たてものがたり

建築と都市のゴーストライターをやっていきたい。

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最近の記事

モダンハウスに住めないモダニストたち

モダンハウスをいち早く受け入れたのは、進歩的な女性だった。 塚口眞佐子の『モダンデザインの背景を探る』は、シュレーダー邸やシュタイン邸といった戦前の有名住宅建築の施主を紹介して、このことを描き出しています。 塚口の見解から考えると、モダニズム建築にまつわる物語のすこし奇妙なところに合点がいく気がしました。そのひとつに、これを裏返してみると、次の仮説が浮かびあがります。 男たちーー言うまでもなくほとんどが男性だったモダニストの建築家たちは、しかし、どうにもモダンハウスに住

    • 近代 未完の台所(1)

      女性建築家リホツキーが開発したフランクフルト・キュッへ(キッチン)。1927年に一般向けに展示され、現代のキッチンの原型とされています。 日本では、山田守の自邸のキッチンに影響が指摘されています。実際、山田はCIAMに参加するため、1929年にフランクフルトを訪れています。 フランクフルト・キッチンと山田守自邸のキッチン (図版出典リンク:MAKおよびHouzz) 一方、アメリカでは、まったく異なる発想のキッチンが生まれていました。1890年のニューイングランド・キッチ

      • 没後50年 ミースを読む夏

        8月17日。ミース・ファン・デル・ローエの年譜を眺めていると、今日が彼の命日だと気づいた。しかも、2019年はちょうど没後50年にあたる。 ある時、いつものように一服してから、ミースは話し始めた。 「私はベルリンに蔵書を3000冊残してきた。後でそのうちの300冊を送ってもらったのだが、整理してみると、私がとっておきたいと思った本は30冊しかなかった」 (高山正實『ミース・ファン・デル・ローエ:真理を求めて』) ミースは正規の教育を受けていないがかなりの読書家だった。

        • qp「セルヴェ」展を見た:アール・ヌーヴォーとアニメーション

          パープルームギャラリーで開催中のqpさんの個展「セルヴェ」を見た。セル画による作品の愛らしさには目を奪われる。テーマは「植物と鉱物の結婚。アール・ヌーヴォーとアニメーションの結婚」だという。 涼しくて気持ちのいい天気だったから、会場へは自転車で向かった。結果、片道一時間のサイクリングとなった。考える時間は余るほどあり、帰り道に色々なことが頭に浮かんできたので、痛くなったお尻を無駄にしないために記しておく。 写真.会場の様子と展覧会の冊子 (一度会場を素通りして、たどり着く

          クモとモモ:リチャード・ノイトラから中川エリカへ

          リチャード・ノイトラの建築の特徴である、外に飛び出す柱梁のフレーム。これはスパイダー・レッグと呼ばれているらしい。それを知ったとき、中川エリカさんの設計した「桃山ハウス」を思い出した。桃山ハウスも柱と梁が外に飛び出している。 ノイトラは1892年のウィーン生まれで、中川は1983年生まれ。およそ90年の時間を飛び越えて広がった、ある種の自由連想について書いてみたい。 中川エリカ建築設計事務所ウェブサイト (http://erikanakagawa.com/)より 精神分

          クモとモモ:リチャード・ノイトラから中川エリカへ

          絵が絵でしかないこと:クリムト展をみて

          東京都美術館で「クリムト展:ウィーンと日本」を観た。絵が絵でしかないことを、クリムトは突き詰めて描いていると思った。なぜだろうか。 人間模様「ベートーヴェン・フリーズ」の中で、同じ姿の人間がくり返し描かれている。おそらく女性だと思うのだが、彼女らは主役ではない。脇役だ。役すら与えられていないのかもしれない。まるで、舞台背景みたいだ。彼女たちは模様。人間模様だ。 僕たちは絵を1つの世界として見ることができる。そのとき、そこに描かれている人間は、その世界の住人だ。対照的に、模

          絵が絵でしかないこと:クリムト展をみて

          マグカップからデザインを旅する

          いたるところにデザインは転がっている.あれもこれも,考えだせば大概のところにデザインを見出すことができる.新しくマグカップを買ったときも,デザインの世界を色々と覗いてまわることになった.これはその旅行記. いい旅に連れて行ってくれた,このマグカップは「買ってよかったもの」だ. インターフェイスとしてのマグカップコメダ珈琲のモーニングによく行っていた.コーヒーの味はあまり好みではない.ふだんは使わないミルクを入れる.そのわりに,通ってしまう.お頻繁に見かける,おじいちゃんの

          マグカップからデザインを旅する

          KAIT工房はなぜ透明になれるのか?:超能力としての透明性をめぐって

          マーク・チャンギージー『ひとの目、驚異の進化』という本を読みました.人間の目の知られざる能力を,超能力(テレパシー,透視,未来予知,霊読)に見立てて説明する本です. どの能力についても刺激的な内容だったのですが,ここでは,特に面白かった透視能力を参考に,建築の透明性について考えていきたいと思います.後半では,透視能力を経験できる建築として,石上純也さんが設計したKAIT工房を論じます. よろしければ,どうぞお付き合いください. わたしたちの透視能力で何ができるか?最初に

          KAIT工房はなぜ透明になれるのか?:超能力としての透明性をめぐって