尊王攘夷だけでは説明できない幕末思想
尊王攘夷のわかりづらさ
歴史の教科書の江戸幕府終期は少々複雑でわかりずらい。
というのも、幕末の思想を尊王攘夷という言葉で一括りにしてしまっているためだ。またこの尊王攘夷に対し、説明がしづらいのもわかりづらさに拍車をかけてしまうのである。
幕末は、想像通り激動の時代のため人々はその時その時で思想が変化している。そのため1から説明すると当時の有力者(幕府・薩摩・長州・土佐etc)それぞれを時系列で追っていかないと流れが把握できないのである。
幕末思想の種類
幕末思想は尊王攘夷だけではない。尊王攘夷にしても尊王論と攘夷論の複合型なのである。下記におおよその幕末思想を簡単にまとめた。
攘夷論:夷狄(イテキ)を打ち払うことからきている。すなわち外国人排斥論である。
佐幕論:徳川幕府を支持し、幕府の力で国難を乗り切ろうとする考え方。
尊王論:国の拠り所を天皇に求め、崇拝する思想。
尊王攘夷論:尊王論と攘夷論が結びつき、外国に勝つためには幕府の圧力に屈する体制では難しいので朝廷主導で外国を排他しようとする考え方。
倒幕論:尊王攘夷論が過激になり、徳川幕府を瓦解させるようとする考え方。
開国論:鎖国を辞め欧米列強の知識を取り入れて、外交関係を築くべきという考え方。
公武合体論:朝廷と幕府の強固な協力体制の下、政局を安定させる考え方。
公議政体論:将軍を議長とした、議会制政治を敷く考え方。
当時は、この考え方がさらに組み合わさり様々な思想が交差したのである。
幕末の大まかな流れ(参考)
1.黒船来航:1853年米ペリー率いる黒船が来航し、開国を求めると幕府は武力衝突を避けるため、米の国書を受理。翌年に回答する約束をし、ペリーが引き上げると幕府は広く意見を求め、開明的な大名と協調をはかった。
このとき、孝明天皇は攘夷を指示、福井藩や薩摩藩は開国を支持した。
2.条約締結:翌1854年孝明天皇の指示に反して、幕府は日米和親条約を締結し開国。さらに4年後の1858年に大老の井伊直弼が日米修好通商条約を締結すると、尊王攘夷派の藩と孝明天皇が猛反発し、孝明天皇が尊王攘夷派の水戸藩に幕府の非難や攘夷推進を命じた勅書が下賜される。このことが井伊直弼の逆鱗に触れ、安政の大獄と呼ばれる粛清が開始される。これに対し、水戸藩の過激派が井伊直弼を桜田門外で暗殺(桜田門外の変)し幕府の権威が失墜する。
3.薩英戦争:薩摩藩は1862年、京へ上洛し寺田屋事件で藩内の尊王攘夷派の一掃、薩摩藩の藩論を公武合体に統一した。江戸へ向かい幕府へ改革を要求し、朝廷の圧力もあり幕府がこれを受け入れ、文久の幕政改革が実現する。しかし、江戸からの帰りに生麦事件(藩主・島津久光の行列にイギリス人が横切り薩摩藩士が切りかかる事件)が起きると英は薩摩に賠償請求。薩摩が拒否すると英は1863年に艦隊を派遣し薩摩に対し、砲撃を開始する。圧倒的な軍事力の差に英と講和し、欧米列強の強さを痛感し攘夷に失敗した薩摩は倒幕へと転換する。
4.禁門の変・下関戦争:薩摩藩が江戸へ向かうと、朝廷でも尊王攘夷派が台頭、長州と組み、神武天皇陵を参拝し攘夷を決行する計画を立てる。尊王攘夷派の暴走を恐れた、公武合体派は1863年政治クーデターを仕掛け尊王攘夷派と長州藩を朝廷より締め出す。(8月18日の政変)それに対し、長州藩は武力による復権を狙う急進派が台頭。急進派は1864年京都御所へ進軍すると蛤御門で激戦し敗北(禁門の変)し朝敵となってしまう。また同年外国商船に砲撃を繰り返していた長州藩に対し、英・仏・奥・米4か国が襲来(下関戦争)長州軍は壊滅したが、欧米諸国の強さを実感し尊王攘夷論は衰退した。さらに朝敵となったため、幕府は長州征伐軍を派遣(第一長州征伐)長州は戦わずに降伏している。
5.薩長同盟・大政奉還:尊王攘夷派の長州と公武合体派の薩摩は対立していたが欧米列強との戦争で攘夷の限界を感じた。1866年1月になると坂本龍馬仲介のもと薩長同盟が締結。長州は高杉晋作のもと軍制改革を行う。この動きに警戒した幕府が第二次長州征伐を決意。1866年6月攻撃を開始するが、軍制改革を行った長州に敗北。幕府の威信が失われると薩長は武力倒幕を計画し1867年、倒幕の勅書が下るように画策。同年10月に密勅が下ると、幕府の徳川慶喜は武力衝突を避けるため、大政奉還を行い朝廷に政権が交代した。
6.王政復古の大号令:旧幕府は政権を担当する体制を持たない朝廷から、政権運営を委任しており、相変わらず政権を掌握していた。そこで、倒幕派は1867年に王政復古の大号令を発し新政権を確立し徳川慶喜を失脚させる。失脚後も徳川慶喜は公議政体派の後押しを受け、復権するがこれに危機感をいだいた薩長藩が武力行使を決定。戊辰戦争へとつながっていく。
終わりに
幕末の思想を理解することで、明治維新までの流れがよく理解できるようになる。幕末に興味があるならば抑えておきたいポイントである。
参考資料
幕末・維新の全てがわかる本 柴田利雄 ナツメ社