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"Gorgeous (Kanye West)" 和訳&解説 My Beautiful Dark Twisted Fantasy Track.2


初めに


"My Beautiful Dark Twisted Fantasy"要約・解説の2本目、今回解説する曲は"Gorgeous"です。

「豪華さ」や「壮麗さ」を意味するこの曲は、ヒップホップでは珍しいギターソロを大胆に取り入れ、さらにThe Turtlesというゴリゴリのロックバンドからのリフをサンプリングするなど、ロック・ミュージックとの融合が際立った一作です。

この曲が制作された背景には、Kanye Westが当時直面していた逆風が深く関係しています。Dark Fantasyの解説でも言及したように、MTVアワードでのいわゆる「テイラー・スウィフト事件」によって、kanyeはキャンセルカルチャーに巻き込まれている際中でした。

(事件に関する詳しい記事はこちらから)

彼がした選択はハワイのスタジオにこもり、曲を作り続けること。次回のアルバムが評価されれば自分に対する世間の評価もひっくり返る、そうKanyeは信じていたのです。ですがそれは簡単なことではありません。

例に出すのは申し訳ないですがChance the Rapperの”The Big Day”のように、注目されていたアルバムが期待を下回るとそのラッパーの評価は一気に下がります。酷い場合にはネット上で作品がMeme化するなど、世間はとてもシビアなものです。

Kanyeにとって、「自らの行動によって失われつつある名声を取り戻す」というプレッシャーは計り知れないものでした。そうした重圧と共にもがきながらも出した答え、それがGorgeousなのです。


全訳

[Chorus: Kid Cudi]

Ain't no question if I want it, I need it
I can feel it slowly drifting away from me
I'm on the edge, so why you playing? I'm saying
I will never ever let you live this down, down, down

欲しているか、必要かどうかなんて もはや問題じゃない
名声がいま途絶えていくのを感じるんだ
俺は今ギリギリの状態にいて 「なぜお前は楽しんでるんだ」と問いかける
俺は絶対にお前を失望させたりはしないよ

Not for nothing, I've foreseen it, I dreamed it
I can feel it slowly drifting away from me
No more chances, if you blow this, you bogus
I will never ever let you live this down, down, down

無駄なことなんてない  かつて名声を予知して夢見ていた
それがいま途絶えていくのを感じるんだ
最後のチャンス、しくじればインチキのレッテルを貼られる
俺は絶対にお前を失望させたりはしないよ

[Verse 1: Kanye West]

Penitentiary chances, the devil dances
And eventually answers to the call of autumn
All them fallin' for the love of ballin'
Got caught with thirty rocks, the cop look like Alec Baldwin

刑務所行きのリスクに、悪魔は踊る
そして最後は秋の呼ぶ声に応じる
やつらは皆裕福な暮らしへの誘惑にのめりこみ
*Alec Baldwinみたいな白人警官にコカインの罪で捕まるんだ

※Alec Baldwinはアメリカの白人俳優。”thirty rocks(薬物)”と彼の出演する映画"30 Rock"を掛けている。

Inter-century anthems based off inner-city tantrums
Based off the way we was branded
Face it, Jerome get more time than Brandon
And at the airport, they check all through my bag
And tell me that it's random

世代を超える讃美歌は、世代間の癇癪や
俺らが押されてきた烙印に基づく
現実を見ろ。*JeromeはBrandonよりも重い刑罰を課されたんだ
空港では白人たちが俺のバッグを全てチェックする
「あくまでランダムな検査です」って感じで

※Jeromeはカニエの曲で何度も言及されている典型的な黒人。同じくBrandonも典型的白人を指し、ここでは同じ罪でも黒人の方が白人よりも課される刑期が長いことを皮肉っている。

But we stay winning
This week has been a bad massage, I need a happy ending
And a new beginning and a new fitted
And some job opportunities that's lucrative

それでも俺らは勝ち続ける
今週は期待外れのマッサージだった。気持ちよい手コキをしてくれよ
あとは新しい始まりと調和と、
稼げる仕事の機会を

This the real world, homie, school finished
They done stole your dreams, you don't know who did it
I treat the cash the way the government treats AIDS
I won't be satisfied 'til all my niggas get it, get it?

