「かっこいい大人」に関する対話。
「子どもの頃は、かっこいい大人に憧れてたはずよな~という話がしたくて。」
「なるほど?」
「かと言って、大人って身長でかいよな!力持ちだよな!お金も持ってるよな!という当たり前の話がしたいわけでもない。」
「なんやそれ、まぁ聞こうか。」
「俺たちはいま、大人と呼ばれる年齢になったわけやんか、子供のころにあこがれてたような大人って周りにいないよな~と思うんだよね。」
「実際、君はどんな大人にあこがれてたわけ?」
「それが難しいんだけど、こんなエピソードを聞いてほしくて。」
「話してみてよ。」
「OK、長くなるから覚悟してね。」
「それは、小学校のころの話なんだけど、毎朝登校する交差点があって。そこに、近くの大学で教授として働いている「教授」と呼ばれている方(ちなみに坂本龍一ではないが、坂本龍一に似ている。)がボランティアで黄色い旗を持って交通指導をしてくれていたんだよね。その人は、毎朝信号を待っているときに面白い話をしてくれたんだ。
『しってた?納豆はね、醬油とかからしを入れる前に混ぜたほうがうまみ成分が増えておいしくなるんだよ。』
『猫アレルギーって、猫の何がアレルギー成分かわかる?毛だと思っている人が多いと思うんだけど、実はよだれなんだよ。』
とかとか、小学生の俺たちにとっては面白すぎた話をしてくれていたんだよ。まさに教授って感じだよね。
小学4年生の時くらいからその教授はほぼ毎朝そんな話をしてくれていたわけなんだけど、小学6年生の最終登校日、もう卒業式の練習と卒業アルバムにみんなからのコメントを書いてもらうことくらいしかやる事がない日だよね。最高な日。そんな日の朝にも教授は決まった交差点に立っていてくれてこんな話をしてくれたんだ。
『かっこいい大人って何だと思う?』って。」
「小学校の最終回にふさわしい話題だね。」
「そうなんよ、最終回だけめちゃくちゃ鮮明に記憶に残ってて。まるで笑っていいとも!の最終回みたいだったよ。」
「芸能人が壇上に上がりすぎて、中居くんが『整理しよ!いったん整理しよ!』って言っている横で、松本人志が知らん外国人にキスして、タモリが『これ俺の番組だからな!』とキレ散らかすやつね。」
「ま、話の続きをするんだけど、『かっこいい大人って何だと思う?』という問いに対してみんな思い思いの回答を出したんだ。『金持ち!』『イケメン!』とか。」
「そうなるよね。」
「もちろん、教授は一刀両断。
『残念だけど全部違うかもな~、君たちにはまだ難しい問題だったかもしれないね。』
当時は『難しい』ということすらどう難しかったのか理解できなかったんだけど今になるとわかる気がするよね。」
「そうだな~、なんとなくわかる。それで教授はなんて言ったん?」
「『好きなことに誇りと情熱を持って、熱中してる人だよ。実は僕もその1人で、大好きな研究に没頭してる。』って言ったんだ。」
「なるほどね、どうりで俺たちがかっこいいと思っていた大人がほとんど幻想だったってわけだ。今になってわかるけど、欲に塗れて損得感情で生きてる大人がほとんどだもんね。そもそも、好きなことってなんだろう状態だしなぁ。」
「そうなんだよね、俺もその1人になっていると思うと将来を生きるキッズたちに申し訳なく感じてしまうんだよね。教授は続けてこう言った。
『好きなことに没頭する、ためにはたくさんの努力が必要なんだよ。だいたいその努力ができずにみんなやりたくないことをやらざるを得ない状況に陥ってしまう。』
って。小学6年生にだぜ?ちょっと教授ヤバいと思う。」
「ただ、数十年経っても教授のその話は正だよね、こんなに世界は目まぐるしく変わってるのに。」
「そうなんよ、だから最終回の教授の話は信じていいと思ってる。」
「だね、まずはこれだけは続けてたい、これしてたら幸せになれる、と思うことを見出すことからだね。」
「俺はキャバクラだな。」
「本末転倒じゃん。」