活字以外の部分に刮目して読むべし!「時間をもっと大切にするための小さいノート活用術」
○極めて現代的なプロフィールを持つ著者の手になる文房具の本
Webサイト「毎日、文房具」の編集長にして、大手IT企業勤務。このパラレルキャリアのビジネスパーソンが、自らの時間をよりよく活用するべく編み出した方法の結晶。それが、『時間をもっと大切にするための小さいノート活用術』だ。
このきわめて現代的なプロフィールを持つ著者の手になる本は、手堅い作りだ。
巻頭のカラー口絵では、モデルも起用しつつ、本文で紹介される手法を実践しているシーンのイメージカットを展開。
続くCapter1では、この手法を実践し練り上げるに至った著者の気持ちや状況が、さらにCapter2では、記入フォーマットの実例が目的別に複数紹介されている。どれもカンタンにすぐに真似ができそうであり、そういう意味では実用性が高い本でもある。そしてこれらの手法を実践するための各種の小さなノートや周辺の文房具を紹介するのがCapter3だ。
ざっとこうやって紹介しただけでもこの本がオーソドックスな文房具の本であることがわかるし、実際これはこの種の本の教科書にのっとったつくりといえなくもない。だが、私が見たところ、この本の本質はそこにはない。活字になっていない部分こそがこの本の本当のすごさだと思う。以下にそう思う理由を2つ挙げよう。
○その1 「小さいノート」の必然性が示唆されていること
手帳やノートを活用して日々の生活を快適に、または効率化しようという提案の本は今までもあった。たくさんあった。そして本書は「小さいノート」を使うことを提案している。だが、小さいノートであることの必然性は実は本書にはあまり書かれていない。あくまでその利用目的と、記入フォーマットの例があるだけだ。
で、実はこの「小さなノート」に注目し、実践しているところが本書の白眉だと私は思う。巻頭では、「愛用しているノートのサイズは約14×9cm」と紹介されている。またChapter3に登場する各社の小さいノートも、だいたい文庫本サイズ程度(A6判前後)のものだ。
そしてここが重要なのだが、この小ささは書きやすさや開きやすさなどの、記録媒体に必要で重要なスペックともいえるのだ。これは現時点でのスマートフォンにはなかなかむずかしい。スタイラスが付属し、ロック解除なしで画面に記入出来るような製品もあるが、見開きの面積の大きさやそこに細かに追記していけるような自由度はまだスマートフォンには備わっていないように思う。
さらに、単なるイメージカットに見えたカラー口絵では、この小さなノートが、いかにするすると日常に入り込み、換言すれば文字通りいつでも使えるかがきっちり表現してある。それはカバンの外ポケットであり、スーツの内ポケットだ。大判のノートでは不可能な、メディアとしての機動性こそが記録媒体には重要である。これらのイメージカットは実はそういう機能を表現しているとも言える。
で、この小さいことのアドバンテージはChapter1の前半にさらっと書いてある。ここは文房具が好きな人は実は見落としがちかもしれない。
これまでもノートをテーマにした書籍は多数存在したしそれは今後も出てくるだろう。だが、大きさにフォーカスし、その重要性・記録媒体としての優秀さをきっちり出してきたのは本書がはじめてに近いのではないか。
○その2 記入例の書き文字(の内容)
ここも非常に重要だ。それは、大手IT企業勤務のパラレルキャリアのビジネスパーソンが、日々の生活の中で実際に何を考えているかを、文字通り(まさに文字通り)生々しく知ることができるからだ。
小さなノートの記入例のそれぞれが、著者の中にあるフレームワークの実践だとみることができる。「逆算タスク」(P80)とか「アイデアテーブル」(P108)のようなものがそれだ。あるいは、「カベ回避メモ」(P96)とか、「怒りメモ」(P114)「不安メモ」(P116)のような、ともすればネガティブな印象をあたえそうなものもあり、だがそれが赤裸々(※もちろんフィクションもあるかもですが)に公開されているところに、凄いキャリアの著者の、人間的な側面を垣間見ることが出来て興味深い。
おそらく原寸大であろうことが説得力を後押ししていることも付記しておこう。もうひとつ、達筆です。
個人的には、日付の記入書式が西暦下2桁+月+日の6桁の形式を踏襲しているところも、オーソドックスな印象を持った。
○閑話休題(ってここで終わるんだけど・・・)
またしても個人的な話になるが、著者の髙橋氏とは、意外と古い付き合いになる。髙橋氏が関西から首都圏に転勤になるさい、関西の文具のコミュニティにも縁のある、とある女性と、その友人の編集者氏に言われるままに、氏のためにささやかな歓迎会を銀座でやったことがあった。思えばこのときが初対面だったと思う。
また、拙著をWeb上でご紹介いただいたり、個人的にもいろいろとアドバイスを再三いただいたりしている。さらにいえば、私が使っているある製品は髙橋氏の勤務先の物だったりもする。もう十数年、いや20年近く使っている。
Webサイトを立ち上げて、半端ではないページビューを達成し、イベントや店頭のプロデュースも手がけ、オリジナルノートを一から制作した上で、専用のカバーも他社に依頼の上で別途準備用意する。さらにノート活用本も著して見事にヒットさせる。セレクトされた各種文房具のバランスと各社への目配りといい、『時間をもっと大切にするための小さいノート活用術』の著者はまことにもって戦(いくさ)上手である。