能「皇帝」に思うこと その6
夕暮能「羽衣」
「夕暮能」は2017年9月に伏見稲荷大社で開催された能のイベントで、伏見稲荷の能舞台で金剛龍謹若宗家による「羽衣」と「小鍛冶」が上演された。タイトルの通り時間帯はまさに夕暮れ時で、舞台に差し込む夕陽が天女を照らした。それが“いつも以上に”美しく見えたのだ。天女が頭に頂く冠のかざしがユラユラと揺れるだけで、キラキラとした光が天女から放たれた。そして天の羽衣には、京都画壇の技術でもって描かれた鳳凰の描き絵があった。もうそれだけでうっとりだった。
「これが三番目物の美しさなのか!」と時間を超えて、太古の昔とつながった様な心地がした。これは知識や経験などではなく、直感というか本能で感じた美しさだった。
木を生きる L’EXPÉRIENCE DE L’ARBRE
うんと話は変わるが、2018年にフランスの演劇家・シモンゴーシェ氏と演劇制作を行なった。彼は2008年に私の元を訪れ能楽の稽古をした。
10年後に(つまり2018年に)彼から聞いた話だが、彼はアントナンアルトーの書籍『演劇とその分身』に影響を受け、西洋の演劇が失ったとされる『力』を探しに東洋の伝統芸能の勉強をしていた。(彼は日本に来る前にはバリ島にいた。)
私達は謡と舞のお稽古を通して、色々な事を話した。最後のお稽古の時に彼は仕舞「老松」を舞った。僕は片言の英語で頑張って伝え、彼はその言葉からそれ以上のものを持って帰っていった。
フランスに帰った後、東洋の持つ『力』の存在にショックを受けて、一度は演劇をやめようとまで考えたそうだ。しかし、彼は制作活動を続ける事を決意した。……そして10年の年月を経て再び私に連絡をくれたのだった。
十年前、最後のお稽古で交わした約束を果たす為に。
つづく
第八回竜成の会「皇帝」ー流行病と蝋燭ー
令和5年5月28日(日)14時開演
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