介護対象者に対する好悪



前回の続きを沢山書くつもりであったが、そういうわけにもいかない――――という心境になったので、その理由のある、後に書くほうの祖母の事を書くことにする。

この祖母がまあ問題を色々抱えていて…つまり性格に難あり、というわけで身内からは見放されてはいないが、仲良くされてもいない。

あまり詳しく書くと血族的に問題があるので、僕がされたことを書こう。

といっても

僕は、――――何と言ってもお金の喪失時の犯人にされてきた

祖母はどういう表現が問題にならないかわからないが、もう書いてしまうとボケが進んでいるのだ。

(痴呆、認知症等どれが適切かわからないので、もう単刀直入にボケと書いた)

最初は、これも偶然だろうか少額から始まった。

千円とかで、多くて三千円とかだった。

そのたびに僕が真っ先に疑われてきた。

ときには電話で、ときには――――それはもういいだろう。

なぜ僕を疑うか?その答えは簡単で浮き草稼業だからだそうである。

まあ、ハッキリ言って偏見だ。

次は1万円だった。1万円が何回かあった。

……だからこれも、僕が真っ先に疑われたのだ。

1年とか2年とか、それくらいの単位の前の話だ。

だが、僕は疑われても、祖母が好きだった。

お互い内緒の話を語り合う程の仲だったからだ。

まあ、大概、すぐに僕が話したことも祖母自身が話したことも、『ばあちゃん』は上述の通り忘れるが。

けれど、何度も言うが、僕は祖母が好きだった。

一番最近疑惑の眼で見られたのは、お寺さんにおあげするお布施がなくなったことだ。

その金額は6万5千円。

注釈を入れておくと一度に6万もの大金を渡すわけではない。少しずつ?分けて(言葉は悪いかもしれないが)上納するのだ。

これは最終的なことを先に書くと和解はできた。

だが、一定の時間がかかったことも確かだ。

祖母に手紙を書いていかに自分がお金を着服するのが不可能か、を書いて訴えたし、勿論、言葉でも、あなたの孫は、お金が置いてある場所、入れ物、全く知りません、知りようがありません、というのを滔々と説明したりもした。

結果、さっき言ったように和解はしたが、祖母はまだ思っている―――――きっと僕が犯人ではないかと。

これは加齢によるボケ以外に相当偏屈というのがある。だから、和解こそしたが、心の中では――――。

しかし、自分も粘り強い、内緒の話をするほどのなかであったからして、まだ祖母が好きだった。…。

ちょっと話を立ち止まって考えると、そうそう、これは介護の話だった。

それでも、訪ねていくたび、(祖母がお風呂の入り方を忘れた時)お風呂に入れたり、傾眠傾向のため可能な限りご飯に付き合う、マッサージ、シモの話から世話まで、等々

もちろん家族がそれぞれやれることをやっていて、自分は上に言った事をやってるに過ぎない。

…6万5千円事件は介護が始まって最初のほうに出てきた濡れ衣だった。

まあ繰り返すが、一応、和解は出来た。――――再び繰り返すが、傾眠傾向対策の食事の時、明るい話題で満たされる事もある。―――――それくらいの和気あいあいとした回復度だ。

で、ここで先に言うと、僕はもう、祖母の事が好きではない。

祖母教というものがあったなら洗脳が解けたといってもいいかもしれない。(介護の話中心ではなく祖母の好悪に堕して申し訳ないが介護に…これも介護にとって重要だからだと判断してこのシリーズに書いている。)

ある日祖母を尋ねた時、先に書いた祖母とは違って孫の僕が、介護の今後の話をした。

祖母は実の娘のうちの一人と確執軋轢があって、そのせいで親たち、きょうだいの連携がうまく取れないというのがあった。

僕はそれとなく、そういう現状を祖母に伝えた。勿論、他の様々話も交えながら。

そんなことも忘れかけていたある日、祖母がその、軋轢確執のある自分の子供のところへ出向いて行ったと、速達ニュースで入ってきた。

その時の僕の心境を述べるなら、心配してないけど心配していた、だ。

祖母は、随分長い時間、あちらに家で過ごしていた。

何と早朝から行って昼の食事まで済ませて夕方に帰って来た。――――らしい。

その時、僕も家族も喜んでいた。

次に訪ねた時、僕は祖母にそれとなく、その時の事を訊いてみた。

祖母のほうから話をしてくれるように、割とうまく持って行けたと思っている。

祖母は偏屈なので、曰く「楽しくなかった」らしい。

あれだけの時間過ごしておきながら・・・と、ちょっとがっくりきた。

だが祖母とゴタゴタあった子供には、祖母の現状がうまく伝わったらしく、これから希望が持てそうだった。

そしてその時、話が急に変わって最近庭の榊が枯れていくことなどを報告してきた。

祖母の弁を信ずれば、――――隣に住んでる、人のいいおばあちゃんが薬を使って枯らさせている――――無論、被害妄想の強い祖母の弁は、信ずるに値しないが…。

おや?と、違和感を覚えたが次に進むと、

問題は?―――――問題はここからだった。

「あんた、ばあちゃんの薬を来るたび盗ってかえってるか?あんたしかおらん。」

なにもない――――一瞬無音になり、冷静に…今まで我慢してきたものが、不思議と…不思議と今回は、サーッと冷めていくのを感じた。

ここまで、人を敵にまわす性格だったんだな、と、強く感じ、もう一回言うと、冷めたのだ。

―――――然れども、介護はやめるわけにはいかない。最早事務的にこなすまでだ。愛着もなにもない。

施設…まわりはそう考えだしていて、祖母も何となくそれを察知しているようだった。

僕も施設に一票を投じる考えをもつようになってしまった。――――。

熱烈な信者を失った―――唯一の信者だったかもしれない僕―――祖母はこれからどうなっていくのだろう。




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