【レシピ】タタールの揚げパイ「ペレメチ」【日本の一般家庭にあるもので簡単に作る】
1. はじめに:タタール料理とペレメチ
2021年現在、日本でタタール料理を食す方法は自分で作る以外にない。タタール料理店が今のところ日本にはないからである。
タタール料理を代表するものとして、チャクチャク(чәк-чәк)という名の、揚げた細切りの小麦生地に蜂蜜を絡めたかりんとうのような菓子がある。これはソ連時代に全土に広がったことから、やがてロシアや中央アジアでもごく一般的な食べ物となった。このような背景から、日本においてもロシア料理店や中央アジア料理店でチャクチャクを味わうことはできるかもしれない。
このようにパック詰めされたチャクチャクはロシアや中央アジアのスーパーマーケットではお馴染みである。
また、同じくソ連時代にタタール料理として広がったものとしてチェブレキ(çüberek)という揚げ餃子のようなものがある。これは正しくはクリミア・タタールの伝統料理であり、カザンのタタールの料理ではない。
帝政期にはテュルク諸語を話すムスリムは「タタール」と総称されたこともあり、各地には今も「タタール」を含んだ名称で呼ばれる人々がいるが、少なくともクリミア・タタールは現代の文脈においてタタールとされるヴォルガ川中流域周辺のタタールとは別の民族とみなされるのが一般的である。実際に、クリミア・タタールのなかには民族名称や言語名称を変更しようという動きも見られる。
チェブレキはその見た目も揚げ餃子に近いが、中身はひき肉・玉ねぎ・チーズとほんのり洋風で、これを少しスパイスの効いたトマトソースにつけると絶品なのだ・・
では、現代のタタール料理がどのようなものかと言えば、基本的には「小麦と、肉と、ジャガイモが織りなすハーモニー」である。タタール料理には、これらの食材が欠かせない。いずれの料理にもこれらのうちどれかが、あるいはどれもが使われていることがほとんどである。
そして、これらの食材を使ったものとして代表的なタタール料理はミートパイである。オーブン(または焼き窯)で焼くものと、油で揚げるものとに分けることができる。
タタールはロシアおよびその周辺の国や地域を中心に、さらに大陸を越えて移動した人々も多かったことから、今では世界のさまざまなところでコミュニティが形成されている。そして、各地のタタール・コミュニティの中で欠かせない伝統料理が、油で揚げたミートパイ「ペレメチ」(пәрәмәч)である。(転写は難しく、ペレメシ、ペレメチャ、ペレミャチなど、さまざまなバリエーションが存在する)
伝統的とされるパイの多くは窯で焼かれたが、移動した先には窯がなかったか、窯を構えるまでにある程度の時間を有したことから、油で揚げるパイがより好まれたという。
ちなみに「ペレメチ」に似た料理は沿ヴォルガ諸民族の伝統料理のなかにもみられ、例えばバシキールにはбәрәмес、ウドムルトにはперепечという料理がある。タタールに限らず、沿ヴォルガ諸民族のあいだで食されてきた料理とも言えよう。
本稿では、基本的にはタタールの「ペレメチ」を、日本の食材で、日本的な分量で作ることを想定したレシピを、写真とともに紹介していきたい。普段からパンや凝ったパイ料理を作らない限りは、イーストや強力粉などはあまり一般的ではないことから、これらは使わない。
2. 使用する食材と分量(だいたい3人前)
【生地】
・薄力粉 400g程度
・牛乳 200ml
・卵 1個
・塩 小さじ1
・砂糖 小さじ5
・溶かしたバター 15g
【具材】
・ひき肉(牛ひき肉がお勧め)300g
・玉ねぎ 1個(みじん切りにしたもの)
・溶かしたバター 15g
・塩 お好み(小さじ2〜3程度がちょうどよい)
・胡椒 お好み(小さじ1〜2程度がちょうどよい)
【必要なもの】
・大きめのボウル 2個(生地用・具材用)
・大きく平たい台(大きめのまな板など)
・麺棒
・打ち粉(薄力粉)
・揚げ物油が入った鍋またはフライパン
・クッキングペーパーを敷いた大きめの皿やバット
3. 生地と具材の準備
まず、生地を準備する。
大きめのボウルで【生地】の材料すべてを合わせたうえで、全体的に粉っぽさがなくなるまで手でこねる。
