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黒レイの「自我の芽生え」と、シンジの「立ち直りの始まり」

「命令........ならそうする」が決まり文句だった「黒レイ」こと「綾波タイプの初期ロット」が、その路線を外れ始めたのは、Qの終盤にその萌芽があるというのは、異論を待たないところでしょう。

[式波]アスカが「あんたはどうしたいの!」と問いかけた直後、黒レイが自らエヴァMark.9から脱出したのがその具体的行動の第一弾と言えますが、それより前に、マリが「アダムスの器になる前に、そっから出た方がいいよん」と呼びかけているのが、黒レイ自身が自身への疑心を抱き始めたきっかけではないでしょうか。

黒レイ「だめ。それは命令じゃない」
マリ「かった物(堅物)だにゃ........[小声で]あんたのオリジナルは、もっと愛想があったよん」
黒レイ「オリジナル........別の私........」

「あんた=綾波タイプ」のオリジナル、「オリジナル、別の私」とは、旧姓綾波ユイ(テレビ版と旧劇場版では碇ユイ、ゲンドウの方が改姓しています)のこと。マンガ版「貞本エヴァ」の最終巻「夏色のエデン」で描かれた、マリとユイは学友であったという伏線を理解している人にとっては、「ああなるほどね」と直感できるセリフであります。

マリは意図的に、[式波]アスカは無意図的に、承前のセリフを黒レイに投げたのでしょうが、結果黒レイは、NERVの敷いたルートを外れて、自我を養いつつ、シンジの成長を促すポジションに身を移すことになります。
その後、第3村の住人たち、とりわけ「委員長」ヒカリが、赤子を育てるかのように黒レイに「感情あるいは言霊」を植え付けていくさまは、シンエヴァ前半のヤマ場と言えるでしょう。

そしてその黒レイが、シンジの立ち直りを促すシーン:

シンジ「なんでみんな、そんなに優しいんだよ!」
黒レイ「碇くんが好きだから」

字面だけを追えば、「黒レイが、シンジのことが好き(アスカ曰く『NERVに仕組まれた感情』)」とも読めますが、シンジはシンジで、重点は「みんな(表面上は罵詈罵倒するアスカも含む。要するに、シンジのことを『放っておかない』人たち全てを指す)」にあるわけですから、黒レイの言葉を「みんながシンジのことが好き(その存在を受け入れている)」と受け取って、一歩を踏み出すことに至るわけですね。

黒レイがそこまで考えて「碇くんが好きだから」と言ったとは思えないにしても、結果としてシンジの成長あるいは立ち直りのきっかけを作ったことは間違いないでしょう。
のちに黒レイは「綾波タイプNo.6は、無調整ゆえに個体を保てなかったようだ(冬月)」の言葉どおり、シンジの目の前で消え去っていくわけですが、それすらも「自分と同じ喪失を経験させるのも、息子のためか?(冬月)」つまり、ゲンドウによる「精神的成長を促すイベントのひとつ」だったのかもしれません。

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