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雲の出る地に行った話 其の三-一

 何かから逃れるように出雲の地へ行った。最初にそう記したが、なんだかんだで結局のところ、推しに会いたかった。出雲に行った理由はそれに尽きると思う。
 これも何度も書いてしまうが、私の推し神はスセリビメ。オオクニヌシの正妻たる女神である。何で好きかといえば、まぁぼおるぺん古事記のスセリビメが可愛かったからに他ならない。今まで怖いとしか思っていなかったのが、あれで覆された。確かに怖いけれど、一途で寂しがりで表情豊か。そう思えるようになってからは、彼女が好きになったのだった。

 さて3日目。台風後の快晴。
 早々に朝食をすませ、朝早くからスセリビメの生誕地へと向かう。
 出雲駅から10分ほど。JRの山陰本線を通る単線にごとごと揺られて出雲神西駅に到着。Googleマップを参考にひたすら山の方向へ歩く。暑くて蝉がうるさく鳴いていた。道路のマンホールはヤマタノオロチ。まさに出雲。
 山近くの出雲ロマン街道を進んでいくと、近くの畑で働いているらしいおじさんからどこへ行くのかと声をかけてもらった。目的地を言うと遠いと驚かれると同時に道を教えてくれた。
 その順に従いまたひたすら歩く。水音が聞こえてきて胸が高鳴る。
 岩坪明神。スセリビメが生まれた時にここの水を産湯を使ったと言われる場所。推しの生誕の地のひとつだ。
 推しの小さいころをあれやこれや妄想して楽しむのはオタクの癖とも言ってもいいが、しかし時にはそのための材料がいる。ゆえにここは貴重な場所だ。何せスセリビメが生まれたのはどんな日だったのかとか、スサノオは大泣きだっただろうなとか、まあ妄想がはかどるはかどる。
 しかしここは出雲市の天然記念物であると同時に神聖な場所だ。妄想はひとまず後回し。すぐ近くの小さなお宮に手を合わせた。

 台風の後だから、勢いよく水が流れていた。


 鎮座する小さなお宮。推しの生誕を記念し祈った

 さて、そこから那賣佐神社へは少し歩いた道の先にある。
 足を進めると、石造りの鳥居と灯籠が建てられていた。その先には長い石段。お社への入口だ。
 周囲の緑を感じる余裕があったかどうかは覚えていないがとにかく石段を歩く。

那賣佐(なめさ)神社への入口。
ご覧の通り長い石段。
オオクニヌシも上ったのだろうか?


 そして上りきった先にあったのは、日の光に照らされたお社だった。
 那賣佐神社。スセリビメ生誕の地のひとつにして、彼女の実家と言われるお社。

拝殿。人気はないが大切にされている感じでいっぱい

 台風か過ぎ去った直後でも人が来ていた出雲大社と違い、この場所にいる人間は私しかいなかった。
 だが恐ろしさは全く感じない。むしろ頭を撫でてもらっているような温もりを感じた。
 天気のお陰だと言ってしまえばそれまで。けれど確かに私は清くて温かい感覚を覚えた。
 私はお社にご挨拶した。ようやく来れました。ここに来て良かった。声に出さなくてもしっかり報告する。
 それから周囲を少し歩いてみる。名前は知らないが、桃色の小さな花を咲かせている木があった。この社にぴったりだ。

 花が咲いている。いつから社と共にあるのか。


スセリビメもたまにここに帰ってきては、
掃除とか手入れとかしているのかもしれない。

 1日中ずっといたい心持ちにもなったが、これから出雲大社及び稲佐の浜にも行かなくてはならない。
「これからまた出雲大社にお邪魔します」
 今度は小声で挨拶してお暇する。元来た道を戻り出雲神西駅が見えてきた時、近くの水辺に蒲の穂が生えているのが見えた。

因幡の白兎でお馴染み、蒲の穂。


 今でもここは、半分神話の世界だ。そう思った。

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