ポルタ・マッジョーレ
まもなくテルミニ駅に到着するというアナウンスがあって、列車が急に速度を落としたので、半ばうたたねをしていた視線をふと外にやると、ポルタ・マッジョーレがあった。西暦52年建造、ローマ市城門。
十年前、夏の始発で後にしたテルミニ駅の情景をぼんやりと思い返していた私の目にそのとき不意に飛び込んできたものは、二千年前のローマン・アーチだった。終着駅にむけ緩行する列車の窓から、円環撮影のように構えを変えて行き過ぎる白いトラバーチンの集積。
“私がローマである”
そのときかなりはっきりとした感覚をもって、私はその石積みから、正確にそういう通告を聴き取った。
二千年を超えて、いま私に、そうした意志を通達しうるような規範。
彼女はそれっきり黙し、私はそのまま放心して、列車はすぐに駅にすべりこんだ。
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