tatsuaki yoda

高校公民科教師。「拍手と笑いあふれる教室」「授業で勝負する教師」がモットー。第59回読…

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高校公民科教師。「拍手と笑いあふれる教室」「授業で勝負する教師」がモットー。第59回読売教育賞最優秀賞「社会問題と葛藤する」。

最近の記事

知的障害者のきょうだい⑦-ひとつかみの砂金-

なぜ学ぶのだろうか。  この問いにあなたは何と答えるだろうか。人工知能の登場で学びのあり方が変容し、様々な議論がある。太宰治は『正義と微笑』の中で次のように教師に語らせている。昭和初期の文章だ。  「覚えるということが大事なのではなく、大事なのは、カルチベートされるということなんだ。カルチュアというのは、公式や単語をたくさん暗記してゐる事だけでなくて、心を広く持つということなんだ…<中略>学問なんて、覚えると同時に忘れてしまっていいものなんだ。けれども、全部忘れてしまっても

    • 知的障害者のきょうだい⑤--15年ぶりの振り返り--

      □「いい兄バカになって頑張ってほしい」と書いた彼。 16歳だった生徒たちと「知的障害者のきょうだい」の授業を行って、15年がたった。彼らも社会人となり、父となった者もいる。当時の授業をどのように捉えているのか、数名の卒業生に振り返りをお願いした。高校卒業式以来13年間連絡をとっていない生徒もいた。自宅にお手紙を書いてみた。  まずは「いい兄バカになって頑張ってほしい」と書いたA君である。 https://note.com/tatsuaki_yoda/n/n41ee09d11

      • 知的障害者のきょうだい⑥--同じ釜の飯--

        ぱーっと霧が晴れたようになった。 「・・・ある絵を見て、はっとして。はっとした、というより、圧倒されたんです。メキシコの女の子が描いた絵だったのだけれど、おそらく自分の母親を描いたもので。ピンク色のドレスを着て、緑色の帽子をかぶって、ちょっと呆然とした笑顔の、母親の絵で、私、それを見て、美しい、美しい、て、思って。自分が悩んでいたことや、夫や、夫の新しい恋人への憎悪や、自分自身への自己嫌悪や、そういうものが本当にぱーっと霧が晴れたようになって、お腹の底の方から、生きる希望、と

        • ダイエットして、勉強したら女の子は振り向くと言い聞かせたら、博士号取得した生徒の話。

          「見つけたぞ。永遠を。 それは太陽に融ける海だ。」      脚本家の宮藤官九郎様が好きだ。 映画『69 sixty-nine』(2004年)を見たことはあるだろうか?  長崎県佐世保を舞台に、好きな女の子にモテたい! ただただとことん楽しみたい! 主演の妻夫木聡が「楽しく生きたもん勝ちばい、退屈なやつらに俺たちの笑い声ば聞かせてやるったい」と言い放ち、青春満タンでドタバタを繰り返す。1969年の高校生を描いた名作映画である。  1969年、スマホもwindowsもgoogl

        知的障害者のきょうだい⑦-ひとつかみの砂金-

          知的障害者のきょうだい④--当事者との対話--

          □“彼”と向き合う。  この取り組みの中で考えこみ、最も格闘したのは、当事者と向き合うことだった。生徒に答えのない問いを投げかけ、葛藤させるならば、抱いた問いを受け止める当事者と質疑応答し考える機会をどうしても用意したかった。  5年間にわたって何を切り口にして、この授業をするべきかを探し、「知的障害者のきょうだい」をテーマにすると決めた時から、生徒と対話して欲しい当事者として、“彼”が最もふさわしいと分かっていた。けれども、“彼”にそんなお願いをしていいのか?当事者として

