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男女賃金格差の開示義務化を受け、海外のDEI Techの潮流は日本にも訪れるか?(2023年追記あり)
XTalentの上原です。withworkというワーキングペアレンツ向けの転職サービスを運営しています。
今日は、DEI Techのトレンドは日本にも訪れるか?というテーマで最近考えていたことについて書いてみます。
この記事の想定読者
日本では「女性活躍」「ダイバーシティ」といった表現で語られるテーマに関心がある人。特に経営者やIR責任者、人事、またはこういった事業テーマに感心がある方にオススメです。
男女の賃金格差の開示義務化
先日のこのニュースは、経営・人事の役割を担っている方なら一定の注目をされたのではと思います。
これはかなり強いプレッシャーですね。スタートアップも組織拡大が進むことを見据えると、早々に取り組まないといけないでしょう。簡単に解決できる課題ではないので、経営の意思が重要。
— 上原達也|ワーキングペアレンツのための転職サービス (@uetatsu39) May 20, 2022
男女の賃金差の開示義務化 政府方針、非上場企業も対象:日本経済新聞 https://t.co/2WQbfiOVEr
未上場含め301名以上の企業がその対象となり、Web上で男女の賃金格差を開示する義務がある、というもの。人的資本の開示については近年ずっと話題になっていますが、この情報開示は企業としてもかなり重く捉えられるものなのではないでしょうか。
なぜこうした流れになるのか。それをDEIという概念から、考えてみたいと思います。
世界のTech企業も推進する、DEIという概念
「ダイバーシティ」、「D&I」という表現が日本では多いため、「DEI」という表現が聞き慣れない方も多いかと思います。
DEIとは、Diversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包括性)を略したものです。
GoogleではDiversity annual reportの2019年版からこの単語が登場し、DEI担当役員も置かれるようになりました。
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Salesforce社のこちらの紹介文も分かりやすいです。
時代は「D&I」から「DEI」へ。
両者は何が違う?
多様性を認識し、互いが違いを受け入れて尊重し合う「D&I(Diversity and Inclusion)」。最近では従来の考え方に「Equity(公平性)」をとり入れた「DEI」が主流になりつつあります。「D&I」では“同等”の機会を提供するだけだったのに対し、「DEI」は貧困や人種差別など社会構造的な不平等を是正し“公平”に活躍する機会を持たせようとするものです。
この「Equity(=公平性)」に注目が集まった背景には、近年アメリカで議論となっているマイノリティへの差別などの社会問題があります。一人ひとりがそのバックグラウンドによって出発点から“不平等”になってしまう状態のままでは社会構造は変わらず、分断や格差を定着させてしまう。こうした問題意識から、「Equity」が重視されるようになったのです。
このように、DEIはグローバル企業では経営戦略の重要な要素として位置づけられる概念なのです。(ただ海外の記事でもD&Iという表記はまだ見かけるので、まさに過渡期なのだと解釈しています。)
「自分は差別なんかしない、男女平等だよ。」と考えている人は、きっと多いのではと思います。ただ、Salesforce社の引用にもある通り「出発点から不平等」になってしまうという、社会構造の課題があります。
例えば、これだけ共働きが一般化しても、男性がメインの稼ぎ手・女性は家事育児等のケア責任を担う、という固定観念が根強く残っています。誰が悪い、ではなく構造の問題として捉え、どうすれば公平な状況に近づけるのかを考えていくことが必要です。
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平等(Equality)と公平(Equity)の違いを考えるにあたって重要なことは、「目標達成の手段」が平等か否かではなく、「機会や難易度、負荷」などが、目的を考慮した上で相対的に公平かどうかということを重要視しているという点である。
なつみっくすさんの「私たちvs課題」という表現が個人的にもとてもしっくりきていますので引用させてください。事実を捉えながら、客観的な議論をすることが大切です。
社内でジェンダーギャップ、無意識のバイアスを話す会をしました。
— なつみっくす | 母親アップデートコミュニティ(HUC) (@nattu723) May 11, 2022
約30名の参加、初めての部署。
