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母の入院で教えられた思いやり

母が急に意識をなくして病院に運ばれてから亡くなるまで、毎日病院に行きました。

もう9年前になります。

夜になって、病院の玄関から待合室を通り、病室に向かいました。

意識がないまま苦しみつづけている母のことを考えながら歩いた廊下は、かつて私が救急隊員として何百回も病人やけが人をストレッチャーに乗せて搬送した、見慣れた場所でした。

夜なのに、診察室の前の長イスには数人の人が座っていました。

薄暗い照明の下で、その人たちの表情は見えませんでした。

その時ふいに、不安そうに座っている人たちの思いが、胸に迫ってきたように感じました。


ストレッチャーに横たわり苦しみの表情浮かべる傷病者に、泣きながら家族が呼びかけていた映像がよみがえりました。

集中治療室の前のベンチに座っていた家族に、
「お大事にしてください」
といい、受付から搬送証明書を受け取って救急車に乗りこんでいた頃の映像。

今、イスに座っている人たちは、手術を受けている家族が心配で、不安と戦っているんだということが、ふいに胸に迫ってきました。

あの頃、救急隊員として、たくさんの人を搬送しながら、自分はそんなふうにリアルに家族の人たちの思いを感じたことがあっただろうか?

慌ただしく救急車に収容し、バイタルを観察し、処置をしながら搬送して、病院に収容する。

そのくり返しはいつしか日常になっていました。

私は立ち止まって、イスに座っている人、一人ひとりの肩に手をおいて
「つらいですね。回復を祈りましょう」
そういってあげたい衝動にかられました。


病室で苦しそうに呼吸する母の顔を見ていると、ふいに涙が流れそうになりました。

もっともっと、もっともっと
やさしくなりなさい
思いやりの心を持ちなさい

母に、そう教えられたような気がしました。

倒れてからずっと苦しそうな表情でしたが、9年たった今ではやさしく笑った顔しか思い出せなくなりました。

もしサポートしていただけたら、さらなる精進のためのエネルギーとさせていただきたいと思います!!