【スペイン料理】お口でぽろぽろ、ポルボロン
「わー懐かしい」
先日、ひとり歓声を上げて思わず買ってしまったのはこちら。
スペインのお菓子、ポルボロンです。トゥロン(アーモンド等を固めて板状にしたヌガー)と並んでクリスマスに食べられるお菓子で、どこの家庭でもクリスマス近くになると、この二種類のお菓子がお盆に仲良く並んで、テーブルに常備されているイメージです。ただ、季節ものの商品のため、クリスマスの時期以外には普通のスーパーにはあまり並んでいないものなので、私はこれを日本で、しかもいつもの生協のカタログで見つけて、驚いてしまいました。
1.ポルボロンとは
スペイン王立アカデミー(RAE)の辞書には
「小麦粉、ラードと砂糖を材料としてオーブンで焼き上げた、一般に小さい丸菓子で、食べると同時に粉々に崩れる」
とあります。
harina(小麦粉)
manteca(ラード)
azúcar(砂糖)
だけ読むと、「普通のクッキーと同じじゃないの?」と思ってしまいますが、見た目はクッキーのようなこのお菓子、口に入れた途端にホロホロっと崩れる口当たりのやさしさが特徴です。また、小麦粉に加えてアーモンドプードルを入れることが多いので、ナッツの香ばしい味もします。私はスペインの知人宅のきれいなリビングルームで初めていただいたのですが、パクリと一個丸々口の中にいれたら口中に粉が充満し、むせかえって苦しいのを知人に悟られまいと必死で飲み込んだ、甘くて苦い思い出があります…。
今回、この「ぽろぽろ感」はどうやって出しているのだろうと不思議に思って調べてみたところ、一般的なクッキーとは違い
・普通の砂糖ではなくazúcar glasé(粉砂糖)を使う
・事前に、harina(小麦粉)を黄金色になる程度に炒る
ことで、口に含んだ途端にホロホロと崩れる食感が得られるそうです。
日本のお菓子でいうと落雁が近いかもしれません。手元の辞書では落雁も
「米・麦・大豆・小麦やソバの実などを粉にして煎り、砂糖・水飴などを混ぜ、型に入れて抜き固めたもの」(大辞泉)
とありますので、作り方も似ているのかもしれません。
2.名前の由来
さてそんな「ぽろぽろ」食感が特徴のpolvorón(ポルボロン)ですが、その名前はそのものずばりpolvo(粉、粉末)から来ているそうです。
スペイン語では元となる単語に接尾辞を付けて、新たな意味を付与することがあります。よく知られているのは-ito(女性名詞につく場合は-ita)という接尾辞で、これはもとの単語に「小さい、少ない」という意味を付与します。ですので、
pequeño(小さい)→pequeñito(とても小さい)
casa(家) →casita(小さな家)
taza(カップ) →tacita(小さいカップ)
などと、元のモノを「小さくしてしまう」ことができます。
ポルボロンの場合は、もとの「粉」を意味するpolvoに接尾辞「-ón(女性名詞の場合は-ona)」を付けたものなのですが、この-ónは上記の-itoとは反対に、もとの単語を「大きくしてしまう」意味があります。
例えば
barraca(バラック)→barracón(兵舎、大きい仮設小屋)
hombre(男性) →hombretón(大男)
ですので、polvorónも「粉のかたまり、粉を固めたもの」といったところでしょうか。
また、この-onを人に対して使うと「~ばかりしている人」という意味になります。時に軽蔑した意味合いが加わることも。
llorar(泣く)→llorón(泣き虫)
mirar(見る)→mirón(のぞき魔、野次馬)
さらにややこしいのは、この-ón、ときにその元の単語のものを「喪失した状態」まで示すことがあります。例えばhombre pelónと聞くと「pelo(髪)がたくさんあるhombre(男性)だったら、毛がふさふさしてるってこと?」と思いきや
pelo(髪の毛)→pelón(髪の毛を喪失した状態=剥げた(人))
になってしまうのです。面白いですね。
話はそれましたが、くちどけもポロポロと優しいポルボロン。輸入食材店やお菓子屋さんで見かけたときはこれをcomer(食べる)して、comilón(食べるのが好きな人)になってみてはいかがでしょうか。