これが本当の世界だ、友よ、義務教育は終わったんだ
白人たちは夢を奪ってきた、でもお前はそれが誰なのか気づくことはない
俺は政府にとってのエイズみたいに ぞんざいに金を扱う
全ての黒人が稼げるようになるまで 俺が満足することはないんだ

[Chorus: Kid Cudi]
Ain't no question if I want it, I need it
I can feel it slowly drifting away from me
I'm on the edge, so why you playing? I'm saying
I will never ever let you live this down, down, down

欲しているか、必要かどうかなんて もはや問題じゃない
名声がいま途絶えていくのを感じるんだ
俺は今ギリギリの状態にいて 「なぜお前は楽しんでるんだ」と問いかける
俺は絶対にお前を失望させたりはしないよ

[Verse 2: Kanye West]

Is hip-hop just a euphemism for a new religion?
The soul music of the slaves that the youth is missing
But this is more than just my road to redemption
Malcolm West had the whole nation standing at attention

ヒップホップとは新興宗教を表す婉曲語句か?
若い世代が失いつつある、奴隷たちの魂の音楽だ
でも俺にとっては贖罪の道以上のものなんだ
*マルコム・ウエストが全土の姿勢を正した

マルコムX(アメリカの黒人差別に対して戦った活動家)とカニエ・ウエストを掛けている。

As long as I'm in Polo smiling, they think they got me
But they'd try to crack me if they ever see a Black me
I thought I chose a field where they couldn't sack me
If a nigga ain't shootin' a jumpshot, runnin' a track meet

ポロを着た俺が微笑んでいる限り、彼らは俺を飼いならしたと思い込んでる
でも黒人としての俺を見たら 打ちのめそうとするだろうな
誰にも解雇できない分野(ラッパー)を選んだつもりだった
*もしジャンプショットを打てないなら、陸上トラックを走れ


※恐らく、上手くボールを扱えなくてバスケット選手になれないなら陸上選手になればいいという適材適所の考えを説いているが、それはアスリートの才能がなかったので音楽業界を選んだKanye自身のことでもある。

But this pimp is at the top of Mount Olympus
Ready for the world's games, this is my Olympics
We make 'em say ho 'cause the game is so pimpish
Choke a South Park writer with a fishstick
I insisted to get up off of this dick

でもこの女たらし(カニエのこと)はオリンポス山の頂点にいる
世界規模のゲームに備えろ、これは俺のオリンピック
俺らは群衆にhoと言わせる このゲームは女に溢れてるからな
そんで俺のことをGay fishと皮肉った*サウスパークの作者を窒息死させてやる このDickから降りるよう伝えたんだ


※サウスパークはアメリカのカートゥーンアニメ。あらゆるものを皮肉って敵に回すことで知られ、カニエのオートチューンを使った声を馬鹿にした。詳しくはVerse2の要約で解説します。

And these drugs, niggas can't resist it
Remind me when they tried to have Ali enlisted
If I ever wasn't the greatest, nigga, I must have missed it

薬物の誘惑に 俺らは抵抗することが出来ない
*モハメド・アリが入隊されそうになった時のことを思いださせる
もし俺が最高じゃないんなら、見逃してるだけなんだろうな

※モハメド・アリはアメリカのボクサーだが、ベトナム戦争への徴兵を拒否した結果、タイトルを剥奪された。徴兵は「国からの要請」という名の強制であったのだ。

[Chorus: Kid Cudi]
Ain't no question if I want it, I need it
I can feel it slowly drifting away from me
I'm on the edge, so why you playing? I'm saying
I will never ever let you live this down, down, down

欲しているか、必要かどうかなんて もはや問題じゃない
名声がいま途絶えていくのを感じるんだ
俺は今ギリギリの状態にいて 「なぜお前は楽しんでるんだ」と問いかける
俺は絶対にお前を失望させたりはしないよ

[Verse 3: Kanye West]

I need more drinks and less lights
And that American Apparel girl in just tights
She told the director she tryna get in a school
He said, "Take them glasses off and get in the pool"

アルコールと平穏を求める
それとアメリカンアパレルのタイツを着た女もだ
彼女が「学校に行きたい」とマネージャーに伝えると
彼は「眼鏡を外してナイトプールに入れば考えてやる」と言った

It's been a while since I watched the tube
'Cause like a Crip set, I got way too many blues for any more bad news
I was looking at my resume, feeling real fresh today
They rewrite history, I don't believe in yesterday

テレビを見るのは久しぶりだった
*クリップの一員の様に 悪いニュースに気が沈みすぎてしまうから
自分の履歴書を眺めていた 今日のことのような、新鮮な気持ちになる
白人たちは歴史を書き換える 昨日のことなんて信じられるかよ

※Crip(クリップ)はカリフォルニア沿岸のギャング。アメリカで最も暴力的なグループともいわれ、他グループとの抗争や麻薬取引など悪いニュースが絶えない

And what's a Black Beatle anyway, a fuckin' roach?
I guess that's why they got me sitting in fuckin' coach
My guy said I need a different approach
'Cause people is looking at me like I'm sniffin' coke

それにしても*黒人のビートルズって何だ? ゴキブリみたいなものか?
だからこそ俺らをエコノミークラスに座らせるんだろうな
「別のアプローチが必要だ」とダチが言う
だって人々は俺がまるでコカインをやっているかのように見るんだからな

