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【2025年版】日本国内におけるディフェンステックスタートアップを取り巻く環境について(その①)

皆さん初めまして!
東北唯一の独立系ベンチャーキャピタル「スパークル」でキャピタリストをしている佐藤です。

2022年4月に入社し、2024年から正式に投資担当として活動していますが、前職は陸上自衛隊の幹部自衛官として、小銃や機関銃などの火器を整備する後方支援部隊(昔で言う兵站部隊)に所属していました。

これまでのバックグラウンドを活かし、最近日本国内でもトレンドになりつつあるディフェンステックスタートアップ(以下、ディフェンステック)について書いていこうと思います。
(Noteを書くのは今回が初めてなので、優しい目で見守っていただけると幸いです)


〇本記事の目的

本記事はディフェンステックの活用に関するナレッジシェア、そして私自身の備忘を目的としています。
これからディフェンステック領域での起業や参入を考えられている方の一助になれば幸いです。
(そして情報の不足や誤りがあればご指摘いただき、界隈での更なるナレッジ蓄積を図れればと考えています。)

〇ディフェンステック先進国アメリカの状況

まず初めに、ディフェンステックが大いに盛り上がっているアメリカの状況やトレンドについてシェアできればと考えております。

Q.そもそもディフェンステックって盛り上がっているの?


という疑問をお持ちの方も多数いらっしゃると思いますが、国内ディフェンステックの先端を走られているスカイゲートテクノロジズさん(https://www.skygate-tech.com/)では、

クラウド・AIなどのデジタルテクノロジーによって、防衛上の課題を解決するソリューションを提供する企業の俗称

スカイゲートテクノロジズHPより引用

と定義されています。

すなわち、これまで戦艦や戦闘機を製造するような重厚長大産業であった防衛産業領域に対し、デジタル技術を活用したサービスを提供するスタートアップを指す用語です。
(ビジネス領域のみならず、軍事領域でもDXが推進されるような状況になっているということですね)

そんなディフェンステックですが、アメリカでは「GAFAM」ならぬ「SHARPE(シャープ)」という呼称で、ユニコーンとなったディフェンステックが知られています。

SHARPEは以下の企業で構成されています。

Shield AI
人工知能を活用して無人航空機(UAV)や自律的な軍事システムを開発し、戦闘の効率化と兵士の安全向上を目指す企業。

HawkEye 360
商業衛星を利用して無線周波数信号を追跡・解析する技術を提供し、政府や商業顧客向けに位置情報と活動パターンの分析を行う。

Anduril Industries
AIと自律システムを駆使した国防向けのソリューションを開発し、国境警備、監視、ドローン防衛システムなどを提供する企業。

Rebellion Defense
国防と安全保障向けにAIベースのソフトウェアを開発し、米軍や連邦政府の任務遂行を支援する次世代技術を提供する。

Palantir Technologies
政府機関や企業に対して大規模データの統合・解析プラットフォームを提供し、意思決定支援や情報分析を行う企業。

Epirus: Epirus
高出力マイクロ波技術を用いたドローン防衛システムを開発し、無人航空機の脅威に対抗するソリューションを提供する企業。

参考(Ledge.aiさまにてわかりやすくまとめられていました):https://ledge.ai/articles/sharpe

中でもShield AI社については最近、海上自衛隊が「V-BAT」という艦載中型ドローンを採用したことでも話題になりました。

Shield AI社HPより引用
かなり特殊な尾翼形状をしています

参考:https://www.drone.jp/news/20241229230650107439.html

こうしたアメリカでの流れに加え、近年の防衛予算の増加傾向から、日本国内においても同様の流れが発生するのでは?という期待感によってディフェンステックが注目されるようになってきたと感じています。

昨年初夏に開催された日本3大スタートアップの祭典「IVS2024」でも、ディフェンステックに関するセッションが行われました!
私も聴講させていただきましたが、かなりの盛り上がりでした。
IVS2024アーカイブ動画はこちら↓


〇防衛省・自衛隊の取り組みについて

そんな中、防衛省・防衛装備庁でもスタートアップの高度な技術やアイデアを積極的に取り入れるべく、様々な取り組みが行われるようになっています。
今回は私が把握している範囲で取り組みのご紹介をできればと思っています。

