看板犬の去勢手術とその予後
月齢16ヶ月弱の看板犬♂の、去勢手術を実施した。
健康なカラダにメスを入れるのだから、犬にとってはタダ事ではない。抜糸までに要する期間はおよそ10日間。それは、飼い主にとってもなかなか厳しい日々となった。
当主が看板犬の去勢手術を決断した理由
最近知ったのだが、飼い犬の去勢について、愛犬家の間では賛否両論の深い溝があるようだ。世の中には様々な考え方の人が存在するのだからして、両論の展開は大いに結構なことだが、それが互いの誹謗に発展するのは残念に感じる。
実際のところ、当主の身近に『去勢絶対主義派』の方がおられ、その方の強烈な一方通行的ご意見を拝聴していると、なにやら腹の底がムズムズしてくる。
家犬にとっての幸せは、共に暮らす家族に愛されて命をまっとうすることだ。
ゆえに、家族が責任を持って愛犬の去勢の可否を判断すればよいことであり、そこに不透明な倫理観を持ち込んで見解を主張すると、物事の本質から乖離した原理主義的論争に飛躍しそうで怖い。
当施設では、愛犬を伴った宿泊ができる。もちろん、3haにも及ぶ敷地内においては、必ずリードを装着して管理していただくのがルールだ。とはいえ、事故のリスクはゼロではない。万一、不注意からゲストの大切な愛犬♀を懐妊させてしまっては一大事だというのが、当主が看板犬の去勢手術を決断した理由だ。
DAY 1 : 手術当日
手術前日は、深夜0時以降絶食となる。飲水は手術直前まで可能。
これから何が待ち受けているのか知る由もない犬をクレートに格納し、クルマで50分ほどかけて小樽市の動物病院に向かう。11時に受付、お迎えは17時ということで、いったん赤井川村まで戻り再度指定の時間に病院へ。ほどなく病衣とエリザベスカラーを身にまとった看板犬が診察室に現れた。まだ麻酔が効いているのか足腰が立たない。20kg超の犬を抱えてクレートに押し込み帰途につく。
村に戻ってクレートの扉を開けると、なんと口から泡を吹いていた。これも麻酔の影響か。再び抱えて屋内に入れる。
帰宅してやや落ち着くと、しきりに患部を気にする仕草を見せるようになった。あちこちでひっくり返って患部を舐めようとする。幸い食欲はあり、鼻もしっとりしているので、具合が悪いということではないようだ。
困ったのが排泄で、いつもどおりの時間に表に出すと、ひたすら転げ回った挙げ句やっとのことで放尿。痛いのか違和感があるのか。とにもかくにもドロドロになった犬を抱きかかえて屋内に戻る。
DAY 2 : 排泄失敗
手術前は、およそ4時間のインターバルできっちり排泄していた看板犬が、12時間経過しても排泄の兆しを見せない。さすがに心配になって病院に電話するも、結論としては「がんばってください」ということで途方に暮れる。表に出そうとしても強く抵抗するので、リビングの床にペットシートを敷いて監視を続けた。
そして、14時間経過した頃になんの前触れもなく放尿。しかもペットシート外で…。掃除は面倒だが、まずは出てよかった。もしかしたら患部が痛んで排尿が難しいのかもしれない。病院で処方された痛み止めを与えて、ひたすら様子を見る。
夜になっても排便しないので、またまた抱えて表にいざなう。たぶん、排泄したいのだろう、リードを強烈に引っ張りながらあちこちに向けて走ろうとする。そして転げ回る…(泣)。
15分ほど格闘した末、ようやく排便。ドロドロになった犬を抱えて憂鬱な気分で屋内に戻る。
DAY 3〜10 : 排泄ストレスからの抜糸
その後、屋内で排泄することは一切なく、「そわそわ」している気配を察知するたびに抱えて外に連れ出すも、空振りで虚しく帰還することしばしば。
しかし、苦行に耐えてこれを繰り返すうちに、現況下における排泄のインターバルがおよそ6時間であることがわかってきた。もっとも、いちどの排泄に15分はかかり、さらに相変わらず意を達するまで転がりまわってその都度全身ドロドロになるので、人間のモチベーションも底を打つほど下がるのだが、一番つらいのは当の犬であるからして、心を強く持って付き合う。
唯一の光明はその旺盛な食欲で、ストレスによる食欲低下や体調不良は認められないということだった。
手術当日含め10日間経過した朝、抜糸のために犬をクレートに積み込んで病院へ向かう。抵抗するかと思いきや、自らあっさりとクレートに潜り込んでくれた。日頃の訓練の賜物か。これくらいのことでも、嬉しく感じてしまう。
抜糸じたいは外来で、待ち時間を除けばわずか数分のできごとだった。レンタルの病衣はかなり汚れて一部にほつれも生じていたが、お咎めなしで引き取ってもらえた。一方、エリザベスカラーは、割れ目が入ってガムテで補強した状態だったのでお買い上げ。医師から患部を舐めさせないように注意され、晴れ晴れした気持ちで帰途につく。
…が、ほっとしたのも束の間、とにかくスキあらば患部を舐めまくる(涙)。仕方ないので、食事の時以外はカラーを装着して監視を続けた。相変わらず排泄時は転げ回って、飼い主の手を焼く。
DAY 13 : 待てば海路の日和あり
手術当日含めて13日目の朝。どうやら唐突に寛解したようだ。
排泄時はまだ落ち着かない挙動を見せるが、これまでのように転げ回るまでには至らない。患部を舐める頻度も俄然低くなったので、カラーの装着も不要となった。
状態の変化がビビッドすぎて若干戸惑うが、そこは素直に喜ぶことにしよう。
ネットでは、飼い犬の去勢手術にまつわる苦労話が多数報告されている。まる一日排泄しない犬もいるようで、そんな飼い主の不安はMAX値だろう。
結果的には、食欲があり、鼻が乾いていなくて、ぐったりしたようすもなければ健康面での心配は杞憂なのだが、身悶える愛犬の姿を監視し続けるのは、飼い主にとっても大きなストレスだ。
経験者として言えるのは「ひたすら耐えて寄り添いましょう」ということ。そして具合が悪いようなら病院に急行することだ。
エピローグ
人がそうであるように、犬にもそれぞれに個性や感受性の相違がある。わが看板犬は過敏なのか、手術による反応が大きいほうだったのかもしれない。少なくとも食欲はあって健康体なのだから、もっと大きく構えてよかったかもと振り返る。
犬の状態に動揺した飼い主が対応に右往左往するのも、ときとして逆効果につながりそうだ。当主の反省として、エリザベスカラーの装着しっぱなしがあまりに不憫に思えて、代わりにペットおむつをあてがってみたりとあがいてみたが、結果的にはカラー装着のままのほうが、患部の保護という観点からも予後をより良好にしたのではと思われる。
犬がもし話すことができるのであれば、今回の一連の出来事についての感想を聞いてみたい。手術は不可避だったとして、飼い主はちゃんと自分に寄り添っていたかどうかを確かめたい。
いずれにせよ、「こんな経験は金輪際まっぴらごめんだぜっ」と強く思っていることだけは確実だが…。