※世界一の売り上げを誇るビートルズでも彼らが黒人だったらここまで売れていないという主張。

It's not funny anymore, try different jokes
Tell 'em hug and kiss my ass, X and O
And kiss the ring while they at it, do my thing while I got it
Play strings for the dramatic ending of that wack shit

そう言うジョークにはもう飽きたぜ お前も違うのを試せよ
受け入れて俺のケツにキスしろって伝えとけ
*教皇が治めてた時代には指輪に、そして俺が権威を得ているときにはケツにキスをしろ
この有害な曲に 壮大な弦楽器のサウンドトラックをかける

漁師の指輪の話のように、指輪はカトリック教皇の象徴とされ、そこにキスをして献身を示す伝統があった。だがカニエの場合は自分のAssholeにキスすることを服従のポーズとしている。

Act like I ain't had a belt in two classes
I ain't got it, I'm coming after whoever who has it
I'm coming after whoever, who has it?
You blowin' up, that's good, fantastic

ラップと作曲、2つの階級でチャンピオンベルトを巻いてないように振る舞うが
実際にまだ持ってないんだ 持ってる奴は誰でも追いかける
誰でもだ、でも誰がいま持ってるんだ?
お前は人気が出て来てる 良かったな、素晴らしいよ

That, y'all, it's like that, y'all
I don't really give a fuck about it at all
'Cause the same people that tried to blackball me
Forgot about two things, my Black balls

そうだ、みんな、これが現実だ。
俺はもうそんなこと記憶にすらない
だって俺のことを追放しようとしてた奴らは
同じように忘れていたんだ ─俺の*黒人としての度胸をな

"Black balls" は直訳だと「黒いボール」を意味するが、「黒人(Black)」と「度胸(ball)」を掛けている。また"Blackball"は動詞だとグループから追放するという意味もある。

[Chorus: Kid Cudi]
Ain't no question if I want it, I need it
I can feel it slowly drifting away from me
I'm on the edge, so why you playing? I'm saying
I will never ever let you live this down, down, down

欲しているか、必要かどうかなんて もはや問題じゃない
名声がいま途絶えていくのを感じるんだ
俺は今ギリギリの状態にいて 「なぜお前は楽しんでるんだ」と問いかける
俺は絶対にお前を失望させたりはしないよ

[Verse 4: Raekwon (Wu-Tang Clanのメンバー)]

Ayy, yo
I done copped Timbs, lived in lenses, kid
Armani suits, fresh fruits, Bally boots, and Benzes
Counting up, smoking, one cuff

聞いてくれ。
ティンバーランドを履いた俺をパパラッチされる 
カメラに撮られる人生だった
今じゃアルマーニのスーツ、新鮮なフルーツ、
バリー の靴に、ベンツの車たち
持ってるもの全て数える それから一服して、袖をまくる

Live as a red Jag', a Louis bag, grabbin' a blunt, 
fuck it
Steam about a hundred and one L's
*Kites off to jails, buyin' sweats, running up in Stetson
Nigga hat game was special

赤いジャガーとルイ・ヴィトンのバッグみたいな人生 俺はブラントを吸う
そうして101本のブラントを失ったことに腹を立てる
牢獄に手紙を送り、スウェットを買い、
STETSON(ステットソン)で走り抜ける 
俺の帽子のセンスは唯一無二だった

*"Kite"とは牢獄の人などに送る手紙のこと。恐らく警察に捕まった仲間に何かしらのメッセージを送っている。

It matched every black pair of Nikes, throwing dice for decimals
The older head, bolder head, would train a soldier head
Make sure he right in the field, not a soldier dead
That meant code red, bent off the black skunk
The black Dutch, back of the old shed

Stetsonは黒いナイキによく合う そこから金のためにサイコロを振る
*先輩で度胸のある俺が 新入りを鍛える
それは彼が正しい場所にいられるように 死なないように
緊急事態だった 俺はマリファナでハイになる
巻き煙草を古い小屋の裏で吸っていたんだ

*恐らくRaekwonとKanyeのこと。Raekwonは伝説のヒップホップグループWu-Tang Clan(1992-)のメンバーであり、Kanyeの大先輩である。音楽業界の腐敗や世間の冷たさもよく理解しており、ここでは先輩としてKanyeにアドバイスをしている。

If you can't live, you dying, you give or buy in
Keep it real or keep it moving, keep grinding
Keep shining, to every young man, this is a plan
Learn from others like your brothers Rae and Kanye

「生きられないなら死んでるも同然 与えるか妥協して従うか
もしくは本物であり続け、全身し続け、努力し続けるかだ
全ての若者よ、輝き続けろ。これが俺の計画だ」
そして他人から学べ 俺やカニエみたいな兄弟からな

