと思っています。

freeeはマンションの一室で数人のとき。
WealthNaviは金融庁への届出をこれからしようとしているとき。

ベンチャーキャピタルはスタートアップの目利きがスキルのように思われがちですが、目利きができても投資ができるとは限りません。

スタートアップもベンチャーキャピタルを目利きしており、受け入れるという決断は、投資をするという決断より数段重いものです。

このような素晴らしいスタートアップと、ベンチャーキャピタルの運営を通じて関われていることは幸せなことだと感じています。

一方、ランキングを見ていると、実態と企業価値の乖離を感じざる得ないスタートアップもいます。

その理由の一つは、企業価値の算出方法にあります。

スタートアップの企業価値は、もっとも近い資金調達ラウンドのプライスに依拠するため、その近さは数ヶ月前とは限りません。

数年前のものもあり、その場合、数年前から現在まで数値がアップデートされないことになります。

つまりは、(現時点での)時価ではないのです。
エクイティによる資金調達がなければ算出すらされないことになります。

スタートアップとしての性質上、初期段階から黒字化し、資金調達ニーズがなくなること、ましてや、外部からエクイティが全く入らないということは稀ではありますが、

一方、変化のスピードが早い環境の中にいるスタートアップを、半年以上のタイムラグを考慮せずに企業価値を固定してしまうことは投資家のミスリードに繋がります。

このジレンマを解消したいのは誰もが思うところでありますが、簡単な話ではなく、結論としては、これ以上やりようがないという実態があります。

スタートアップの時価評価、つまりは、半年以上直近ラウンドがないスタートアップを時価で評価する方法、は多く研究されています。

その一つは、IPEVガイドライン(International Private Equity and Venture Capital Valuation Guidelines)です。

直近ラウンドがない(半年以上経ってしまっている)スタートアップの企業価値を、どう公正に算出するかの指針であり、グローバルで認知されているガイドラインです。

そんな便利なものがあればその通りにすべて時価評価してしまえばいいじゃないか、と思いますが、これまた一筋縄にいきません。

その主な理由は2つあると思っています。

・保守主義という伝統
・時価はロジックで決まるものではない

保守主義という伝統は、身体に染み込んだクセのようなものです。
不確定な要素をもとにアップサイド(価値を上げる)をとることは利益のかさ増しの温床になる。数値というものは常に下げる方向で見つつ、上げるときは第三者の確証(直近ラウンド)があるときに限るべきというものです。ヘタなことをするぐらいなら、しない方がマシという日本では特に根強い考え方です。

そして、時価はロジックで決まるものではないというのも、確かにその通りであるがゆえに公正価値評価は見送られます。

あたりまえですが、なににどれぐらいの価値があると判断するかは人によって異なります。

これが食材や消費財のようなものであれば、判断する人が無限にいるので公正なプライスが自然と形成されます。

一方、スタートアップの企業価値は、資金調達の際に実際価値を判断するプレイヤーは多くて10社ぐらいです。

9社はせいぜい10億円ぐらいの企業価値だろうと見ていても、最後の1社が20億円はあると判断し、その1社が投資をすれば、その企業の価値は20億円になります。

さらには、その1社が20億円と判断すると書きましたが、ベンチャーキャピタルという業種自体が属人性がかなり高いこともあり、担当パートナーの一人が20億円だと言えば20億円になるといっても過言ではありません。

仮にIPEVガイドラインに沿って算出したら、その企業は5億円だったとしましょう。それでも20億円という判断が修正されることはまずありません。

そういう状況下においては、ロジックに基づき決めていく時価評価ってどれだけ意味があるの?という話になってしまいます。

それでも、スタートアップの時価評価のプロセスであり、属人性とのはざまにおいて精度を上げていくという葛藤はこれからも必要だと強く感じています。

きれいごとかもしれませんが、

感覚値に近い20億円という評価と、
ロジックにもとづき計算された5億円という結果、
これに白黒つけるのではなく、互いに参考値として捉え、それぞれが修正すべきポイントがあるのではないかと再考することが大事だと思っているからです。