          知的障害者のきょうだい④--当事者との対話--

          知的障害者のきょうだい③       --くるりんぱ--

          □2限目「障害者に対するイメージを考える」  2限目の授業では、冒頭にHP「くるりんぱ」を見せた。キツネに見えていたイラストが「くるりん」と回転すると、アシカに見えたりと、様々なイラストがクリック一つで「くるりんぱ」と変化するHP。これを導入とした。スクリーンに次々と「何に見えるか?」と尋ね、生徒の答えが出るとクリック一つで絵を回転させ、別の動物に変えてしまう。「ものの見方は一つではない」と言う遊びをしてみた。  また、前回の授業の最後に宿題として、「片方だけのスニーカー

          知的障害者のきょうだい③       --くるりんぱ--

          知的障害者のきょうだい②--兄バカと綴った生徒--

          兄バカと障害者  「妹は重度の知的障害を持っており、小さな頃から世間から言われなき差別、偏見を受けて育ってきた。家族の中でも我慢しなければならないことが多かった」 「介護疲れで自分の母が亡くなり、重度の知的障害を持つ叔父が死ねばいいのにと思った」   あまりに赤裸々な内容にためらいつつも、私は先のネット掲示板を生徒に示し、作文を課題に出すことにした。この掲示板は障害者の父母による「あらくさの会」が、きょうだいに知的障害を持つ人の本音を理解してほしい との意図で作られたものだ

          知的障害者のきょうだい②--兄バカと綴った生徒--

          知的障害者のきょうだい①-掲示板との出会い-

           皆さんは、こんな言動を耳にしたり、口にしたことがあるだろうか?  「お前ガイジやん」。友達のおかしな行動をからかう言葉である。  ミスした自分を「今のはガイジ入ってたわ」と言う中学生がいた。「お前、アホちゃう?」「俺ってバカだよな」というニュアンスで、ガイジという言葉を生徒たちが平然と口にしていた。生徒たちはそれが障害者の蔑称だと知っている。それでもみんな使っているし、別にいいだろうと感じさせる空気感。  こうした言動を私は何度か耳にした。彼らの言動に不快感を覚えても、注

          知的障害者のきょうだい①-掲示板との出会い-

          窪塚洋介さんにポジティブチューニング全開にされた話。

          「国境線なんて俺が消してやるよ」    映画『GO』(2001年)を見たことはあるだろうか?  在日韓国人の高校生を窪塚洋介さんが演じたテンポ抜群のかっけえ映画。日本で生まれ育ち、日本人と見た目は変わらないし、日本語を話す。ただ国籍が違うだけ。日本に現存する在日差別に真っ向から切り込んで描いている。なのに説教臭さがない。両親役を山崎努と大竹しのぶが演じ、ガッチリと脇を固め、恋人役は柴咲コウ。「これは僕の、恋愛に関する物語だ」と言いながらも、窪塚くんは血筋に絡みつく偏見にドロッ

          窪塚洋介さんにポジティブチューニング全開にされた話。

          あれから20年。15歳だった彼らと授業を振り返った

           2023年。本村さんと「死刑制度を考える」授業を行って20年が過ぎた。  当時授業を受けた彼らは35歳。8名の教え子にnoteを読んでもらい、振り返りをお願いした。卒業後、一切やりとりのなかった人もいた。私からの突然の連絡に驚きながらも「この授業は強く印象に残っています」と快諾してくれた。   https://note.com/tatsuaki_yoda/n/nb4d085828c77    noteを読んで思い出したり、感じたことを教えてください。  まずは、当時を

          あれから20年。15歳だった彼らと授業を振り返った

          答がわからないことを教師は教えてもいいんだ

           「みんなに聞いてみたいことがある。タバコをすっている人はいるかな?手をあげてみてほしい」。当時は喫煙者だった私はゆっくり手を挙げた。  横山先生は教室を見渡しながら、「ありがとう。君は生徒がタバコを吸っていたら、どうやってやめさせるのかな?」と問いかけた。先生と目があってしまった。「【先生もタバコ吸っているじゃないですか?】と生徒に言われたら、何と言うかな?」と聞かれた。言葉が出なかった。  このやりとりは、25年前に教職を目指す大学生だった私が「道徳教育の研究」という授

          答がわからないことを教師は教えてもいいんだ