「太陽の牙ダグラム」はなにがすごかったのか
(同じタイトルの記事が中身のないまま公開になってしまったので、あらためて書きます。)
今から40年以上も前、1981年に放映開始されたロボットアニメ「太陽の牙ダグラム」は、いろいろな点で異質だらけのポイントがありました。
いわゆるリアルロボットアニメの始祖とされる「機動戦士ガンダム」から2年。そして2年しかたっていないにもかかわらず、進歩もあり冒険もあり、その内容やストーリーもおおよそ現在では考えられないようないくつもの点があったのです。それが以下です。
アニメとしての長さ
ダグラムは長い。なんと75話。これはサンライズのロボットアニメ歴代2位だそうです。その75話の中に、茶番劇みたいなクーデターがあり、ゲリラの蜂起とその結集があり、敵味方双方の裏切りなどがあり、裏切り者の裏切りがあり、その結果としての苦い幕切れがあるという。
人によっては中だるみと評する向きもあるけれど、どのエピソードも面白いなと、全75話をあらためてみて思うわけです。
タイトルの異様さ
ダグラムの正式なタイトルは、「太陽の牙ダグラム」です。で、この「太陽の牙」というのが少々引っかかる。
たいていロボットアニメのタイトルは、(強そうな枕詞的形容のための四文字熟語(造語))+(主人公ロボの名前)です。
たとえば、「無敵鋼人ダイターン3」「機動戦士ガンダム」などです。ところが、ダグラムは、「太陽の牙」です。
これが猛烈にイデオロギーを感じさせる。正統派の反体制的な匂いとでも言うべき物を放っている。その理由は以下です。
TV放映された1981年から遡ること10数年前には、東アジア反日武装戦線「大地の牙」が存在した。その事実です。
そしてこの大地の牙は、「1970年代に爆弾テロを行った極左集団」(Wikipediaによる)だからです。
だからこの「太陽の牙」というのは、こういう反体制的なノリと精神的に地続きだと言えます。
しかもそれが、ほんの数年前(ガンダム登場以前)までは、子供向けと思われていたロボットアニメの主役ロボットの枕詞として使われているわけです。あまり指摘される機会がありませんが、これは相当異質です。
あくまで地味な政治劇とその結果としての戦闘シーン
ダグラムの主人公は、クリン・カシム。連邦政府評議会のトップたるドナン・カシムの息子です。こういう配置を企んだのは、後述するサマリン博士です。この政治センスはちょっとびっくりではあるわけです。
ともあれ、基本的な対立構図は、地球連邦vsデロイアの独立グループです。ですが、地球連邦側にもデロイアの独立を自らの利益のために支持するものがいる。また、独立グループからも裏切り者が出たりする。そして、こういう地球側、デロイア側の内部での動きが、実はドラマの動きの核だったりはするわけです。
実は、クリン・カシムを含む太陽の牙と呼ばれる遊撃隊は、独立できるか否かには直接的にはあまり絡んでいない節がある。これもまあ、リアルと言えばリアルではあるわけです。
後述するようにダグラムそのものはスーパーロボット的な強さはありますが、それをもってして敵を全面的に屈服させるような決着にはなっていないのです。
温存されている古典的な構造
とまあ、ロボットアニメとしては地味かつ異色なダグラムですが、古典的な構造が温存されていることも見て取れます。それは以下の2点です。
・博士が戦闘集団を主導
ダグラム劇中においては、サマリン博士なる歴史学が専門の学者が、独立闘争グループの指導者として登場します。マジンガーZ以来、ロボットが属するグループを主導するのは、たいてい博士です。もっともロボット工学だったり、光子力研究所だったりと、だいたいはバリバリの理系です。
そこにいくと、このサマリン博士は文系だと思われます。
ですが、明らかに独立闘争グループのリーダーです。のちにその内部に反目する勢力もでてきたりはするのですが(それも敵方の工作のためですが)、それでも重要な人物であることには変わりありません。
・ロボットがほぼ無敵
設定的にはダグラムの装甲は非常に固いそうです。ですが、だいたい危機一髪というところでも、完全にやられたりはしていない。いちおう、補給や整備の描写もあります。ともあれ、ほぼやられないのです。これも、往年のロボットアニメ的ではあるかなと。
歯切れの悪い、だがリアリティを感じさせる幕切れ(※ネタバレあります)
地球連邦軍とデロイア独立グループとの戦いは、なんとも歯切れの悪い終わりを迎えます。
劇の終盤、一応の独立は達成されたものの、それはほとんど茶番劇。デロイアは独立前と大差ないような状況でした。それを作り出したのは、ドナン・カシムの補佐官から、弁務官という重要な位置になりかわったラコックです。ですが、劇中の終盤で、このラコックは殺されてしまいます。凶弾を放ったのは、かつてゲリラグループに所属し、その後にラコックの情報屋として暗躍していたデスタンという男でした。
久しぶりに再会したラコックに、また働きたいと申し出るデスタン。ですが、ラコックは、「前にも言ったはずだ。私はお前のような男が一番嫌いなんだ。この寄生虫めが」と言い放ちます。
この「寄生虫」というセリフに激高したデスタンは、懐から出した銃で、ラコックの背中に何発も発砲。息絶えたラコックを失った地球連邦がどうなったのかまでは劇中では明らかにされていません。ですが、強力な指導者を失った体制がそれまでと同じではいられないことも想像に難くありません。
このエピソードがなんとも皮肉だなと思うのは、以下です。
つまり、デスタン自身はもともと独立ゲリラの側にいたわけです。
ですが、裏切って地球連邦側のスパイ、情報屋になる。そして、ラコックに罵られたあげくに、当初の志であったデロイア独立側に利する行為を、でも自らの私怨の結果として成し遂げてしまう。
劇中で、ラコックは冷静で有能で、でも徳のない人物として描写されます。とはいっても、デスタンのこのテロ行為には、カタルシスはありません。ラコックは極悪非道の宇宙人などではないからです。
で、こういう所は、実はダグラムのリアルなところではないかなと。
いかにも歴史にありそう、と思わせるのはそれまでのロボットアニメにはなかったことだと思います。
「機動戦士ガンダム」は、ロボットアニメに、色々な形でリアルという感触を持ち込もうとしました。それはミノフスキー粒子、モビルスーツ、スペースコロニーなどさまざまです。
そして「太陽の牙ダグラム」は、また違った角度からロボットアニメにリアルを持ち込んだのではないか。そんな風にも思えるわけです。