杖をついたお婆さんが、どうしても小さい子供の気を引きたくて・・・
僕には、3才と4才の娘がいます。
外を連れて歩いていると、よくお婆ちゃんから声をかけられます。
子連れの方なら経験あると思うんです。
特にご年配の方は、小さい子供が好きなようで、よく声をかけてくださいます。
大抵は、一言、二言。
「かわいいねー」
「いくつ?」
などです。
買い物中などが多いですが、稀に、公園でも話しかけてくる散歩中のお婆ちゃんがいらっしゃいます。
僕は先日、かなり子供と話すことの情熱が強めのお婆ちゃんに会いました。
一見、魔法使いのように弱々しいお婆ちゃん
近所の公園で夕方、娘二人を公園で遊ばせている時です。
娘二人は、キャッキャッしながら、大きめの滑り台の上で遊んでいました。
僕は、
「あいかわらず、元気やなぁ」
などと思いながら、娘二人を眺めていました。
すると、僕の背後から声がしました。
「可愛い、お子さんやねぇ」
振り返ると、杖をついたお婆さんが満面の笑顔で立っていました。
失礼ながら、見たところ80代ぐらいの方とお見受けしました。
この表現も申し訳ないのですが、形容するならば、絵本によく出てくるような魔法使いの雰囲気です。
杖をついた魔法使いのような弱々しいお婆ちゃんでした。
このお婆ちゃんが、どうやら僕の娘二人が気に入ったようです。
お婆ちゃんは、冬の寒空の夕方ということもあり、全身を毛糸の帽子やモコモコのジャンパーなどの防寒具で覆われていました。
非常に重装備な格好ですが、お婆ちゃんの目は輝いています。
顔を(またも失礼な表現で申し訳ないですが)しわくちゃにされて、笑顔で
「かわいいねぇ」
と仰っています。
ほぼ毎日、夕方の保育園帰りに子供達を公園に連れていっている僕は、このように声をかけられることは、多少慣れています。
「はい、有難う御座います。」
さらりと答えました。
お婆ちゃんは、杖をつきながら、歩を進めます。
僕の横を通り過ぎ、滑り台に近づいていきました。
どうやら、娘たちと話したいようです。
娘たちも、向かってくる老婆の気配を感じ、二人で遊ぶのをやめ、じっとこちらを見ています。
「おーい!かわいいねぇ!」
お婆ちゃんは、娘二人に大きめの声で話しかけました。
僕は、娘二人が何と返答するのかを見ていました。
・・・
が、一向に返事をしません。
娘二人は見ているだけです。
「としは、いくつ?」
お婆ちゃんは、よほど小さい女の子が好きで、話をしたいのでしょう。
また笑顔で問いかけました。
しかし、まだ子供たちは答えません。
見ているだけです。
滑り台の上から、無表情で見下ろしています。
お婆ちゃんは、きっと足が悪いんでしょう。
それでも、子供と関わりたい一心からか、
杖をついて、少しづつ滑り台に近づいていきます。
普段はよく喋る4才の長女も、なぜか黙っています。
僕は内心、
(おいおい、返事したれや。。)
と思っていました。
お婆ちゃんは
「あれー、聞こえにくいかなぁ?」
などと言いながら、ずっと笑顔を絶やさず、近づいていきます。
まだ反応をしない娘たち。
お婆ちゃんは
「せーの、ばぁ!」
などと、杖をつきながら、片手でいないいないバァなどをされています。
(あ、アプローチを変えてきた。
しかし、3、4才児には・・・?)
僕は声にならない声を出していました。
しかし、なぜか、まだ娘二人は無表情のまま、お婆ちゃんを滑り台の上から見下ろしているだけです。
いよいよ気まずくなってきた
僕も、数歩後ろで様子を見ていましたが、いよいよ気まずさが限界に近づいていました。
娘たちに、
「何か返事しいやー」
などと、さりげなく声をかけそうになりました。
しかし、それは不要でした。
お婆ちゃんが、最終手段とも言える予想外の行動に出たからです。
お婆ちゃんの最終手段
杖をついたお婆ちゃん。
小さい娘二人が、何を言っても、何をしても反応をしません。
でも、どうしても、話したかったのでしょう。
何としてでも、子供の気を引きたかったのでしょう。
お婆ちゃんの情熱が、お婆ちゃん自身を思わぬ行動に駆り立てました。
そうなんです。
なんと、お婆ちゃんは、持っていた杖を急に頭の上で振り回しながら、小気味良いステップを踏み始めました。
「 ほっ! はっ! よっ! 」
威勢の良い掛け声まで自分で出しています。
そして、お婆ちゃん自身の顔は満面の笑みです。
「 ほっ! ほっ! えいっ! ニコッ! 」
頭の上で、ぶんぶん両手で杖を振り回します。
プロペラのように振り回したり、天に向かって突き上げたりもします。
僕は、
「 いや、踊れるんかい! 」
と大声で叫びそうになりました。
「 杖、いらんがな! 」
しかし、僕の余計な言葉で、お婆ちゃんが決死のダンスで、子供たちの気を引く作戦に出たのを、邪魔してはいけません。
「 ほっ! はっ! よっ! 」
お婆ちゃんのダンスは続きます。
ずっと杖を頭の上でプロペラのように振り回しまくっています。
まるで、孫悟空です。
心持ち、長女の表情が和らいだように見えました。
( お婆ちゃん、がんばれ! )
僕は、心の中で叫びました。
なぜか僕の体調に異変が
ずっとお婆ちゃんのダンスを見続けていた僕です。
不思議と、なぜか僕の足腰から力が抜けていく感覚を感じました。
( もしかして、僕のマジックポイントが吸い取られている・・・?! )
違う違う!
