
【無料】あと259日:前へ、前へ。
9月15日
師匠から寄稿して頂いたCDへの原稿に痺れた。おのずと昔のことを思い出した。15年ほど経つのだから師匠自身の考え方が変わるのは当たり前だし、自分も駆け出しから少しずつキャリアを重ねるにつれて立場が変わってくるしで、師匠との関係性というかやり取りの内容は変わってきている。そんな中、当時は正真正銘師匠の一番弟子で、着物のたたみ方から太鼓の叩き方まで何から何まで師匠に直接教わっていた。夕食も週3回くらいのペースでご馳走になり、その都度色々と落語のことや落語家としての気構えなどについて話してくださった。檄も飛ばされた。
精一杯やっているつもりでも師匠の求めている基準はもっと早さを必要とするもので、いつも作業に追われていた。兄弟子がおらず比べる対象がないから、とにかくがむしゃらに走り続けるだけだった。とにかく師匠の求めるもの、以上のことをやろうと思っていた。それしか恩返しの方法はないだろうと思っていた。
結果、前座の時から相対的には少しは注目してもらえる位置にはいられた、二ツ目になってからは早すぎる昇進が武器にもなったし、自分を苦しめることにもなったけど、とにかく全力で自分の存在を落語界に知らしめようとしていた。師匠の顔に泥を塗りたくなかった。
はたから見たら、順調な落語家人生に見えるとは思う。ひょっとしたら「いいなぁ」と自分のポジションを羨ましがってくれる後輩もいるかもしれない。でも、実感で言うとNHK新人落語大賞を受賞して、ようやく少しは師匠の指導方法は間違えていなかったんじゃないかと示せた気がしたくらいで、それまでは全然手応えなんてなかった。
もちろん今も頑張っているつもりだけど、あの頃と今では切実さ違う。本当にヒリヒリしながら毎日を生きていた。少しだけでもあの頃の滾る想いを取り戻さないとなぁと思っている。