国内外のデータを見せながら、日本の現状を説明すると「知らなかった」との声多数。主観だけだと感情論になるので、客観も踏まえたうえで、男 vs 女の戦いではなく、私たち vs 課題に視点を向けたい。
このように、今あるギャップを構造の問題と捉え、機会の公平性を担保しよう。という動きがEquityに向けた取り組みなのだと自分は解釈しています。
DEI Techという潮流
ここからが本題です。
こうした多様性・公平性・包括性における課題をテクノロジーで解決するスタートアップが、海外でも徐々に目立ち始めています。
年々投資額が増加していることに加え、最も調達額の大きいカテゴリが"Closing the pay gap" であることも興味深い点です。
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いくつか、自分がウォッチしている企業についてもご紹介します。
SYNDIO
代表的な企業としてSYNDIO という企業内の性別・人種等による賃金格差を是正することを目的としたスタートアップがあります。シアトルに拠点をおき、2021年には8300万ドルの資金調達をしています。
様々な要素を加味した分析によって賃金の不公平さを特定し、対処が可能になるというもので、Salesforce、Adobeなどが導入。
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untapped
ダイバーシティ採用プラットフォームのuntappedは、2022年に名称をCanvasから変更。2021年には5000万ドルの資金調達をしています。
ATSのデータと連携して採用パイプライン上の多様性を可視化、DEIゴールに向けた採用のサポートを行えること加え、人口統計・経験・認知多様性などを含む様々な要素からフィルタリングを行って多様な人材を発見できるタレントプール機能を備えているようです。stripeやZOOMでも導入されています。
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The Mom Project
仕事復帰を目指す女性のための再就職支援サービスであるThe Mom Projectは、仕事と子育てとの両立、または育児からの仕事を復帰を目指す女性に向けてジョブマーケットプレイスを提供しています。利用者に対してはコミュニティやトレーニング機能も提供し、利用企業にはダイバーシティを促進するためのサポートも提供しているそうです。こちらの企業も2021年に8000万ドルの資金調達を完了しています。Nike、facebookなど様々な大手企業で利用されているようです。
(withworkももっと頑張らねば)
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cleo
ワーキングペアレンツ向け福利厚生サービスのcleoは、従業員のライフイベントをサポートするためのプログラムを提供。専門家によるケアや、様々な福利厚生をまとめたマーケットプレイスを提供し、利用する従業員は育児・不妊治療・教育・栄養サービス等へのアクセスが可能となります。2021年には、4000万ドルの資金調達を完了しています。
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あくまで一例ですが、こうしたDEIの課題をテクノロジーで解決する企業が増えつつあるようです。とはいえ、北米での資金調達の相場を考えると、まだまだ小さいサイズであることは否めません。実際、ユニコーンと言われる企業はまだ出てきていないわけですから。
日本市場はどうなる?
日本では、DEIに関する議論が遅れてきていたことは否めません。ジェンダーはその中でも「一丁目一番地」だと自分は考えておりますが、日本のジェンダーギャップ指数がグローバル120位と非常に低い位置にあることからも、課題の大きさは自明です。
一方で、企業がそこに大きな予算を投じるか、テクノロジーを活用してその課題を解決する余地があるか・・については、「もう少し先」という感覚を個人的には持っていました。
ただ、良くも悪くも法改正は大きなトリガーとなりえます。コーポレートガバナンス改訂、育児・介護休業法の改正、女性活躍推進法の改正、そしてこの賃金格差の開示義務。
もしかしたら、自分の想定よりも一気に動くのでは?という気もしています。
これら全てをオープンにする時代。数字だけ追いかけても...という声もよく聞きますが、そういうフェーズではもう無く、新卒採用への影響も大いでしょう。
— 上原達也|ワーキングペアレンツのための転職サービス (@uetatsu39) May 24, 2022
・女性管理職比率
・男女の賃金格差
・男性の育休取得率
女性管理職率の公開義務化 金融庁、上場4千社に | 共同通信 https://t.co/cDqinc8Uxn
追記:2023年時点でのアップデートは?
