season12 9話 ポケモン×この世界の片隅にクロスオーバー(ポケモンAYG)
9.『戴冠・召喚』
入り組んだ渡り廊下を抜けて中庭へ。
オモダカを人質に取っているシクータ。
「オモダカさん!」
思わず名前で呼び掛けるヨーコ。オモダカ、ヨーコに目配せ。ヨーコ、悟ってからシクータを睨み付ける。
「どれもこれも、子供の頃使用人に捕まえさせ育てさせた強いポケモンだったのに! なぜ餓鬼ごときに! いたぶってびびらせて冠を置いていかせる作戦が台無しだ!」
言い終わらない内に、オモダカが、
「ドラパルト!」
ドラパルト、姿を表しシクータにふいうち! 呆気なく気絶するシクータ。
ヨーコ、すかさずわっぷるさんを出す。わっぷるさん、素早くオモダカを救出しヨーコの元へ戻る。ドラパルトも一緒。ドラメシヤ、ドラパルトの中に入って一安心。ヨーコ、わっぷるさんとミミッキュとオモダカを支えながら、
「大丈夫ですか?」
「話は後、帝冠はどなたが?」
「うちが持っとります。あと、キラフロルさん達のボールも」
「キラフロル達と、帝冠を私に」
ヨーコ、オモダカにボールと冠を渡す。ボールからは安堵した気配。オモダカ、ひとりで立ち、ドラパルトを労りながら戻す。
代わりにキラフロルを出すオモダカ。
「キラフロル、パワージェムでこれを」
オモダカ、冠をほおり投げる。驚くヨーコ。しかしキラフロル冷静にパワージェムを放つ。が、パワージェムが当たる前に、いつの間にか復活したシクータが冠をキャッチ!
「は!?」
「な……」
すっとんきょうな声をあげてしまうヨーコ。オモダカも絶句。
「危ない危ない。せっかくの宝が壊されるところだった」
シクータ、冠を愛でる。
「なぜ……、なぜ……」
震えるオモダカ。そして珍しく声を荒げる。
「なぜ私を人質に取ってまで、ポケモンの技を受けかけてまでこの帝冠を欲するのです!? 皇帝の直系が存在しない今、この宝はただの、いえ、死をもたらす呪いの宝でしかないというのに!!」
「何を言っている?」
オモダカをねめつけるシクータ。
「直系はこの私だ」
言葉を失うオモダカとヨーコ。ここでネモ達も来る!
「ヨーコ! トップ!」
「おい、どうした! 何があったよ!?」
「って、あの冠……」
ボタンがシクータを指差すと同時に、語り出すシクータ。
「我が家はとうの昔に没落し他の金持ちの家に吸収されたからな。周りが勝手に思い込んでいたんだよ。途絶えたと。
だが、この私がまだいる。だから、皇帝の代わりに帝冠を守っていた家の生まれであるお前から奪いとった。あの時は失敗したからな」
「あの時って……」
ヨーコ、嫌な予感。オモダカ、独り言のように、
「まさか……」
「お前の両親だったなあ。数十年前の休暇の時期、パルデアから帰ってきて、この屋敷で強盗に遭って死んだ、ここの分家の若夫婦は」
丁寧に区切って言うシクータ。ヨーコ達、思わずオモダカを見る。オモダカは顔面蒼白。
「あいつらが持っているとふんで、雇った賊に襲わせたというのに、見つからなかったと聞いた時はどんなに失望したか……。その後嫌々ここを買い取って冠を探した日々の憂鬱は、お前には想像できまい。賊を始末するために、自らの手を汚さざるを得なかった苦しみもな。
──まあ、お前がアカデミーをやめて跡取りになったと聞いた時は、溜飲が下がったが」
「コイツ、何言ってやがる……」
怒りに震えるペパー。だから殿堂入り名簿に名前がなかったのか、とひとり納得してしまうヨーコ。
「パルデアでも、アカデミー理事長というつまらぬ職につきながら冠を探した。そんな時だったよ。お前がリーグ委員長になったと聞いたのは」
シクータ、オモダカを見る。
「まさか傍系のお前ごときが、直系の私を差し置いて事実上のパルデア皇帝になるとはな。今でも屈辱の極みだ」
シクータ続ける。
「歴史の教師も兼ねていた教頭から、冠はお前が持っていると教えられ、なんとしてでも冠を我が者にしようと決めた。だが、程なくしてあの俗物を初めとした教師共のみちづれになって、私も理事長をやめさせられた。
私の後釜にのうのうと座ったお前の活躍を耳にしながら、地下に潜って準備するのは、憤懣やる方なかった。しかし、ついにここまで来た! フーディンを使ってリーグの様々な警備を掻い潜り、お前を人質に帝冠を手にいれた! 至宝をあるべきところに戻したのだ!」
シクータ、堂々と冠を持ち上げる。
「この時のために、この光景をお前に見せるためだけに、ずっと、ずっと、殺さず生かしておいた!! パルデア皇帝・その末裔の、血の力を! パルデアの偽の王たるお前では、決して手に入れられぬ光と力を!!」
冠を被るシクータ。すると冠からまばゆい光が!
