season8 24話 ポケモン×この世界の片隅にクロスオーバー(ポケモンAYG)
24.『霧と共に去りぬ』
(元ネタ:風と共に去りぬ)
交換留学の最終日まで残り3ヵ月になった日、これまでのことをアカデミーに報告する(レポート提出に行く)ついでに功績を称えられ2週間の休みをもらうヨーコ(特別講師招聘のレポートでだいぶ単位がもらえたこともあり)。
ぴっかりさんと荷造りをしていると、
ディンドンダンドーン♪
『放送室より生徒のお呼び出しです。グレープアカデミーよりお越しのヨーコさん、ブライア先生から連絡です。1-4の教室へいらしてください』
ドンダンドンディーン♪
ということで、荷造りの手を止めて1-4へ。
「ブライア先生、お待たせしました」
ブライア以外、やっぱり誰もいなかった。
「やあヨーコくん、ピカチュウ、一月ぶりだね!」
ブライア、にっこり。
「お話というのは?」
「私が大空洞で調査したことを本にするため、あれからずっと執筆していたのは知っているよね」
「ええ、まあ」
「ああ、もちろんオモダカさんに許可をとり、具体的な事件や個人名などは伏せているので安心しておくれ。さっき届いた本の見本がこれさ」
ブライア、ヨーコに白い本を渡す。タイトルは『ゼロの秘宝』。
「大空洞では本当に迷惑をかけてしまったし、お説教までしてもらったからね。お詫びと言ってはなんだが、ぜひ君達にもらってほしかったんだ。帰りの飛行機の中などで読んでくれたまえ」
ヨーコ、目を見開く。大空洞でのメモを思い出す。
「あ、どうもです!」
「ピカチュ」
慌ててお礼を言うヨーコ。あら殊勝ね! なぴっかりさん。
「報告は以上だ! 幾度も時間を割いてくれてありがとう! 私はこれから出版社におもむくので失礼するよ。また今度にでも、テラパゴスをじっくり観察させてほしいな」
「はい。ありがとうございました」
ブライアを見送り、ヨーコ、少し考え込む。
「ピーカ?」
ぴっかりさん覗き込む。
「ねえ、ぴっかりさん。パルデアに帰る前に寄り道させてほしいんじゃけど……」
*
翌日、ヨーコ、飛行機でキタカミへ。
バス停につくなり空飛ぶタクシーでてらす池に向かう。ぴっかりさんも一緒。
『ゼロの秘宝』を手に池の前に立った瞬間、テラパゴスが出てきた。
「テラアコパリ」
一声鳴くと同時に、テラパゴスの体が光る!
するときらめく濃い霧が立ち込め、誰かの後ろ姿が現れた。
「え──」
絶句するヨーコ。ぴっかりさんも声が出ない。
「おや?」
つぶやく人物。声もまさにその人。
「ここはいったい……。時空を超越している?」
と、こちらを振り向き、
「君たちは……?」
その姿は、どこからどう見てもフトゥーだった。
*
「──あなたは!」
「ピーカチュ!」
ヨーコとぴっかりさん、ようやく声が出る。
「どこかで会っていたかな? あいにく、僕の記憶にはないが……」
「AI、さんじゃ、ないですよね?」
「AIを搭載したロボット?」
フトゥー、きょとん。
「ふむ……。もしそんなものが実用化されれば便利そうだ」
首をかしげつつも、
「僕はフトゥー。エリアゼロにて、ポケモンの研究をしている者だ」
微笑む顔は、大親友と似ている。思わず目頭が熱くなるヨーコ。
と、
「アギャギャース!」
ミライドンが喜びの声と共に出てくる。
「ピッカチュウ!」
「うん、あんたは、ほうよね……」
「!!」
ミライドンを優しくなでるヨーコとぴっかりさん。フトゥーは目を見開く。
「こ、このポケモンは!! まさか……、テツノオロチ!?」
しげしげと眺める。ミライドン、おかまいなしにフトゥーをなめる。
「ミライドンさん言います」
「そ、そうか……! ミライドンというのだな!! フッ……、いい名だ」
フトゥー、笑いながらもミライドンから離れ嬉しげにうなずく。
「アギャン?」
首をかしげるミライドン。
「ふむ。状況から判断するに……」
顎に手を当て考えるフトゥー。
「君たちは僕にとって未来の存在なのだな」
フトゥー、ミライドンを見ながら、
「だが、時空の可能性は無数に存在する……。この出会いも地続きの過去・未来ではないのかもしれない。おそらく、この出会いもひとときの奇跡だろう」
フトゥー、笑みを浮かべ、
「時間が許す限り、有益に情報交換といかないかな?」
「──はい!」
ゆっくりうなずくヨーコ。
「では、まずは僕から答えよう。僕に何か聞きたいことはあるかな?」
「えーと……、どうしてここに来んさったんですか?」
「原因はわからないが、秘密のラボでデータを分析していたら、次の瞬間この場所に立っていたよ」
フトゥー、顎に手を当て、
「あの場所に眠る結晶ポケモンの影響か……? 君と僕にも何かしら因果があるのかもしれないね」
微笑むフトゥー。
「あはは、ほうですねえ……」
ヨーコ、ぴっかりさん(汗)
(あなたの息子さんの大親友です言うたらおかしなことになるけえ言えん……)
「ほかに聞きたいことはあるかな?」
「どがな研究をしとりんさるんですか?」
「異なる時間軸のポケモンを捕まえて、現代に呼び出す……」
微笑み、
「……そんな、夢のような装置を作ろうと計画しているよ」
フトゥー、懐からあの本を取り出す。
