僧侶のおなまえ

私達のご宗旨、浄土真宗の御開山は親鸞聖人でございますが、ここで質問です。

親鸞聖人の正式名称は何というでしょう？

答えは「善信坊親鸞」です。

「善信坊」というお名前。意外と一般的に認知されていませんよね。

「親鸞」というお名前と「善信坊」というお名前。

「親鸞」というのは、仏門の僧侶としての名前。つまり、法名であり、また個人の実名（今でいうところの本名）です。
そして、「善信坊」というのは、坊号といわれる、お得度を受け僧侶となった後につけられる本名とは別の名前になります。

これら、二つのお名前はどう違うのか？

仏教に帰依をして、「私はこの教えを拠りどころとして生きていきますという意思表明」として名乗っていく、自身の信仰を表す宗教的名乗りが法名です。

よく、勘違いされるのが、生きている時の名前が俗名。死んだら法名。と思っておられる方がおられます。
生きている時も法名は法名ですし、お亡くなりになられた後も戸籍の名前は俗名です。

ですので本来的には、元気で仏教の仲間に入った時に、法名はいただくものなんですよ。

今の日本社会においては、戸籍に載せた名を変えるという事はあまりない事だと思います。
戸籍の名前を、仏教界の言葉で一般的に俗名といわれますね。
世俗での名前です。
その世俗を出て、仏教に帰依をする。

ですので、得度を受けて正式な僧侶になると、俗名を捨てて、法名を自身の実の名前に変える。法名を実名とするわけです。

それに対して、坊号は仮の名前です。仮名（けみょう）といわれる、僧侶になってつける二つ目の名前なんです。

このように僧侶になると、名前を二つ持っていたんです。

では、この二つのお名前をどう使い分けていたのでしょう。

この使い分けは、日本の本名を呼ぶことを避ける諱（いみな）の文化の影響があります。

現代にはあまりない感覚ですが、明治時代頃までの日本には、高貴な人や他者のことを本名で呼ぶことを避ける文化がありました。
古代から日本では、本名＝諱であり、呼ぶのは自身の他には、親や主君のみに許されることであり、それ以外の者が諱で呼びかけるのは極めて無礼であるとされていました。
本名＝諱を避けるということから、個人の名前は通称で呼ばれるようになり、官職名や居住していた邸宅の所在地名やゆかりのある建物の名前などに基づいた呼び名でよばれました。

ですので、自分が自身の名をいうときは、実名（本名）。他人が名前を言うときは、坊号（仮名）を用いるという使い分けがされております。

この実名と坊号の使い分けでよく混乱されて、皆さんに名前についてよく質問されるお方がおります。
それは、親鸞聖人の師匠であります法然上人です。

一般的に「法然上人」というお名前で認知されておりますが、この「法然」というお名前は坊号です。つまり、他人がお名前を呼ぶ時のお名前です。

実名は「源空」であります。源空というお名前があまり一般的でないのは、やはり、この本名をむやみに読んでは失礼という文化の為でしょうか。

親鸞聖人も法然上人に対して坊号と諱を使い分けておられます。
御消息など、日常のお手紙で「法然」というお名前で呼ばれております。

ただ、親鸞聖人は諱である源空という名前で師匠をお呼びしている者があります。それは、御本典やご和讃において諱である「源空」というお名前で法然上人を讃嘆されておられます。
現代人には、わかりづらい感覚ですが、大変思いを込めてご和讃をうたわれたことが伺えるように思いますね。

ただ、ここで一つ疑問に思われる事があるかと思います。
なんで、親鸞聖人は、他人が親鸞聖人を呼ぶ時の「善信坊」という名前があまり認知されず、本名の「親鸞」の方が一般的に認知されておるのでしょう。

これは、どうやら、親鸞聖人は他人にも「親鸞」という名前を呼ぶことをお許しになっていたようなんですね。
また、善信という坊号と親鸞という名前、どちらも実名のようにつかってらっしゃたようなんですね。
ただ、これは、どうやらそうではないかというレベルの話ですので、どなたか研究されていったら、これから明らかになっていくのではないかと思います。

今回はお名前についての話題でした。