①防衛技術指針2023

「防衛技術指針2023」は、防衛省が防衛技術基盤を強化するための具体的な方針を示した指針で、2023年12月に発表されました。
この指針は、「国家安全保障戦略」等をもとに策定され、

a.必要な機能・装備の早期創製
b.技術的優越の確保と先進的な能力の実現

防衛技術指針2023より

の2点を主要な柱として掲げています。

この中では、急速に進展する科学技術を安全保障に活用するため、研究開発期間の短縮や、民生技術の発掘・活用を重視することが記載されています。

防衛省・自衛隊がどのようなビジョンを持って研究開発を行っていくのか、どのような技術に注目しているのかを理解することができるので、ご興味のある方は一読をおすすめします。

参考:https://www.mod.go.jp/j/policy/defense/technology_guideline/index.html

防衛省「防衛技術指針2023」より抜粋
左下にスタートアップの存在が明記されています

②安全保障技術研究推進制度(防衛省ファンディング)

安全保障技術研究推進制度、通称防衛省ファンディングは、2015年度に防衛省が創設した研究資金提供制度です。
これは大学や研究機関、企業などの独創的な研究を発掘し、将来有望な技術を育成することを目的としています。

つまり、防衛省が「こんな研究をしてほしい」というテーマを出して、それに応えられる研究者を募集し、選ばれた人たちに資金を渡して研究を進めてもらいます。
この研究成果は基本的に公開されるので、防衛分野のみならず一般社会でも役立つ可能性があります。

防衛装備庁HP:安全保障技術研究推進制度
「別紙1 令和6年度公募に係る研究テーマについて」より抜粋

参考:https://www.mod.go.jp/atla/funding.html

③スタートアップ技術提案評価方式

こちらは、防衛産業に新しい企業や技術を取り込むため、防衛装備庁がスタートアップ企業と柔軟に契約できるようにした取り組みです。
これまで防衛産業はその重厚さから硬直性が高い領域であり、さらに入札制度と参加資格等の兼ね合いで、新進気鋭のスタートアップは参入することが困難な状態となっていました。

この方式が導入されたことで、高度かつ独自の新技術を有するスタートアップ(現状ではJ-Startup選定企業、NEDO SBIR採択企業等)が防衛産業に参入しやすい環境が整備されました。
本取り組みは2024年6月から運用が始まり、高度で独自の技術を持つスタートアップを支援しながら、防衛産業の基盤強化やサプライチェーンの強靱化を目指しています。

参考:https://www.mod.go.jp/atla/soubiseisaku_newentry.html

また、上記取り組みに関連して、経済産業省においても「技術力ある中小企業者等の入札参加機会の拡大について」というスタートアップへの入札機会拡大のための取り組みを行っています。
こちらは防衛産業に限らず活用余地があるかと思いますので、是非チェックしてみてください!

ちなみに、本取り組みの中にはNEDO認定VC等のファンド出資実績が適用要件となるものも存在していますが、J-KISS等の新株予約権型出資は適用範囲外という話を聞いています。
2024年末時点での情報ですので、適用を検討されている方は経済産業省に問い合わせることをお勧めします。

参考:https://www.meti.go.jp/information_2/publicoffer/sanka_shikaku/gijyuturyoku_chusyo.html


④防衛産業参入促進展(DIPEX)

防衛産業参入促進展は防衛装備庁が主催する展示会で、スタートアップや中小企業が防衛産業への新規参入をしやすくするための取り組みです。
本展示会には現役の自衛官や装備庁関係者も参加するので、現場の声を聴いたり、実際に参入するにあたっての各種相談等が可能です。

参考:https://www.dipex2024-event.com/

令和6年度防衛産業参入促進展HPより引用
今回は東京・名古屋で開催されました

⑤防衛イノベーション研究所

最後にややおまけ的ですが、防衛イノベーション研究所について触れたいと思います。
こちらは新技術を生かして画期的な装備品等を生み出す機能を抜本的に強化するため、2024年10月に新設された施設です。
場所はなんと恵比寿ガーデンプレイス。自衛隊とはかけ離れたキラキラした場所ですね…(遠い目)

こちらでは外部人材をプログラムマネージャとして募集し、積極的な研究開発を行っていくようです。

防衛装備庁HPより引用

〇まとめ

思っていた以上に長文となってしまったので、今回はディフェンステックの概念やアメリカ状況、それを踏まえた防衛省・自衛隊の取り組みについてご紹介しました。

次回以降は、近現代戦によって変化した戦争の形から、今後注目される技術領域や日本国内におけるディフェンステックスタートアップ・投資家が考慮すべき事項等についてまとめていければと思います。

もしディフェンステックにチャレンジしようとしている方、お悩みをお持ちの方いらっしゃいましたら、可能な限り相談に乗らせていただきますので、お気軽にご連絡ください!

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X(出没率低めです…):https://x.com/sato_tatsu41270


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