この記事から1年ほど経ったので、その後のアップデートも
Kanarys (データ駆動型DEIプラットフォーム)
1年前に記事を書いていた時点ではノーマークの企業でした。
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2021年、2023年と資金調達を重ね、調達額は累計で$10Mを超えているそう。
Officially launched in July 2019, the Kanarys platform uses anonymized data to develop targeted, actionable insights that can assist in diagnosing, prioritizing, and optimizing a workplace’s DEI efforts.
記事によると、企業が DEI の重要性を認識している一方で、公平性と包括性を測定するためのツールが殆どないとあります。その中でKanarysは公平性と包括性を定量化し、構造的な偏りを明らかにし、数百のデータソースを使用して体系的な変化を推進するという「データ駆動型プラットフォーム」であると述べられています。
HubSpot Venturesも投資し、Hubspotとの連携も進めているという点も興味深いです。
Five to Nine (社内イベント管理サービス)
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こちらは、社内向けイベント管理、その中でもERG(従業員リソースグループ)と呼ばれる社内向けのイベント、コミュニティ機能に注力をしているサービスです。
記事の中では、ERG リーダーが「ダイバーシティ税」を負担していることが多いという言及もあり、社内でマイノリティとして行動する従業員の課題解決にも寄与しているようです。日本企業でもWomen Networkや、最近だと不妊治療中の方のコミュニティなど取り組むケースも見かけるようになりましたが、やはりその旗振り役は本来のミッションとは異なる無償労働になりやすい構図もあるかと思います。ERGがDEI推進において効果的であるとはよく言われますが、その中でのペインに対するソリューションと言えそうです。
以下に2つ取り上げるのも、Kanarysに近いようなコンセプトのサービスのようです。
Dandi(DEI分析プラットフォーム)
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人事リーダーが従業員の取り組みにおける公平性のギャップを特定し、従業員の多様性の課題に対するデータ駆動型のソリューションを実装するためのサービスである、と記事でも言及されています。
Mathison(DEIオペレーティングシステム)
![](https://assets.st-note.com/img/1689720291317-QWbJ5n7nvz.png?width=1200)
Mathison は、初の「DEI オペレーティングシステム」と述べられており、以下の機能を提供しています。
・DEIの測定、ベンチマーク、レポート作成
・採用パイプラインを拡大するためのダイバーシティソーシング
・行動を変え、偏見を減らすための DEI トレーニングとツール
記事の中では、既存サービスのコストの高さも言及しており、実際日本でもこうした事を取り組むなら大手の人事コンサルに依頼するしか現状ソリューションはありません。
現状把握と分析、適切な戦略立案のものと採用や社内トレーニングなど一貫して取り組んでいくうえで、データやテクノロジーを活用したサービスがこれから生まれていくのだろうと思われます。
2023年のアップデートとして海外のDEI Tech企業をいくつか紹介しましたが、やはり社内の現状を可視化、分析しながらソリューション提供をしていくアプローチを取る企業が増えてきていますね。
XTalentについて
XTalentもこの大きな変化のなかで価値提供・課題解決をしていけるよう、取り組みの手を広げていきたいと考えています。
2023年にDEIコンサルティング事業をスタートしましたが、「データ駆動型」という点では海外の先駆者の取り組みと同じ思想を持っているかもしれません。DEIサーベイや多文化交差型トレーニングなどのソリューションを、スタートアップから大手企業まで提供を進めてきました。
現在はコンサルティング中心に価値提供をしていますが、今後は自社プロダクト開発も着手し、より大きな価値提供を目指していきます。
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