牛乳の乳脂肪分によっては200mlではやや不十分なこともあるため、粉っぽさが強かったり、ボウルに乾いた生地がたくさん付いてしまう場合は、牛乳を大さじ1〜2程度加えたうえで、水っぽさがなくなるまで手でこねる。生地がまとまるようになってきたら、適当な形にまとめて置いておく。(イーストを使わないため、温かい場所に一定時間置いて発酵させる必要はない)
《ワンポイント》
・小麦粉(薄力粉でよい)400gは計量カップで2カップ分である。
・溶かしバターは電子レンジで10〜15秒ほど加熱することで簡単に作ることができる。この際にはラップをふんわりとかけることがポイント。
次に、別のボウルに【具材】の材料すべてを加えたうえで、まんべんなく混ぜ合わせる。
《ワンポイント》
・あらかじめ切れていて計量の必要がないバターは便利でよい。日本のものであれば、雪印メグミルクの「切れてる雪印北海道バター」が美味しく、使いやすい。
・また、玉ねぎのみじん切りが苦になる人には、最近よく見かける野菜チョッパーを使うと作業効率が良くなるうえに、涙が出る苦しみからも開放されるので心からお勧めしたい。最近ではダイソーでも「ハンドル野菜カッター」という商品名で販売されている(300円商品)。
4. 具材を生地に包む
具材を包むにあたり、まずは平らな台の上に打ち粉を広げた上で、先ほど作った生地からペレメチ1個分の生地をつまみ取る。丸めたときに、直径3〜3.5cm程度の球体にできるくらいの量がちょうどよい。
これを麺棒で丸く、厚み1mm〜2mm程度になるまでのばす。一度のばしたあとに生地の裏と表に打ち粉をまぶすと麺棒につきにくくなる。
きれいな丸型に生地をのばせるのが理想だが、それよりは、ある程度厚みが均等になることのほうが重要である。
生地ができたら、広げた生地の中心部に具材を乗せていく。ペレメチ1個分の具材の量は大きなスプーンでざっと山盛り1さじ程度である。
はたしてこれを包んでいくのだが、つまんで、ひだを折り込んでいくようなイメージで包むとよい。地域によってはひだの数も厳密に決まっているが、現在ではあまり意識されない。また、この際に中心部に穴が開くようにするのもポイントである。
これは文章で説明するよりかは、動画で実際に包んでいるところを視聴していただいたほうが早いかもしれない。ペレメチ包みの流儀はいくつもあるが、1つめの動画はとても速い。2つめの動画はややスピードが落ちるので、こちらのほうが見やすいかもしれない。
ひだを折り込んだら、上からポンポンと押して少しだけ平たくするのがポイントである。厚みがあると揚げる時に火が通りにくくなるためである。
ひだが細かい方が最終的な見た目はきれいだが、熟練の手技が必要となる。具材がしっかりと生地で覆えていることがより重要なので、ひだが多少大きくとも、不恰好であろうとも、揚げてしまえばあまり変わらないと割り切ることも大切だ。造形に時間をかけると肉汁が溶け出して、生地がべちょべちょになってしまう。
5. 揚げる
ペレメチはタタール料理のほかのパイとは違って揚げるものであるから、熱した油を用意する必要がある。油の量は、 ペレメチが半分程度浸かる程度で十分だ。
中火で油を熱して、菜箸の先端を油の中に入れたときに細かな泡が浮かぶようになってきたらペレメチを油に投入するタイミングである。このとき、ひだと穴があるほうを下にして投入するのが最大のポイントである。
きつね色に揚がったら、ひっくり返してさらに2分ほど揚げる。ペレメチの底面側はきつね色に揚げる必要はなく、うっすらと色がついたら油から取り出してしまってよい。
余分な油をキッチンペーパーに吸わせたうえで、皿に盛り付ければ完成である。タタールスタンおよびその周辺では邪道だ!と怒られそうだが、ケチャップや醤油、ポン酢をつけて食べても美味しい。(アメリカ在住のタタールの友人はBBQソースをつけてペレメチを食べるのが好きだそうで、ディップするものには暮らしている土地のものが反映されがちなのかもしれない…)
《タタール語でひとこと》
・Аш булсын!(アシュ・ブルスン)めしあがれ
・Тәмле булсын!(タムレ・ブルスン)美味しくなりますよう
・Ашыгыз тәмле булсын!(アシュグズ・タムレ・ブルスン)あなたの食事が美味しくなりますよう(丁寧な言い方)