[Chorus: Kid Cudi]
Not for nothing, I've forseen it, I dreamed it
I can feel it slowly drifting away from me
No more chances, if you blow this, you bogus
I will never ever let you live this down, down, down

無駄なことなんてない  かつて名声を予知して夢見ていた
それがいま途絶えていくのを感じるんだ
最後のチャンス、しくじればインチキのレッテルを貼られる
俺は絶対にお前を失望させたりはしないよ



解説・補足

Chorus~Verse1

Ain't no question if I want it, I need it
I can feel it slowly drifting away from me
I'm on the edge, so why you playing? I'm saying
I will never ever let you live this down, down, down
(欲しているか、必要かどうかなんて もはや問題じゃない 名声がいま途絶えていくのを感じるんだ
俺は今ギリギリの状態にいて 「なぜお前は楽しんでるんだ」と問いかける
俺は絶対にお前を失望させたりはしないよ)

何度も言及されている"it"とは「名声」を指します。Kanyeはラッパーとして自分が危うい状態におり、名声が消えかかっていることに分かっていながらも、それを楽しんでいる自分に気づかされます。

「最後のチャンス、しくじればインチキのレッテルを貼られる」という状況にありながら「俺は絶対にお前(観客)を失望させたりしないよ」と高らかに宣言する、Kanyeのクレイジーさが見える一節です。

Verse2

Choke a South Park writer with a fishstick
I insisted to get up off of this dick
(そんで俺のことをGay fishと皮肉ったサウスパークの作者を窒息死させてやる このDickから降りるよう伝えたんだ)

サウスパークについて知らなかったとしても、下記のキャラクターをどこかで見たことがあるでしょう。1995年から続く長寿アニメですが、一言で表すなら"ザ・アメリカンブラックコメディ"です。

とにかく色んなものを皮肉るため、中国では全コンテンツが閲覧不可になっている。

過激な描写や痛烈な社会風刺、有名映画・ドラマのパロディ、ブラックジョークをすることで知られますが、その矛先はKanyeにも向かいました。

アニメの中でKanyeはジョークの発案者を拉致し、暴力をしかける。

このストーリ―の中でKanyeは"Fish stick"と"Fish dick"をわざと聞き間違えるという下らないジョークにすらキレるような「自分が大好きで、とにかく冗談の通じないやつ」として描かれています。この話は310万世帯で視聴されるなど好評を博しましたが、Kanyeは自身のブログで「昨夜サウスパークが私を殺した」と反応します。そしてこのヴァースにおいて彼は「サウスパークの作者を窒息させる」と物騒なことを口走りますが、こうした言及によってこのコメディの信憑性を高めるという皮肉な結果に。

Verse3

And what's a Black Beatle anyway, a fuckin' roach?
I guess that's why they got me sitting in fuckin' coach
それにしても黒人のビートルズって何だ? ゴキブリみたいなものか?
だからこそ俺らをエコノミークラスに座らせるんだろうな)

ここでKanyeは黒人差別に言及し、「ビートルズがもしも黒人だったらここまで売れていない」と主張します。このような音楽業界における黒人アーティストの評価について、あの白人ラッパーEminemも自身の楽曲で言及したことがあります。

Let's do the math: If I was Black, I would've sold half
(算数をしよう。もし俺が黒人だったら、セールスは半分だろうな)

White America(2002)

「白人の方が売れやすい」という認識はいつの時代も共通なようで、それは黒人コミュニティが産んだヒップホップでも同じことです。
このように単純な音楽の質だけでなく、人種というファクターも売り上げに大きく影響しており、Kanyeは売れてもなお自分をまるでゴキブリのように軽蔑して見る世間に対して怒りを露わにします。

この曲は全体を通じて、黒人差別や白人至上主義といったアメリカ社会の不平等に焦点を当てています。そうした差別的な国家に対し、”Gorgeous”と皮肉的な形容詞をつけて批判しているのです。

最後に

今回は”Gorgeous”の全訳を敢行しました。
このように”My Beautiful Dark Twisted Fantasy"は内省、自己批判、恋愛の苦悩、黒人差別に対するメッセージなど様々な要素の絡み合ったアルバムであり、大名盤と呼ばれる所以はそこにあります。

次回は3曲目”Power”を同じように要約、解説していきたいと考えています。出来れば一週間以内にアップロードしようと考えているため、気長にお待ちください。他に訳や内容を知りたい曲があれば、下記の500円チップでリクエストを受け付けているので、気軽にリクエストしてください。

また「この部分をこうしたら見やすくなるんじゃないか」「この歌詞はこういう意味じゃないか」などの意見があれば、コメントで教えていただけると嬉しいです。

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