僕は、頭を振りました。
( あのダンスは、決してふしぎな踊りなどではない! )
「 ほっ! はっ! えいさっ! 」
僕のマジックポイントを吸い取ったからか、お婆ちゃんのダンスは激しさを増します。
すると、やっとです。
二人の娘も、徐々に笑顔になってきました。
「 ほいっ! えいっ! あらよっ! 」
杖は、上に下にと目まぐるしく動きます。
お婆ちゃんのダンスはより一層激しさを増します。
すると、とうとう、その瞬間が訪れました。
お婆ちゃんの踊りに合わせて、娘たちも滑り台の上で小躍りを始めました。
お婆ちゃんの情熱が、子供たちを突き動かしたのです!
お婆ちゃんの勝利です!!!
しかし、しかしです。
興奮は長くは続きません。
しかし、そこは3、4歳児の集中力。
残念なことに、すぐに飽きてしまい、滑り台を反対側に滑って降りてしまいました。
「 ほっ! はっ! よっ! 」
お婆ちゃんは、ほぼ届かぬ声と悟りながら、滑り台の反対側に向けて、余韻的に躍り続けました。
空転する杖が、真冬の空を虚しくかき混ぜます。
僕はさらに膝の力が抜けていく感覚を感じました。
なぜなら、余韻の踊りは、世の中で僕しか見ていないのですから。
僕のマジックポイントがゼロになる前に、お婆ちゃんに踊りをやめてもらわねばなりません。
ふと見ると、娘たちは遠くの遊具に走っていっています。
僕はお婆ちゃんの肩越しに
「すいませんねぇ」
と声をかけました。
お婆ちゃんは僕の方を振り返り、笑顔で
「いえいえ、可愛いお子さんやねぇ」
と答えてくださいました。
ようやく、頭の上でかかげていた杖を、本来の用途に戻しました。
そして、ゆっくり、ゆっくりと杖をついて去っていかれました。
僕の頭には、
( いや、杖いるんかい。。 )
という言葉がよぎりました。
宴の後
僕は、寂しげなお婆ちゃんの背を見つめます。
いえ、寂しげではなかったかもしれません。
不達成感と、達成感が入り混じる背中だったようにも思います。
ともかく、僕はこう思いました。
( もう少し早く、僕が娘たちを促したら良かったかな。。 )
少しの後悔と、ダンスの不思議な余韻に浸りながらも、娘たちに目を向けました。
時計を見ると、もう帰宅すべき時間です。
娘たち二人に声をかけ、二人を電動自転車に乗せました。
自分自身も自転車にまたがって、電動自転車のスイッチを入れます。
すると、
「ピ、ピ、ピ」
という耳慣れない音。
見ると、電動自転車の電池が残り数%に。
( もしや、お前も吸い取られてたか? )
いやいや、そんなことは無い。
たまたま僕が充電を忘れていただけでしょう。
気を取り直して、ペダルに力を入れて漕ぎ始めます。
さて、杖をついたお婆ちゃんの激しいダンスを見た後です。
きっと、子供の印象にも強く残ったでしょう。
僕は、とても気になったので、聞いてみました。
子供はどう感じていたのでしょうか?
おもしろかったのか?
それとも、つまらなかったのか?
自転車の後ろに座る4歳の娘に問いかけます。
「 お婆ちゃん、杖を振り回してダンスしてたな 」
「 うん 」
「 どう思ったん? 」
「 杖振り回したら、危ないなぁって思ってた 」
娘のレベルは上がっていたみたいです。
今日も読んで頂いて有難う御座いました😃
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