見出し画像

【無料】あと248日:ハーレーダビッドソン

9月26日
 信じられない依頼が舞い込むことがたまにある。たぶんこのキャリアの落語家にしてはそういうご縁は比較的多く頂けていると思う。それは独自性の強い新作をやっていることの副産物みたいなものだと捉えている。一方でそういう落語をやっていることで選考から漏れる仕事も少なくないとは思う。

 依頼案件についての向き合い方が変わり始めた頃にハーレーダビッドソンから落語を作って欲しいという依頼が届いた。もちろん耳を疑った。車の免許は持っているけど、ペーパードライバーで試験が終わってから一度も運転していない。もちろんバイクは乗ったことすらない。落語家の中にもバイク好きの方々はいて、僕自身何人かすぐに顔が浮かんだ。それでもなぜか先方は僕に落語を作って欲しいとわざわざオファーをしてくださったわけだ。

 とりあえず対象のことを調べて好きになる、というのがこの頃の僕のアプローチのやり方で、早速調べたら案外家の近所にハーレーショップがあるとわかった。井の頭通沿いのその店に自転車で向かい店内に入って、並んでいるバイクを眺める。名前とか種類は全然分からないけど、生で見たら迫力があるし、ピカピカしていてかっこいいのは分かる。依頼は新しく導入されるハーレーの電動バイクのPR落語ということだから、もちろんまだ発売前だから店頭にそのバイクは並んでいなかった。店員さんとちょっとお話をして、ハーレーのいろいろな情報が載っている分厚いヒストリー本を買って帰る。

 そこから、「自分らしい切り口を入れる」「できる限りの情報量を詰め込む」「演芸らしさを担保する」という自分に課したルールをクリアできるようなネタ作りが始まった。神田明神での本番は、生放送ではないから顔面蒼白みたいな緊張はしなかったけど、もちろん直前までなんども稽古してドキドキしながら高座に向かった。いつもの落語会の空気じゃないし、そもそも記者さんたちは仕事があるから写真を撮ったりメモを取ったりされるから、思ったように反応が返って来なくて冷や汗を書いたのはPRイベントあるあるだろう。経験値は増えてきているけど、いつまで経っても慣れはしない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?