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家族とともに“従来コシヒカリ”の本当のおいしさを届けたい
海とサーフィンがきっかけの愛称「シーちゃん」
「sea って農業とあまり関係ないんですけど」と笑いながら自己紹介してくれたのは、愛称“シーちゃん”ことsea farmの吉村志織さん。
実は、海が大好きで夫婦そろってサーフィンを楽しんでおり、名前の「しおり」の“し”と英語で海を意味する“Sea”の響きをかけ合わせてsea farmと名付けたそうです。結婚を機に十日町市へ移り住み、現在は農家として、コシヒカリや黒米などを生産しています。
「夫のおじいちゃんがある程度の規模の農地と機械を持っていたので、“兼業でなら農業ができるね”という感じで引き継いだのがきっかけです。私は3年前から本格的に専業農家になりました。冬はwomen farmers japanにも関わらせていただいているので、米の生産から、サツマイモの加工という、1次産業から6次産業の流れを間近で見られるのは本当にありがたいですね」
「従来コシヒカリ」にこだわる理由
実は「新潟県産コシヒカリ」と言われるものには、2種類の品種があります。
現在、新潟では多くの農家が“コシヒカリBL”という、コシヒカリを親として品種改良された、病気に強い品種のお米を栽培、出荷しています。しかし、吉村さんが生産しているのは「従来コシヒカリ」。病気にも弱く、収穫量の少ない品種ですが、味の良さと冷めても美味しいという特性から、お弁当やおにぎりなどにも最適な品種です。
「私自身も食べ比べたときに、やっぱり従来コシヒカリの方がおいしいと思いました。ただ、病気に強くする等改良されたBL種が主力なことから、新潟県では出荷している農家さんが少ない状況です。どうしても自分たちのお客様には納得のいくものを届けたい想いから、従来品種にこだわり作付けしています。最初はリスクもありましたが、都内や大阪のおにぎり屋さんと契約が決まり、今は増産も考えています」
美味しいお米を届けたいという想いから、生産や、出荷が難しい従来コシヒカリを生産。おにぎり屋さんからの注文が増えるなど、ファンを着実に獲得しています。
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黒米づくりへの挑戦と“はざかけ”へのこだわり
吉村さんが育てているもう一つの注目作物が「黒米」です。玄米の外側が黒紫色になり、炊くとほんのり紫色が広がるのが特徴。吉村さんが育てた黒米は「色移りが濃くてきれい」と農家の中でも評判です。昔ながらの“はざかけ”という天日乾燥や、手作業での選別など手間暇をかけて商品を出荷しています。
「実は私自身も、同じ品種なのにどうしてこんなに色付きが違うんだろうって不思議なんです。1日で終わる機械乾燥ではなく、はざかけで1ヶ月じっくり乾燥させるので、甘みや香りがしっかり残るのもポイント。手作業の部分が多いので大変ですが、それがうちの黒米ならではの魅力になっていると思います」
天候に左右されるリスクは大きいものの、吉村さんは「まわりと同じでなくてもいい。小規模だからこそできることに価値がある」と笑顔で語ります。
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家族で楽しむ農業——夫婦で協力し、3人の子育ても両立
吉村さんのご家族は、夫・3人の子どもたちを含め5人。夫婦ともに農業が本業ではなかったものの、おじいちゃんの残した機械と農地を活用して始めたところから、少しずつ規模を拡大してきました。
子育てをしながらの農作業は想像以上にハード。それでも「夫と一緒にできる安心感」が大きな支えになっているといいます。
「もちろんケンカもしますよ(笑)。でも、忙しい作業の真っただ中で感情的になっても何も解決しないから、モヤモヤをためないようにタイミングを決めて話し合うんです。“これから良くするために意見を伝えたいんだけど”っていう前置きをすると、お互い前向きな話にしやすいんですよね」
農繁期には子どもを預けて作業に集中する日もありますが、終わった後で夫婦の時間や子どもとの時間をしっかり設けるなど、バランスを工夫。家族みんなで農業を“楽しむ”気持ちを大切にしています。
「吉村さんちのお米」として伝えたいこと
吉村さんが作るお米や黒米には、「吉村さんちのお米」というシンプルな名前が付けられています。実は、昔おじいちゃんが販売していた銘柄を引き継ぐ形で、親しみやすいパッケージにリニューアルしたのだとか。
「いろいろ名前を考えたんですが、結局いちばん分かりやすくて伝わるのが“吉村さんちのお米”でした。黒米の方は、長男が書いた“くろ米”という文字を採用していて、家族の思い出も詰まったパッケージになっています」
今はポケットマルシェなどのオンラインで直接販売しており、注文が入るとその都度精米して発送。飲食店や一般家庭が「定期的にほしい」という声を寄せてくれるようになり、少しずつではあるものの売り上げが伸びています。
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これからの展望——伝えたいのは「従来コシヒカリ」の美味しさ
従来コシヒカリの市場流通が限られる一方で、その味に惚れ込む飲食店は増えているといいます。さらには、6次産業化に取り組む干し芋の製造や、黒米のレシピ開発など、新たな挑戦への意欲も尽きません。
「従来コシヒカリのおいしいものを直接お客様へお届けするために美味しさを直接伝えられる道を選びました。まだまだ規模は小さいけれど、“農家の顔が見える”ことでファンが増えていくのを実感しています。いずれは、もっと多くの人に食べてもらいたいですね」
親近感の湧くパッケージや、家族の手間ひまが感じられるくろ米の“はざかけ”、そして冷めてもおいしい従来コシヒカリ——。こうした強みを活かしながら、自分たちならではの農業スタイルを確立しようとしています。“吉村さんち”の愛情いっぱいのお米をぜひお買い求めください。