きみは本気を出したことがあるか? 田舎暮らし vol.11
きみは本気を出したことがあるか?
私はある。
あれは忘れもしない…
いつだっけ?
あ、思い出した。
昨日と今日だ。
昨日と今日、私は本気を出した。
まっさん命がけシリーズ第三弾
VS巨木シリーズクライマックス。
私は正真正銘本気を出した。
電線に向かって巨木が倒れぬよう、
私に向かって巨木が倒れて来ぬよう、
幹をちょっと削ってはロープで引っ張り、
またちょっと削ってはロープで引っ張り、
巨木を徐々にしならせそのまま固定。
そしてついに
その時は来た。
電線も私も無事だった。
巨木がメキメキと音を立て
ゆっくり倒れた時、
私は
勝った!勝った!うへへへへ!と思った。
見た目で南国感を醸し出すシュロの木。
ネットで調べたら
自分が高齢になってから
絶対に植えてはならないと書いてあった。
自分がこの世を去ったあとも
グングン成長を続け
電柱の高さなど軽々と超え
10メートル近くになるそうだ。
おまけになかなかの生命力で
たいして手入れしなくても勝手に育つ。
育ちきったあとは
処理が非常に厄介になる。
たしかに厄介だった。
チェーンソーだろうが
高枝切りノコギリだろうが
樹皮が硬質なうえ
タワシに活用されるほどの繊維質で
ノコギリの歯が入っていかない。
ハサミで繊維をかき分け
芯が見えたら手動のノコギリで勝負をかける。
チェーンソーは、すぐタワシを吸い込んで
動かなくなるからダメだ。
きみが都会の密集地のお庭で
シュロの木を育てているのなら
3メートルぐらいになったら
もう将来のことを考えた方がいい。
まあ私のように命がけで本気を出せるなら
5メートルぐらいまで育てればいい。
ともあれ、
若者たちがひとりもいない
山中のメインストリートで
でかいツラして並んでいた巨木どもは
おおかた片付けた。
きみは本気を出したことがあるか?
私はある。
巨木どもをねじ伏せたあと
散歩で通りがかった老人が私に言った。
え!? これあんたひとりで
全部切りましたんか?
はあー たいしたもんでんな!
でも無理したらあきませんで
木が倒れてきたら危ないですけん。
ホームセンターで木枯らすクスリ買うて来て
横の皮チョロっとめくって塗ったら
それでよろしい。
ゆっくりゆっくり枯れていきますわ。
*
きみは腰砕けになったことがあるか?
私はある。
老人の言葉に腰砕けになった。
今時、命がけで巨木に立ち向かわなくても
ホームセンターに行けばなんだってある。
先を急いではいけない。
勝ち誇っていた私はすっかり色を失い
脱力感に見舞われた。
腹減ったな…
旨いもんでも食って元気だそう。
そうだ
回転寿司に行こう。
今時の回転寿司は
ラーメンもスイーツも置いている。
回転寿司に行けば
なんだってある。
あと
目上の人の話には
耳を傾けなければならない。
🍀
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