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#08 SHALLOW SLEEP
来週から再就職先での仕事が開始となる。
配属先は高知県南国市になるそうだ。
07/01〜08/31、10/01〜11/30と、1年間の1/3を無職として過ごした。
01/01〜05/14までは独身、
05/15〜11/14は夫、
11/15〜今日までは父として過ごしている不思議な1年間である。
そんな年間を振り返って、今この胸に何が去来しているかというと
ひたすらつきまとう、解消されることのない眠気である。
新生児の生活サイクルに合わせるのはとっっても大変だ。
新生児の赤ちゃんの生活サイクルは、だいたい3時間単位だ。
うちの子を例に出すと、
目覚めて泣き出す(5分)
ミルク飲む(45分)
おむつ替える(5分)
うとうとする(10〜30分)
眠る(95〜115分)
だいたいこんなもんである。
僕自身は、今はまだ仕事が始まってないので主夫のようなものだ。
昼間はまだいいんだけど夜中がきつい。
もうほとんど夢遊病みたいな寝てるか起きてるかわからん状況で、
同じく眠そうに授乳させておむつを替える嫁のアシスタントをしている。
「そんなのぜんぶ嫁さんに任せとけばいいだろ」という、
2024(昭和99)年の古風な男性優位意見ももちろん存在するとは思うが
2024(令和6)年は育児もできるパパを求める風潮が強い。うちの家庭も例外ではなく、何より僕は無職で無収入な主夫なのでそんな横暴は通らない。
なので最近は睡眠時間が細切れで、常に思考にうすーい膜がかかったような状態で、集中力が落ちているのがわかる。来週から始まる仕事は車を運転する場面もありそうなので、こんなことで大丈夫なのかな、と不安になる。でもやるっきゃない。
そんな生活の中で、ふと気づいたことがある。
夢と現実のはざまを意識する機会がすごく増えたのだ。
人によって違うかもしれないが、僕に関しては夢とうつつの間では
「夢(眠りに落ち突拍子もない展開に空想が飛躍していく状態)」と、
「覚醒(リアルタイムで考えを巡らせている状態)」との境目が非常にあいまいになる。
集中力の問題もありそうだが、たとえば学校の授業などでそのとき頭の中にひっかかった話題から何かを空想、その後の発展に従って夢の世界へ旅立ってしまうことが多い。いつもどおり寝床で普通に寝ているときもおそらく似たようなプロセスで夢に落ちているのだろう。
そこの境目を体感する機会が、子供ができて以降多くなった。
はっきり言って赤ちゃんの泣き声がしたからと言って起きたくない。
僕だって本音は妻にぜんぶ投げちゃいたい。なので赤子の泣き声に反応はすれど二度寝しかかっている。
ただ義務感と、泣き声や部屋の明かりなどでそのまま寝てもいられないので何とか起き上がろうとするときに
「夢に落ちる(トンデモ展開が加速、主導権が脳の空想側にある)瞬間」と
「夢から覚める(主導権を奪い返しリアルタイム思考にもどる)瞬間」を、
無意識ではなく限りなく有意識的に体感している自覚がある。
なぜそれを意識的にとらえたかというと、ここ数日、深夜や明け方の赤ちゃん対応で二度寝しかかるときに同じことを何度か考えていたからだ。
いつも考えてしまうのは
【僕は”過去付き合っていた人”や”昔好きだった人”と結婚していたとしたら僕は機嫌よく、赤子の泣き声ワンコールで起き上がって動けるのか?】
というものである。
つい先日、赤ちゃんに起こされた時の僕の思考の展開を基に説明していきたい。
(就寝中)
・
・・
・・・
赤ちゃんが泣いてる
めっちゃ眠い
このまま寝かせといてくれ
ああ部屋の電気が点いた
嫁が赤ちゃんを抱っこし始めた
とりあえず目は明けておこう
何か声かけないと
「赤ちゃんはお腹すいてそう?」
「○○○」
何か妻からのリアクションがあった
脳が読み解くのを拒否する
眼が自然と閉じていく
でもフォローしてあげないと嫁だって寝てない
何とか起き上がらないと
でもしんどい
仮に同じシチュエーションで、過去付き合ってた人相手だと
僕はどうふるまうだろう?速攻で立ち上がるのだろうか?
