season4 5話 ポケモン×この世界の片隅にクロスオーバー(ポケモンAYG)
5.『楽園を夢見た男』
薄暗い通路を進むヨーコ達。
「ふたりとも、気いつけてね」
「ピカ」「アギャ」
と、明かりが見える。ラボの研究室だ。
様々なサンプルや顕微鏡が置かれた机、よくわからない計算や文書が綴られたいくつものホワイトボード、岩のような不思議な塊が入った機械を眺めながら歩くヨーコ達。
と、
「ゼロラボ内に人体反応を感知」
博士の声が聞こえ、肩がびくりとなるヨーコ達。
仮眠用ベッドとついたて代わりのホワイトボードの向こう側、誰かがうなだれて座っている。フトゥーだ。
「……博士?」
ヨーコ達近づく。一定の距離まで来たところで、
「スリープモードを解除します」
一瞬目が光り、かくっとした動きをしたかと思うと、すぐに立ち上がりヨーコに近づく。
「ハロー、ヨーコ。よくぞ来てくれた」
さっきの動きに戸惑っていると、
「グオオオン!!」
別のところから片割れが現れた。
「戻りさなさい」
マスターボールに戻すフトゥー。
「キミがつれている個体より凶暴でね。キミのミライドンがエリアゼロから逃げ出したのは、縄張り争いに負けたからなのだ」
「アギャ、ギャス……」
しょんぼりなミライドン。頭をなでるぴっかりさん。
「キミたちに謝罪しなければいけないことがある。ボクは本物のフトゥー博士ではない」
「……どういうことなんです? ほんなら、あなたはいったい……」
「ボクは博士が、自身の知識と記憶を元に作った人工知能。……AIで動くロボットなのだ」
フトゥーの目が点滅する。
「第4観測ユニットでの事故で、本物の博士はいなくなってしまった」
愕然とするヨーコ。
「……事故?」
「ポケモンに罪はない。オリジナルの博士はその力を見誤ったのだ。身をていして守ったミライドンが元気であれば、博士も本望だろう。
クラベル校長に頼んで、キミと初めて話した時は、すでにボク……、フトゥーAIだったよ」
声が出ないヨーコ。
「……ヨーコ、キミにはエリアゼロでの研究、最後の手伝いを頼みたくてここまで来てもらった」
黙って聞くヨーコ。横を向くフトゥーAI。
「その内容とは……、オリジナルの博士が作ったタイムマシンを止めること」
「タイムマシンを!? なしてです!?」
「質問はエレベーターで聞こう。……ついて来てくれ」
うなずき、ぴっかりさんとミライドンをボールに戻す。ふと研究資料が散らばった机を見るとレポートが。
『ゼロラボ防衛のため、ボールロックシステムを開発。特定のID以外のモンスターボールを……』
しかし続きは文字がかすれていて読めない。嫌な予感がしつつもふと顔をあげると、少年とオラチフが仲良く写っている写真がボードに貼られている。幼い頃のペパーとマフィティフだ。空の写真立てを思い出して唇を噛み締めるヨーコ。ここにあったのか、と。
そしてフトゥーAIの元へ行くヨーコ。
「ここから降りる。入りたまえ」
こくりとうなずき、一緒に入る。
エレベーターが降下を始める。
*
「ヨーコ、本当によく来てくれた。なんでも質問に答えよう。聞きたいことはあるかな?」
問いかけるフトゥー。ヨーコ、素直に、
「ほいじゃあ、お言葉に甘えて……。──AIって、なんですか?」
「AIとは、人工的に作られた知能のこと。ボクの考えや行動はすべて、オリジナルの博士の知識・思い出をベースにコンピューターが計算している。その演算が、博士ソックリに作られたこの機械の体を動かしているのだ。
これほど高度なAI技術は今の科学技術では実現不可能だが、ゼロラボに搭載された結晶体がそれを実現可能にしている。だからボクは、この施設から出ることができないのだ。
ほかに聞きたいことはあるかな?」
「──じゃあ、本物の博士は……」
「先ほども説明したが、すでにオリジナルの博士は存在しない。ユニットでの事故で肉体が損傷し、生命活動を維持できなくなったのだ。彼の息子、ペパーにとっては、受け入れがたい事実だろうな」
声が出ないヨーコ。
「現在はオリジナルに代わって、このボク、フトゥーAIが管理者としてゼロラボを維持している」
「──改めて聞きますけど、タイムマシンって、なんです?」
「オリジナルの博士とボクがふたりで開発した装置だ。モンスターボールを転送し、異なる時間軸のポケモンを捕まえて現代へと呼び出すことができる。
フトゥー博士は生前、別の時代のポケモン……、とりわけ未来のポケモンに熱心だった。今このときも自動的に、未来からポケモンを呼び出し続けているよ」
ヨーコ、生唾を飲み込み、
「……あなたの目的は、いったい何なんです?
