ドローンによるトレーニング改革とは。英国のいち指導者による導入事例から学ぶ【トレーニング】
※この記事は2018年5月1日執筆記事を再掲したものとなります
2015年、サッカー界では世界最高峰の戦いとされる「UEFAチャンピオンズリーグ」において、ドイツの名門バイエルン・ミュンヘンを率いるペップ・グアルディオラ監督が、かつて指揮したスペインの雄バルセロナを相手に敷いたマンマーク布陣が世界を驚かせた。当時、史上最強とも謳われ世界を席巻していた南米3トップ「MSN」(メッシ、スアレス、ネイマール)を見事に封じ込めた美しき戦術は、「Sky Sports」が報じたピッチ全体を俯瞰した映像とももに全世界へ拡散された。
この放送を見ていたうちの1人が、英国チャールトン・アスレチックFCで、当時U-14チームのコーチを務めていたデビッド・パウダーリー氏であった。このパウダーリーが推し進める「ドローンを活用したトレーニング」が、世界各国のサッカークラブが導入を目指す、新基準となりつつある。
バイエルン・ミュンヘン対バルセロナの試合を観戦したパウダーリーは、自身が率いるサッカーチームのトレーニング改善のため、ピッチ全体を俯瞰した映像を撮影したいと考えた。当初は、GoProカメラをポールに設置して撮影することを試みたが、風やその他要因から断念。ある日、ドローンを使って結婚式の様子を撮影するというサービスの広告からアイディアを閃き、トレーニングでの活用を目的として「DJI Phantom 3」を購入した。
パウダーリーは、ドローンの操作について英国民間航空局のコースを受講し、認定を受けたのち、現在率いるチャールトンのU-15チームにドローン・トレーニングを導入した。パウダーリーによるドローン・トレーニングはにわかに話題を集め、他クラブからの関心が寄せられるようになった。そこで、ドローンのコンサルティングサービスである「DPY Productions」を立ち上げ、ついには、プレミアリーグのチェルシー、リパプール、トッテナム、オランダはエールディビジのアヤックス、フェイエノールト、スペインはリーガ・エスパニョーラのエスパニョールとバルセロナ(ユースアカデミー含む)など、欧州各国の錚々たるメガクラブに対して、デモンストレーションやトレーニング記録などのドローンサービスを提供するようになったという。
ドローン・トレーニングの優れた点は、選手へのフィードバックの容易性・速効性である。例えばサッカーの試合において、自陣左サイドから右サイドに相手ボールが渡った際、右サイドバックは敵ボールホルダーにマークを寄せたが、右セントラルミッドフィルダーのポジショニングが遅れたというケース。このシーンを俯瞰映像とともに見せられることで、右セントラルミッドフィルダーの選手は、自身の判断やポジショニングの改善点を明確に把握し、即座に改善に取り組むことができるというわけだ。
すでにウェールズサッカー協会がドローンの使用を開始する中、パウダーリーはイングランドサッカー協会へのアプローチを開始した(すでに英国とスコットランドのラグビー代表は、トレーニングにドローンを導入済み)。同氏は今後、予算規模の小さなサッカークラブにも高額な撮影機材を用いない安価なドローンが導入され、名門クラブに引けを取らない映像分析ができる未来を期待しているという。