思わず目を覆うヨーコ達。シクータの周囲に現れる黒い結晶。そこから出てきたのは、グラードンとカイオーガ、ホウオウとルギアだった。
「うっわ、どれもこれも伝説ポケモン!!」
図鑑確認して悲鳴を上げるボタン。ペパーは唖然。
「レホールせんせの話本当だったのか……」
「みんな意外と小さいんだね!?」
ネモ、変なところにびっくり。
「それよりも、何じゃろ……」
呟くヨーコ。隣でうなずくように呻くわっぷるさん。
グラードン達は黒い結晶の欠片を纏っていた。
「嫌な感じしかせん、この気配は……」
と、シクータ大仰に腕を振りかざし、
「さあ、ひれ伏せ!」
同時に、グラードン達が一斉攻撃!
と、ミミッキュしきりに鳴く。
「全員、一旦撤退!!」
オモダカの号令と共にキラフロル、わっぷるさんボールに戻され、ミミッキュに続いて間一髪で抜け道に入り込む!
直後爆風で転がるも、全員無事。
オモダカの点呼に、みんなあちこち痛いところをさすりながら答えるも、グラードンの地響きに思わず身震いしてしまう。
「とにかく外へ!」
オモダカの言葉に、ヨーコ、ミライドンを出してみんなを乗せ爆走!
*
ミライドンの頭に乗ったミミッキュの先導で外に出た瞬間、崩れる抜け道。
ひとまず胸を撫で下ろすみんな。
「ホウオウとルギア、あんなんじゃない、ってネットでは書かれてるけど……」
さっそく検索をかけているボタン。
オモダカ、息を切らしながら、
「おそらくあれは洗脳状態。並みのポケモンは無論のこと、言い伝えにあるポケモンですら、結晶の力で召喚し嫌が応にも従わせる。故に遵奉の冠。ある意味、マスターボールと同じです」
「理事長せんせ、今、結晶って言ったか?」
ペパー指摘。うなずくオモダカ。
「ええ。帝冠に使われている結晶は、エリアゼロのものなのです」
息を飲むヨーコ達。
「おそらく大探索時代に採取し、皇帝の権威を示すために作らせたものでしょう」
「うっわ、成金って感じでタチ悪……」
若干ひいてるボタン。
「私もそう思います。そしてそのためにポケモンを使うなど、もっての他」
拳を握りしめるオモダカ。微かに震えている。
と、背後で破壊音が響く。好き放題暴れているらしい。
唇を噛みしめ、ヨーコ達をまっすぐ見るオモダカ。
「私は、彼の元に行きます」
気丈に微笑みかけ、
「この屋敷は、元々この地を治めていたポケモン使いの家ですから、見た目よりも頑丈に作られています。しかし彼を止めなくては、いずれ街にも被害が及ぶ」
ヨーコ、一瞬で悟り、顔が強張る。
「ですので、皆さんは、市長さんに連絡してポケモンセンターに行ってください。手持ちを回復させなくては、私が倒れた時、代わりに戦えませんよ」
「そんな、トップ」
息を飲むネモ。ヨーコも、
「いくらトップでも無茶です、ひとりじゃ」
「これは、私が招いたことです」
頑ななオモダカ。
「過去に蓋をし、己が抱えた呪いに向き合わぬまま、前へと進んでしまった。今回のことは、その罰です」
「罰? どこがですか」
思わず鋭い口調になってしまうヨーコ。
「当たり前のことでしょう。お父さんお母さん奪われて、家のためにアカデミーやめざるを得んで……、悲しゅうてやりきれんのに、まともに向き合え言う方がおかしいわ」
「ヨーコの言うとおりだぜ。理事長せんせ、ひとりで抱え込もうとしてたんだろうけどよ、そもそもの話、悪いの全部アイツじゃねえか」
「そうそう。それに、無理にひとりで戦って負けたら、それこそあいつの思うツボだし」
ペパーとボタンも同意する。
「わたし、トップに行ってほしくないから、一緒に戦います! 冠の話聞いたときから、伝説ポケモンと戦ってみたかったんだー」
「いや、そこは自重しろし……」
「逆に安心ちゃんだぜ……」
ため息ペパー&ボタン。ヨーコ苦笑いしながら、
「うちもあん人にゃ腸煮えくり返っとるし、何より……」
ポピーの顔を思い出しながら、
「友達と約束したんじゃ。必ずオモダカさんを助けて帰るけえ、って」
オモダカ、察して目線と気配が柔らかくなる。
ヨーコ、不敵なあの笑みを浮かべる。
「じゃけえ、トップをひとりで戦わせるわけにはいきません」
うなずくみんな。
オモダカ、熱いものが込み上げてくるが、何とかこらえ、一息ついて、
「──ありがとう」
*
中庭にて好き放題暴れているシクータ。
「遺物のくせに頑丈な!」
「そこまでです!」
声と共に、別の入り口からオモダカ&ヨーコ&ネモ、堂々と入場!
一方、ペパーとボタンはミライドンでクスノキシティへ爆走中。ボタン、揺れに耐えながら哲に電話。
場面戻って、シクータ、チャンプチームを寝めつける。
「1対3か? さすが、傍系は考えることが卑しいな」
「おや? 伝説のポケモンを従わせられる直系の方なら、普通のポケモンで戦う私達など一捻りでは?」
煽るオモダカ。歯軋りするシクータ。
「来い、吠え面かかせて減らず口切り裂いてやる!」
「パルデアチャンピオンの圧ッ! 越えられるものなら、越えて御覧なさい!!」
オモダカ、ボールを構え叫ぶ! ヨーコ&ネモも構える!
かくして戦いの火蓋は切って落とされた。