(ここで眠りが主導権を奪い、空想のアクセルが踏み込まれる)
きっと僕は相手に甘え起きようとしない
その時あの子はここで僕の振る舞いに対してこう言うだろう
僕も売り言葉に買い言葉で強めに反論してしまうかもしれない
そういや交際中、似たような状況で険悪になったことがあった
だとしたら日常の結婚生活でも揉める場面が多々あったろう
(リアルタイム思考は完全に主導権を失い夢に至り始める)
・・・
・・
・
(周囲の環境が再びリアルタイム思考に主導権を与える)
赤ちゃんが泣いてる
(以後冒頭から、主導権の奪い合いを1〜2回繰り返し)
さすがに起きなくてはならない
身を起こして汚れたおむつを預かろう
<アシスタント業務開始>
というような主導権の奪い合い、脳の覚醒/半覚醒を行き来してようやく起き上がっている感じだ。
別にこのタイミングで別なパートナーとの生活シミュレーションを完璧にしたいわけじゃなくて、これを考えているのはもっとあさましい事情でシンプルにもうちょっと寝ていたいからだ。現実逃避のために脳が自動で空想シミュレートモードに移行してるってのが近い。強制排熱とか省電力モードみたいな感じだろうか。今ここにないことに逃げ込む思考回路なのだろう。
過去の接点から、僕の脳内においてあるその人の人格を起動し今の状況においてみたら、きっとあの子はすげー怒るんだろうなとかあの人はその場ではなんも言わなくても昼間に蒸し返されるんだろうな、とかそういうことを夢うつつの間で何度も何人もシミュレーションを行っている。
もちろん全員が全員と円満に付き合えていたわけではないし、”昔好きだった人”に関しては交際していないので僕の脳内の勝手な予想の人格によるところがあるがその人と暮らしててもこんなに眠い状況で起き上がって育児する余裕があるのか?嫌味を言ったりして育児を遠ざけられる場合もあるのでは?という空想シミュレートだ。
具体例を挙げれば、前に3年半ほど付き合っていた女性でシミュレートすると僕がケンケンしたことを言ってしまい、そのまま確実にこの場この夜にケンカになるだろうなと思う。これは別に今のこの状況でなくとも予想できていて、だから別れたのだが。彼女に余裕がないときのいろんな振る舞い方や、身近な人に対しての遠慮がなさすぎる物言いなどがもめごとを連想させた。とっくの昔に別れてるのにこんなこと書かれて可哀想だが、不運だったと思ってあきらめてほしい。あなたの存在を脳内にダウンロードした当時の僕にはそう見えていたのだ。
そう考えてみると、このシミュレーションには何のメリットもないのだが、
「今の嫁はんはここで起き上がれば僕を悪く言うことはないぞ」という前向きな方向での動機につながっているというか、起き上がることの理由付けみたいなところに作用している。
そういう意味では有用な脳力なのかもしれない。
ちょっと前に、妻とリリー・フランキーのラジオ聞いていた時、
「年取っても性欲はあるけど精力がなくなる」
と言っていてそうかもなと思う。
ここで僕の「精力」の解釈は一夜に何回も女性を抱く、とかいうキンタマパワーを示すものではなく人としての活力に富んでいるかどうか、ととらえた。20代や30代前半と比べると精力に関しては落ち着いてきたというか、
夜更かししてでも何かを仕上げててやるぜ!みたいなのは確実に衰えた。
(実際性欲はまだぜんぜんあるのでリリーフランキーは正しい)
そういう観点では、今この僕の精力で新生児を育てるのは結構ギリギリである。
5年後、同じことをできるだろうかと言われるとぶっちゃけ自信ない。
妻はもう産みたくないと言っているのでしばらくなさそうだが、若く精力のある時に子育てするって、当時は全く憧れなかったけど理にかなってて正義だなと感じている。とはいえ同世代でも子育てしてる方はゴマンといるし、僕みたいな無職でなく仕事しながら子育てしているのでマジで日本中のすべての親御さんを尊敬する。
長々と書いてきたが、こっからしばらくの間今日も明日も明後日も、クリスマスも正月も僕は寝不足である。
これはもう仕方がない。望んで子供を得たのだから僕の責務なのだ。
できるだけお金をかけず精力を養う方法がないかなど検索しつつ、今も横目で子を気にしておりそろそろおむつ替えで起きてくるかなと様子を見ている。
子育てについて気になること、引っかかることはたくさんありその熱量があるうちに書いておきたいのだがなんせ睡眠時間と精力が足りない。寝てても夢の中で主導権はないし、起きたら起きたで精力に乏しいしでさびしい中年になったものだ。
でもこの生活がつまらないわけではない。ひとえに周囲の皆さんのおかげでスローペースで低収入な生活でも楽しくやれている。
また、文章を書いているときは楽しい。夢や子など、誰のペースにも合わせなくてよいからだろう。これは誰でもない僕のために、僕が主導権を持っているのでデトックスできている気がする。
少ない精力でもちょっと残ってるときにまた書きたいと思う。