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ささやななえさんの怖い作品(1)

 漫画家のささやななえ(ななえこ)さんが、お亡くなりになりました。
  筆者にとって、ささや作品といえば怖い漫画。なので、それらの作品を紹介したいと思います。すべて、単行本に収録されているものに限ります。


サラの遺言

 ジャンルとしてはミステリー?コメディー?
 カードとジョーカーのチンピラ二人組が、行く先々で怖い目に合うという作品。


 多額の財宝が隠されているという噂の古屋敷に、宿を借りにもぐりこんだ二人。霊感があるというジョーカーは、その夜女の幽霊を見る。幽霊はなぜか床を指さし、たたずんでいるのだが…。

 屋敷には亡くなったばかりの女主人の若いツバメのエドウィンと、何やら胡散臭い弁護士オードソン。ちょっと不気味な下男リフラフがいて、どいつもこいつも腹にイチモツありそうな…。


 ストーリーを文書で書いても、全然面白さが伝わらないと思います。(苦笑)
 コメディータッチながら、ところどころに出てくる心霊現象の描写が怖い。やがて恐ろしい過去が明らかにされるというわけです。
 もちろん、お約束通りカードとジョーカーも財宝は手に入れられず━━というか、誰も得をするやつはいないという落ちが付きます。

 ちなみにリフラフはミュージカル『ロッキーホラーショー』の執事の名前をいただいたそうです。

(プチフラワー昭和55年秋の号 掲載。単行本『ミノタウルス』収録)


ミノタウルス

 カードとジョーカーのシリーズ2作目。


 古書マニアの弁護士オードソンと偶然再会した二人は、ある旧家に身分を隠してもぐりこみ、調査をしてほしいと頼まれる。
 その屋敷の周辺では殺人事件が、そして以前にもたびたび子供が行方不明になっているという。そして屋敷の当主の一人息子も消息不明に…。

 古代クレタ島に伝わる半人半獣の怪物ミノタウルスの神話に題材をとった作品。

ミノタウルス

 あいかわらず、怖いものを見てしまうのはいつもジョーカーのほう。真夜中に得体のしれない化け物を見る。
 しかし、本当の恐怖は別にあった。


 ミノタウルスはちょっと物悲しい話です。たとえ神の呪いだとしても、生まれた子供に、何の罪があるというのか…。

(プチフラワー昭和57年3月号~9月号 掲載。単行本『ミノタウルス』収録)


化粧曼荼羅

 ささやさんの伝奇ロマン作品の中でも一番好きかもしれません。


 大学生の宮前珠々子すずこが引っ越した下宿は、同じ学部であこがれの緒形夜刀彦おがたやつひこの家の隣だった。
 緒方家は夜刀彦と曾祖母の二人家族。大きな屋敷の離れには、九沼白貴くぬましらきという高校生の少年が住んでいた。

 珠々子は引っ越した最初の夜、不思議な夢を見る。後日大学の図書館で、夢に出てきたイメージが仏教の曼荼羅と似ていることに気づく。夜刀彦にさそわれ、屋敷に案内された珠々子は、床に描かれた曼荼羅とくんだり王という緒形家独自の神像を見せられる。

 珠々子はしばしば不気味な体験をする。そして、謎の少年白貴に、直ちに出ていくように警告される。
 くんだり王の90年ごとの大祭の日が近づいていた。くんだり王は緒形家の力の源泉だという。
 くんだり王とはいったい何なのか。

化粧曼荼羅


 太古の昔から人は人智の及ばない自然の驚異にさらされ、畏怖してきました。自然現象にも神の姿を見、脅威が及ばぬように祈りをささげてきました。人のコントロールがきかない圧倒的な力を、もし封じ込めることに成功したなら…。

 しかし、そこに人間のおごりと勘違いが生まれるのです。くんだり王の恐怖とは、人間が生み出したものなのです。

 …と書いてみても、よくわからないと思います。もし気になるようでしたら、読んでみてください。

(プチフラワー昭和59年6月~11月号 掲載。単行本『化粧曼荼羅』①②収録)


