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食物繊維が体重減少を促すメカニズムを科学的に検証する

皆さんこんにちは。生命科学研究者のTatsuyaです。

前回は最新技術を使った腸内細菌叢の解析法について紹介しましたが、ちょっとマニアックな内容だったので、今回はそういった研究所での発見が、どのように私たちの生活に役立つようになるのかを見ていきたいと思います。

今日の論文は、2021年のNature に掲載された" Evaluating microbiome-directed fibre snacks in gnotobiotic mice and humans"という、アメリカ、ワシントン大学の研究チームからの論文です。


概要

食物繊維の摂取が腸内細菌叢を変化させ、糖尿病や肥満の予防に効果があることはこれまで多くの研究で示されてきました。しかし、腸内細菌叢は食事だけでなく、様々な要因で変化するため、”腸内細菌の変化が特定の食品によるもので、腸内細菌の変化が健康に効果がある”ということを証明するのは非常に困難でした。
そこで、この研究では豆の胚乳から抽出した食物繊維を含んだ補助食品を用意し、マウスと、12人の被験者に厳格な食事管理のもと、食物繊維の影響を検討しました。
その結果
1、マウス実験で、豆、オレンジ、麦から抽出した繊維によって増加する細菌叢と、活性化した炭水化物代謝酵素と血中タンパク質を発見
2、12人の肥満の被験者に対して、前後14日間の高脂質低繊維食を挟み、21日間の豆繊維や、2種類の繊維補助食品を摂取した効果を、マウス実験同様に発見
3、これらのデータをコンピューター解析して、それぞれの食物繊維が活性化する炭水化物代謝酵素と血中タンパク質の因果関係を発見し、効果の指標となる血中タンパク質の候補を同定
しました。
これにより筆者らは、食物繊維の人体への影響を、その他の要因を可能な限り排除した状態で解明し、研究の際に指標となる血中タンパク質の候補も同定したことによって、今後の研究が加速するだろうと述べています。

今回のポイント

さてみなさんいかがでしたか?
食物繊維一つとっても種類は様々で、それぞれの繊維によって少しずつ違った効果が出ることはこれまでもわかっていました。
今回の論文では、それぞれの繊維が及ぼす影響を、前回同様大量のデータを一度にコンピューター解析してメカニズムを解明すると同時に、今後は簡単にその効果をモニターできるような血液検査の指標も提案しています。
この結果は食物繊維が肥満解消に効果があるというさらなる証明になりました。ただ、前書きにもあるように、さほど目新しくはありません。ではこの研究がなぜ重要なのか。
そこで今回は、科学的な検証の条件についてもう少し掘り下げたいと思います。

科学的な検証

この論文で検証された最も重要な実験は、12人の肥満のヒトの患者に対し、計49日間ものあいだ、食物繊維の投与と高脂肪低繊維食という栄養管理を続けて、詳細なデータを回収したという点です。

臨床研究では結果に影響を与える要因がとても多いので、因果関係を証明するのが非常に難しくなります。今回の研究のように、食物繊維は日常の食べ物にも含まれるので、その結果が本当に食物繊維の摂取による事を証明するのは大変です。

観察研究と介入研究

では他の要因を無視して食物繊維の効果を証明するには、どうしたら良いでしょうか。2つの極端な方法で考えてみましょう。

1:大量(何万人も)の肥満の人に対して調査して、他の影響を受けてたとしても、食物繊維をとったら痩せる効果がある事を証明する
2:食物繊維以外の要素をできるだけ排除して少数の(この場合は12人)対象で効果を証明する

という2通りの方法があります。ちょっと追加で
3、もちろん両方のいいとこ取り(ランダム化比較試験)
が最強ですが、1から順に難易度も信用度も上がっていきます。

観察研究

1のパターンに多いのが観察研究です。人種など遺伝的な要素、生活習慣などの様々な要素に関わらず、違いがあることを証明しようというものですが、前提条件も結果もバラバラなので、とにかく沢山の人に調査しないと証明できません。

介入研究

2は介入試験です。今回のように、同じ条件の人を集め、被験者全員に同じように栄養管理をすることで、食物繊維以外の影響を無視して、食物繊維の効果を証明しています。人数は比較的少なくすみますが、条件を揃えるのが大変です。

無作為ランダム化比較試験

そして最後は近年Covidのワクチンなどでも行われていた方法で、人々を、ワクチンを打った人と、打たない人の2条件でランダムに振り分けてその後の感染率などをみて、ワクチンの効果を検証するという方法です。これは難易度も高いですが、まさに効果を直接的に見る科学的に最も信頼性の高い手法です。

という訳で、今回は臨床研究における3つの手法と信頼度について解説しました。いろいろなところで情報を見た時には、どんな方法で検証したのかなって事を考えると、どのくらい信頼できるかの目安になり便利ですので、一度みてみましょう!

それでは今回はここまで。
ご質問、ご感想などありましたらお気軽にコメントしていただけると嬉しいです。それでは!


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