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ペースメイク宣言なんてだいたい嘘だから信じない方がいい

「嵩さんめ!騙された!!!」

ゴールして、まず心の中でこの言葉が浮かんだ。

去年の11月、第七回筑大競。去年のレースの中で一番いい走りができた。

どうやら僕はこの競技会と相性がいいらしい。2年前のこの競技会でも調子がよくはじめて14分台を出した。

「なんで高校生なんかに負けてるんだ!恥ずかしくないのか!!」

未来の先輩たちがこんな風に怒られれてるなんて当時の僕に考えられるはずがない。だって嬉しすぎてウレタンになっていたんだから…


そんな縁起のいい大会で去年も5000mレースが行われた。

レース前、キャプテンの嵩さんがいった言葉は忘れられない。

「3000mまでは俺がペースメイクするよ。8分45くらいかな?」

うわ、かっこいい。キャプテン自らチームのために動いてくれるんだ!そう思うとめちゃくちゃ安心してきた。

なんせもうペースメイカーが決まっている。ついていくだけでいい。ついていければ絶対ベストだ。よし、コバンザメになろう。

そんな國井コバンザメは嵩マンタをロックオンした。

スタート。ターゲットは一つ。嵩さんの背中だけ追えばいい。よーし、背中が見える位置についたぞ、、ん、、、、


!?!?!?!?!?!?!?!?!?

衝撃の光景だった。なんとマンタは1周目からぶっ飛ばしていたのだ。ペース通り3000mを8分45で通過するなら、1km平均2分55。なのに嵩さんは2分50を切って1000mを通過していた。

なんでや。何が起きた。

久しぶりの5000m、さすがにオーバーペースになることが分かったコバンザメはやむなく1人旅に。

終始1人で走る。こんなはずじゃなかった。迷えるコバンザメは間違いなく迷走していた。走っているだけに。

そんなこんなで3000mを通過、1人でも8分45で通過できた、ただ1人で走るダメージは大きい。少しはねやすめしたい、サメなんだけど…


とそこに救いの手が。嵩さんが疲れ始めてきたのだ!よしよし、この流れをモノにすれば大幅ベストだ。へへへへ…

!???!?

2回目の衝撃。嵩さんがスパートをかけたのだ。まあ正確には本当にスパートをかけたのはラスト1000くらいからで、シンプルに僕が垂れただけなんだが。

射程圏内からどんどん離されていく。この気持ちはまるでロケットの分離されたエンジンみたい…

自分でもよくわからないたとえが出たところで、ラスト1周。苦手なラストスパートをジタバタしている中、ホームストレートでは歓声が上がっていた。


14分44秒72。


結局ラスト2000mはキロ3イーブンが限度だった。一方一度は背中の見えた超絶エンジン搭載マンタは14分15秒だかそんなんでゴールしていた。

ただ。1人で自己ベストを更新できた。前までは人の力を借りなければ出せなかったタイムを1人で出せたのが自信になった。これが1番昨シーズンで渾身の走りをできたレースだった。

これは嵩さんが飛び出してなかったら気づけなかった。


ゴールしてすぐに嵩さんのもとにいってこう叫んでやった。

「ぜんぜんペースメイクしてくれなかったじゃないですかあ」

「ん?そんなこと言ったっけ??」

全く、都合がいい。

「國井は3000通過どれくらいよ?」

「一応8分45でしたけど…」

「じゃいいやん。我ながらナイスペースメイクやったな~」

「いや引っ張ってもらってないっすから」

こんな会話を半年たった今でも時々する。


レースの展開なんていざ走ってみないとわからない。その日の調子、コンディション、メンタル、体調。どんなに競技を長く続けていても、予想なんて簡単にひっくり返る。


だから陸上は最高にオモロイ。


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