オシラ伝

 『化粧曼荼羅』の前に描かれた作品で、白貴が初めて登場します。また『化粧曼荼羅』と併せて読むことで、出生の秘密も明らかになります。


 田舎の祖父が亡くなり、伯父夫婦の使いという少年白貴とともに、生まれ故郷を訪ねることにした珠々子。(『化粧曼荼羅』の珠々子とは別人)
 実家の九沼家の女性は体に不思議な模様を持って生まれることがあり、それは先祖が「らず山」の蛇と交わったからと伝えられていた。
 
 珠々子も生まれたときに体中に模様があり、それはすぐに消えてしまったが、入らず山のイタコから「九沼の家を滅ぼす」という託宣を受けて、村人から「蛇付き」といじめられた。
 その後、彼女は東京の祖父の知り合いの家に預けられ、そこで育った。

 良い思い出など一つもない故郷だったが、珠々子はどうしても確かめたいことがあった。

 昔と違い、やけに優しい伯父夫婦。珠々子に祖父の遺産相続放棄を持ち掛ける。故郷と縁を切っていた珠々子は承知したが、伯父たちの狙いはそれだけではなかった。

 入らず山に住んでいるという白貴は何かと珠々子の味方になってくれる。それには、わけがあったのだ。


 入らず山は人が死んだら行くといわれる場所で、死者の霊と接触できる特殊な人━━イタコ(民間の巫女)だけが登れる山です。また、作中イタコのことを「オシラサマ」と呼ぶことがあるという設定もあります。
 通常入らず山のイタコは女性だけですが、白貴はあるイタコが産んだ子で、入らず山で育ったという話になっています。

 不思議な余韻を残して去っていく白貴がとても魅力的に描かれている伝奇ミステリー作品です。

(プチフラワー昭和58年11月号 掲載。単行本『化粧曼荼羅』①前編収録)


化粧曼荼羅━━冬の祭り━━

 まだ春遠い不入山いらずやまの岩屋で、オシラの白貴が目覚めるところから始まります。
 なんと驚くことに、彼は自然の洞くつに布に体を包んだだけで寝ているのです(そして、なぜか全裸!)どうやら彼は冬眠していたみたいです。なんなんだ、君は!人間か?


 不入山の十三参りの取材に雑誌社の一行が取材に訪れた。十三参りとは数えで十三になった子供たちが、夜道を不入山の寺参りに行く行事だ。

 編集スタッフの黒崎理江は初めて来た場所なのに、なぜか懐かしい既視感を抱いた。一行が泊まる場所は昔産屋に使用された小屋で、村から離れた場所にある。
 食料や薪を白貴が運んでくる。彼は村の雑用を引き受けて暮らしていた。

 女流作家の中野よし子は編集長の竹中の不倫相手という噂だ。その竹中に理江は片思いしていた。そのことをよし子に見透かされ、二人は険悪になる。

 十三参りは女人禁制ということで、夜闇祭の取材は男性陣だけでやることになり、仲の悪い二人は小屋に居残ることになってしまう。

 夜中、ふと目覚めた理江はどこからともなく流れてくる笛の音に気づく。夜闇祭の笛だろうかと、こっそり窓を開けてのぞくが、外は雪の積もった暗い森ばかりで、誰もいない。
 でも確かに笛の音がする。しかし、それは外ではない。背後の部屋の中だ。
 理江が恐る恐る振り返ると…。


 子供は無垢の魂を持って生まれてくるばかりとは限らない。理江は業を背負って生まれたのです。それは前世の行いが現世の身に影響しているということなのでしょうか。
 なんだか、理不尽なようにも思えます。

 理江が不入山を懐かしいと感じたのは、そこが死者の魂が登る山だからでしょうか。
 あさましい業に取りつかれた魂はやがて暴走し、理江の体を抜け出して、不入山へと向かいます。
 オシラとして白貴は彼女の魂を救えるのでしょうか。

(プチフラワー昭和60年3月~4月号 掲載。単行本『化粧曼荼羅』②後編 収録) 


 

 

 


 

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