「幼少期に読んだこの本が僕の心を捕まえて離さなくてね」
「バイオレットブック……!」
「ピカピカ……!」
「知っているのか」
「ええまあ」
「そうか。だが研究に行きづまっていて、家にもずっと帰れていない」
苦しげに目を閉じるフトゥー。
「君との会話から、解決の糸口をつかもうと必死なんだよ」
「──あの……、ご家族は……?」
恐る恐る聞くヨーコ。フトゥー、少し目を見開き、
「僕のプライベートに興味があるのかな?」
ヨーコ、こくり。フトゥーすぐに微笑んで、
「……子供がひとりいるよ」
空を仰ぐフトゥー。
「今ごろ家で……、いや、今という言い方は正しくないか? きっとさみしい思いをしているだろう」
思うことがあるようで、目を閉じるフトゥー。
黙って見守るヨーコ達。
ややあって、
「さて、攻守交代だ。こちらからも質問させてもらおう」
「──はい」
フトゥー、辺りを見回し、
「この場所はどこなのかな? パルデアではないようだが」
「キタカミの里の、てらす池です」
「ふむ……。文献で読んだことがある」
フトゥー、水面に目を向ける。
「テラスタルエネルギーをまとった水が湧き出る場所。僕がいたところからは、座標までも大きくずれているようだ」
ヨーコに振り向く。
「……次の質問だ」
ミライドンを見て、
「そのポケモン、テツノオロチ……、いや、ミライドンは……、なんなんだ?」
「ええと……」
ヨーコ、少し迷い、
「浜辺で倒れとったんをうちが助けた子で」
「ふむ……、では、ミライドンがどこから来たのか厳密に知っているわけではないのだな」
「ええ、はい(汗)」
「他には?」
「ライド出来るポケモンで……」
「やはりモトトカゲに性質が酷似しているか」
ひとり考察するフトゥー。
「モトトカゲの未来の姿……。僕の仮説が信憑性を帯びてきたな」
フトゥーうなずき、
「他は?」
「うちとうちの相棒達の、大事な存在です」
「ええと、そういうことを聞きたいのではなかて……(汗)」
「ええ……(汗)」※ぴっかりさんも(汗)
お互い困惑。
「いやすまない。野暮なことを言ってしまったな」
「アギャ」
なんかうなずくミライドン。と、フトゥー、ヨーコの手の『ゼロの秘宝』に気付く。
「……ん? その本は? 見たことないデザインだ」
「あ、これですか?」
ヨーコ見せる。
「タイトルは、『ゼロの秘宝』……? ちょっと見せてくれないか!?」
「は、はい」
勢いに気圧されつつも、ページを開いて見せるヨーコ。
「大空洞のことが書かれている! テラパゴスが覚醒することにも記述が!?」
速読しヨーコに向き直るフトゥー。
「この本の著者、ブライアとは何者だ?」
「学校の先生なんですけど」
「教師だと? 僕以外にはリーグの連中しか、あそこには入れないはずだが……」
「あと、ヘザーさんの子孫さんです」
「なんと! バイオレットブックの著者の子孫だったのか……」
目を丸くするフトゥー。
「なるほど、血は争えないようだ」
しみじみうなずくフトゥーに、ヨーコ、ブライアのテラスバカっぷりを思いだし苦笑い。ぴっかりさんジト目。
「しかし、なんと研究者心を掻き立てる本であろうか……! すまないが、その本をじっくりと読ませてもらいたい!」
と、霧が濃くなる。
「あ……」
「また霧が……。そういえば、時間に限りがあるのだったな」
「ギャス! ギャアス!」
悲しげに鳴くミライドン。
「ピカピカ……」
同情するぴっかりさん。
「もっとテツノオロチと交流したかったが急がねば……。その本は貴重だろうから、無償でもらうのは心苦しい」
フトゥー、少し考え、
「僕としても悩ましいが……、その本をバイオレットブックと交換というのはどうだろうか?」
「も、もちろんです!」
ヨーコ、恐縮しつつも本を交換。
「感謝するよ」
フトゥー、ふっ、と微笑み、
「ひさしぶりに家に帰って、読書するのも悪くない……」
「……ええ、ぜひ、そうしてつかあさい。お子さん、待っとりんさると思います」
フトゥー、静かにうなずく。
「……ああ、そうだな」
ヨーコ達を見て、
「……それでは、お別れだ。──時空を越え出会いしテツノオロチと、冒険者たちよ」
にこやかに手を降るフトゥー。
「ボン・ボヤージュ!」
霧が一層濃くなる。そして晴れた時には、博士の姿はなかった。
辺りを見回し、途方もない寂しさに襲われるヨーコ。心配げに、他の仲間たちも出てくる。
そうしてみんなと抱き合い、涙を流すのだった。
※エンディング、右手が描くのは、別の時間軸での博士とペパー。
*
Cパート。
夕方になり、桃沢商店で買い物をしていると(キズぐすりとかなくなりかけてた)、ホコリをかぶった置物がちょっと甘い匂いを放っている。
それがだんだん強くなり、とてつもなく甘い匂いになったかと思うと──かすかに動いたように見えた。
「え……?」
「ピカ……?」
我が目を疑うふたり。
が、
「はい、お待ちどうさま」
包んでもらった袋をとるため目を離した隙に、置物はなくなっていた。
「おばあさん、置物が……」
「あら、どこかに落ちたのかしらね。探してみるから、気にしないでね」
と言われそのまま帰る。
キタカミには、丸い影がふよふよしていた──