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ささやななえさんの怖い作品(4)終

 先日お亡くなりになった漫画家のささやななえ(ななえこ)さんのホラー・ミステリー作品をご紹介しています。


霊送たまおくりの島

 国根くにね島。周囲8キロの小さな島は過疎化が進み、今は15人の高齢者のほかは測候所の職員が数人いるばかり。
 しかし、島の歴史は古く、縄文時代から人が住んでいたという。島の遺跡の中心はストーンヘンジのような巨石群で、その周囲のがけには横穴墓が点在している。

 沙織は母親と一緒に夏休みを利用して国根島の測候所に単身赴任している父親を訪ねてやってきた。長年測候所に努めている土賀とがは遺跡に詳しく、二人を案内してくれたが、沙織は退屈だ。

 考古学専攻の学生の河原は島の横穴墓を調査している。沙織は興味を示し、案内を買って出た。おじさんの土賀といるよりはよい。

 横穴墓は通らずケ浜にもある。そこは海からそそり立つ崖に面していて、島の人間は祟りを恐れてめったに近寄らない。満潮時には浜が水没し、近寄ることもできない場所だ。
 大きな洞穴もあり、その中にも横穴墓があった。

 二人は無住の寺にも行ってみた。寺に残された過去帳を見ると、病死や事故死の墓ばかりで、なぜか老衰など自然死の墓がない。
 土賀の説明では、以前は自然死以外の死者は脚や首の骨を折り、通らずケ浜の横穴に押し込んで一定期間をおいてから、寺の墓地に埋葬していたという。
 死体を損壊したり縛ったりするのは、死体にモノが憑りついて、動き出さないようにする古い習俗で、日本各地にその痕跡がある。

 実は沙織たちが島に来る直前に、測候所の職員が海で溺死した。そのとき島民が遺体の骨を折ると主張して、測候所の職員たちともめたのだが、結局そのまま土葬された。その墓が荒らされて、死体がなくなるという事件があった。島民が「オンバラサマ」と呼ぶ猿の仕業というのだが…。

  沙織の母親が沙織の目の前で何者かに襲われ、その後横穴墓で気を失った状態で発見される。続いて沙織自身も、海岸で脚をつかまれ海にひきづりこまれそうになる。
 島民が彼女を襲った何者かに漁網をかけ、寄ってたかって石でたたき、骨を折った。

 それはオンバラサマ━━ではなく、行方不明になっていた測候員の死体だった。波に揺られて生きているように見えたのだろうと土賀。

 うそ!あの人生きていたわ!あたしの足首つかんだのよ!


 島にかくされた秘密。巨石の遺跡、横穴墓、オンバラサマ、島の禁忌……そして、河原の過去。これらはみな一つにつながっているのです。

 その秘密が明かされようというとき、島に異変が起きます。度重なる地震。空を覆う火映現象。島は大きく形を変えようとしていました。

(ASUKAミステリーDX1991年7月20日、9月20日号掲載。単行本『霊送の島』収録)


はるかなる向こうの岸

 最後にご紹介するのは、ささやさんご自身の心霊体験を描いたエッセイマンガです。

  旅行先の山形県の湯殿山神社や、沖縄県の戦跡の地下壕で撮影した心霊写真を、霊能者の冝保愛子さんに鑑定してもらったエピソード。
 飼っていた愛犬の死にまつわる、不思議な体験など。ささやさんは結構経験豊富です。

 なかでも音にまつわる話が多い。


 子供の頃のこと。テレビでアニメ(『ハリスの旋風』懐かし~!)を見ていたところ、テレビの音が小さくなり、玄関を激しくたたく音と、「ごめんください。開けてください」と繰り返し怒鳴るような男の声がしました。
 すると、突然金縛りにあい、声も出せなくなってしまったそうです。まるで、自分の意識が小さくなってスッポリ体の中にはまってしまったような感じだったとか。
 その間も戸を叩く音と「開けてください」という声はつづいているのに、隣室の母親は何事もないように布団を敷いているのです。
 アニメの主題歌が終わるころに金縛りは解け、声も低くなっていき、母親に客が来たことを告げますが、母親は何も聞こえなかったというのです。
 二人で玄関に見に行きましたが、やはり誰もきていないし、外も誰もいませんでした。


 また、部屋でレコードをかけて音楽に合わせて一人で踊っていたら、突然複数の男の子たちの笑い声がきこえました。それも、部屋の中で聞こえたのです。


 ほかにも、階段を上がってくる足音とか、『化粧曼荼羅』を書いている時だけ聴いた、柏手を打つような音の話だとか。

 「なんせ幽霊を見る方ではないから たいして怖くない話ばかりで申しわけないが」なんて書いてらっしゃるが、いや、怖いでしょう。十分に!

 ささやさんは、この世と違うもう一つの世界の存在を信じているようです。そしてこんなことを書かれています。

いつか私がこの世から消えた時
その時こそ確証がつかめるのかもしれない
(略)
だから私はいつも夢みる
いまいる「世界」という名の岸の向こう側に
もうひとつの岸辺があるということを
(略)
はるかなる川を越えて
はるかなる向こうの岸


 ささやさん、もう川を渡りましたか?向こうの岸に無事たどり着けましたか?

(ASUKA1988年12月号掲載。単行本『霊送の島』収録)

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