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人類はどこへ行くか?幸福のホメオスタシスと進化的不安:持続的幸福はどこに?



はじめに

民主主義の浸透、性別平等、栄養改善、医療の進展、人権の尊重、職業選択の自由確保など、過去の封建社会と比較すると、現代社会は目覚ましい進歩を遂げてきた。それにもかかわらず、人間の幸福感は長続きせず、しばしば基準値に戻る傾向がある。これは「幸福のホメオスタシス(恒常性)」と呼ばれる現象だ。要は、幸せは慣れてしまい、薄れがちだ。だが、実は、それには、人類の進化、つまり生物学的な素養が関係している。我々は、生物として、進化の過程として、幸福感が継続しづらくできている。違う言葉で言うと、進化的不安はこのメカニズムに深く関わっており、幸福感の持続を阻害する要因となっている。

幸福のホメオスタシスに関する主要研究を調べてみた

  • 快楽的トレッドミル理論(ヘドニック・トレッドミル理論)
    ブリックマンとキャンベルの研究によると、人間は人生の変化に迅速に適応し、最終的に幸福感は基準点に戻る。たとえ宝くじに当たるようなポジティブな変化があっても、幸福感は一時的にしか変動しない。

  • 幸福の基準点理論(セットポイント理論)
    リュッケンとテルゲンの研究では、幸福の約50%が遺伝的要因で決まるとされる。収入や生活条件の改善も、幸福を一時的に高めるに過ぎない。

  • イースタリンの逆説
    イースタリンの分析によれば、経済成長が短期的な幸福の上昇をもたらすが、長期的な影響は見られない。相対的な収入や社会的比較が、幸福の恒常性を支配している。

  • カーネマンの「経験的幸福」と「評価的幸福」
    カーネマンの研究では、生活条件の改善が「経験的幸福」にはほとんど影響を与えない。人々の瞬間的な幸福は、驚くほど安定している。

  • ディートンの経済分析
    ディートンは、基本的なニーズが満たされることで幸福感が向上する一方、一定の閾値を超えるとその効果が減少することを明らかにした。

  • リュボミルスキーの持続的幸福研究
    感謝の実践や意味のある活動への取り組みが、幸福のホメオスタシスを超えて持続的な幸福をもたらすことができるとする。

人間は幸せを感じづらい? 「進化的不安」の視点から見る幸福のホメオスタシス

進化的不安とは、生存に適応するために人間が発展させてきた、不安を感じやすい、心理的メカニズムだ。以下に、進化的不安と幸福のホメオスタシスの関係を示す。人類は、進化的不安、つまり、不安を感じ易いことで、生き残ってきた、ホモサピエンスの末裔なのだ

  1. 生存を前提とした不安
    ホモ・サピエンスは、人類の歴史の99%以上である狩猟採集民族の時代、肉食獣がいないかなど、常に周囲の危険を察知し、不安を感じることで生存を確保してきた。不安になる能力がなければ、我々は今ここにいない。この「不安」は、現代でも日常の小さな問題や漠然とした不安に過剰に反応する傾向を持ち、幸福感の安定化を阻害する要因となる。

  2. 社会的比較と競争
    社会的な比較や競争は、進化的不安の一環として見られる。古来より、他者と比較することで、相対的なリスクに備える。この比較意識が、社会的改善の効果を限定的なものにし、幸福感を元に戻す役割を果たす。社会が全体として明らかに改善しても、全体として改善するので、比較感では向上しているように見えづらい、のだ

  3. 慢性的な不安の影響
    進化的不安は本来短期的な反応であるが、現代では「老後の不安」「キャリアの不安」など、漠然とした、しかし、ホモサピエンスが生物的には理解が困難な、不安が慢性化しやすい。この慢性化した不安は、幸福のホメオスタシスの一因となり、幸福感の持続を難しくしている。

幸福のホメオスタシスと進化的不安に対する提言

  1. 不安を受け入れ、よく知り、行動に変える
    不安は人類の進化的遺産であり、遺伝子の乗り物だ。完全に取り除くことはできない。ポジティブに考えよう。我々は不安を感じることで、生き延びた偉大なる先人達の子孫なのだ。しかし、今こそ、しっかりと認識することで、不安は、敵ではなく、その仕組みを知ることで、味方にすることができるのではないか

  2. 歴史を真摯に学ぶ。我々は確実に前進している。愚直に学ぶことで不安に打ち勝つ
    誰が、私有財産が無い、人権も無い、子供を産めば20%が亡くなっていた(100年前の凡その数字。現代の先進国は約0.3%)、時代に戻りたいだろうか?我々は、既に過去のローマ皇帝より良い栄養状態にいる。が、勿論、その事実に敬虔に学ぶ姿勢がなければ、遺伝子がもたらす「不安」に屈するだろう。我々人類は、常に愚直に学び、考え抜くことで、短絡的エゴによる暴力や権威による支配(例:封建社会における身分や王政による支配や帝国主義による侵略)を捨て、長期的に便益の多い社会を構築してきたはずだ。我々は、再度、真摯に学ぶことで、生物的な不安に打ち勝つ。

  3. マインドフルネスや禅の心で、ドーパミン的幸福の反作用である不安に打ち勝つ
    簡単に手に入る幸せは消えるのも早い。マインドフルネスや感謝の実践によって、幸福感の急速な適応を緩和できる。内発的な目標を追求することで、進化的不安による適応を防ぎ、持続的な幸福を得られる。今を生きる。自分を良く知る。ドーパミン的幸福に甘んじて、その反転から来る不安には負けない

  4. 社会的つながりの強化。我々は再び結束出来る。他者貢献こそが持続的な幸福感の強化へ
    社会的な絆を深め、コミュニティ、集団での協力的な行動は、進化的不安を最小限に抑え、持続的な幸福の重要な要素となる。我々は、社会的な生き物である。短期的な、自分さえ良ければ良い、ではなく、他人の為になりたいとの気持ちは素直な欲求であると、認めて、他者貢献こそ長期的な幸福感につながる、と強く認識すべきではなかろうか。まさしく、「情け人のためならず」なのだ

結論

進化的不安と幸福のホメオスタシスは、現代における人間の幸福感に大きな影響を与えている。進化的不安は生存のために不可欠なものであり、完全に消すことはできない。しかし、それを理解し、受け入れ、適切に対処することで、幸福の持続が可能になる。公平な社会づくりや心理的回復力の向上、社会的つながりの強化が、幸福のホメオスタシスを超える鍵となる。

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