「父が娘に語る経済の話」ヤニス・バルファキス を読む
政治経済の読書術:「父が娘に語る経済の話」ヤニス・バルファキス を読む
資本主義(市場社会)という「怪物」と私たちはうまく共存できるだろうか。著者のヤニス・バルファキスは、経済学者かつ2015年のギリシヤの経済危機時の財務大臣。父が娘に語って聞かすように、資本主義とは何かを解き明かそうとする一冊。
企業活動は、新しいテクノロジーやマーケティングを駆使し、より豊かで快適なモノをつくり商品として提供する。それがヒットすればその企業は栄え、株主や従業員に利益が還元され、世の中の景気がよくなる。そして経済全体が豊かになればみんながハッピーになる、と経済学は教えてきた。のはずなのに、著者の娘は聞く。「どうして世の中にこんな格差があるの。人間ってばかなの?」と。
本作の語りは、娘の問いに答えを出していくかたちで進み、経済がどのように生まれたか、マネーの果たしてきた役割、資本主義の功罪などに触れる。資本主義は、歴史を通じ莫大な富を作り出してきたが、万能ではない。それどころか「強欲」な資本主義は、世界中で深刻な貧困や格差、借金を生み出してしまっている。
資本主義は、ショッピングモールを魅力的にすることで、他の場所で起こっている貧困や理不尽さを、私たちの目から覆い隠している。我々自身もまた見て見ぬふりを決め込んでいる。というより、うかうかしていると自分も「負け組」に転落してしまうという強迫観念に駆られながら、資本主義の手の平で踊らされている状況に、向き会えていないように思える。
著者のヤニス・バルファキスはこうした状況に対し「自分の身の回りで、そしてはるか遠い世界で、誰が誰に何をしているか?」を問うよう提案している。この難しい問いに、他人の判断に任せず自分の言葉で答えられるよう、経済の仕組みを知ることが大切だと言う。「資本主義」に、無知なまま取り込まれるか、知識を得て遠くから俯瞰してこの世界を見ることができるかが、決定的な違いになる。それが精神の自由の源泉になる。結局、欲を満たすだけではヒトは真に幸せになれないということなのだろう。