なしてタイムマシン止めるなんてことを?」
「……オリジナルの博士は、未来のポケモンも今のポケモンがなかよく生きる世界を夢見ていた。
だが、はるか未来の進化の果て、未知なる力は、あまりにも強大すぎる……。彼らの生命力は、現代の生態系を壊してしまうのだ。オリジナルは、それも自然のひとつの形だと言っていたがね」
「……」
途方もない話に息をのむヨーコ。
「今はエリアゼロにはりめぐらせているバリアで、未来のポケモンがパルデアに出ていかないよう制御しているが……、テツノワダチのように、バリアを突破するポケモンも現れた。
彼らはいずれ、エリアゼロという箱庭を飛び出し、パルデア地方にはびこるだろう。そうなれば、パルデアの豊かな生態系は破壊されてしまう」
首を振るフトゥーAI。
「博士のコピーとして生み出されたボクだが、そのような惨劇が起きることを合理的とは思わない」
フトゥーAI、ヨーコを見て、
「……それを食い止めるためには、博士が用意した最強のAIを倒す必要があるのだ」
「最強のって、まさか……」
「ヨーコ、その力でボクの……、博士の夢を破壊してくれ」
機械とは思えぬ真剣な眼差しに、ヨーコ少し黙り、ため息をついて、
「……はい」
「……感謝する」
頭を下げるAI。エレベーター止まる。
「最下層についた」
扉が開き、一緒に出るふたり。
その先は、壁一面鏡のようにキラキラ光り輝く部屋だった。天井部と床には巨大なマシンのようなものが。
「すごい……」
圧倒されるヨーコ。
「見よ、これが……」
フトゥーAI、中心部に立つ。中心部の機械動く。ここだけ結晶で光っている。
「テラスタルの力を使い、作り上げたタイムマシンだ」
*
マシンに近づくヨーコ。なにかを置く台座がある。
「これは……」
「タイムマシンを止めるには、博士のIDが搭載されたバイオレットブックが必要だ。子供の頃から大好きなその本に最後のキーを入れるとは、博士らしい」
フトゥー、台座を振り返り、
「バイオレットブックを台座に置けば、タイムマシンを止めることができる」
ヨーコに向き直り、顎に手を当て、
「だが、1つだけ問題があってね」
「問題?」
「マシンを止めようとすると、ボクはキミに襲いかかるだろう」
「え」
ヨーコ呆然。
「AIであるボクの意思は、プログラムに乗っ取られてしまうんだ」
「そんな……」
「そうなるとボクは、邪魔者をただ倒すだけの戦闘ロボットに成り下がる。パルデア地方チャンピオンたちの戦闘を分析し、作り上げた無敵のAIだ」
フトゥーAI、ぎこちなくも笑いかけ、
「キミとキミのポケモンの絆なら、勝利できると信じているよ。覚悟を決めたら、バイオレットブックを台座へ置いてくれ」
コクリとうなずき、技を見たりポンさんのお面を見たりするヨーコ。
「勝とう、絶対」
ボールに手を触れ語りかける。うなずくように震えるボール。
深呼吸し、バイオレットブックを取り出しセットする。
『フトゥーオリジナルID、アクセスを確認。タイムマシンを非常停止します』
周りを見つつ後退りするヨーコ。部屋全体がキラキラしてくる。
『準備中……。準備中……』
壁が金色に輝いていく。
『アクセス、ブロック。非常停止は中断され、タイムマシンが再起動しました』
「……頼む、ヨーコ」
フトゥーAI、マシンの前に立ち、そのまましゃがみこむ。
『フトゥーAIをスリープモードへ移行。戦闘プログラムを起動します』
せり上がるマシン。
「どうかボクを、倒してくれ」
部屋の色が戻ったかと思うと、マシン上部が光り、シャッターが開く。その光の中からマスターボールが。
「そして、ボクの夢ヲ……、……阻ム者ニハ」
ボール、しばらく動いていたかと思うと、光って停止。顔を上げたフトゥーAIの目も爛々と光っている。
「ゴ退室イタダコウ!」
不気味な笑みを浮かべ、ヨーコを見下ろすフトゥーAI。もはや理性を持った瞳ではない。身構えるヨーコ。
ボールを落とすAI。中から1体目のポケモン、テツノドクガが!
「なんじゃこりゃ! ウルガモスさんの子孫かね!」
「何者カハ知ラナイガ、邪魔者ハ排除サセテモラウ」
「……確かに戦闘マシンになっとりんさる」
ヨーコ、苦虫を噛み潰したような顔。
「わっぷるさん、あんたに決めた!」
わっぷるさん登場!
テツノドクガ、さっそくほうでん!
「わっぷるさん!」
効果抜群だが、倒れずうなずくわっぷるさん。
「コレコソガ未来ノ力。素晴ラシイダロウ?」
煽るAI。
「データハソロッテイルノダヨ。人間ノ頭脳デ抗エルカナ?」
「機械にゃ負けんわ! わっぷるさんアクアステップ!」
エアスラッシュをアクアステップですべてかき消し急所あてワンパン!
「まげ(見事)じゃ!」
「……! 問題発生! クリティカル率、再計算……」
AI、頭を抱えながらも、
「興味深イ……、未来ノポケモン、ソノ弱点ヲ理解シテイルノカ?」
「いや、今のはわっぷるさんの実力」
ばっさりなヨーコ。
2体目、テツノツツミ。
「何度も戦ったわ! ぴっかりさん!」
ぴっかりさん登場! テツノツツミ、ゆきげしき発動!
「こおりの力を高めるつもりかね……。ぴっかりさん、かみなりパンチ!」
かみなりパンチ! しかし倒れない!
しかしテツノツツミ、ゆきげしきを繰り返すばかり。しかしフリーズドライをぶっ放してきたので、あなをほるでかわし、攻撃かつ距離を取ってエレキボールで畳み掛け倒す!
3体目、テツノイバラ。こちらはポンさん登場。碧の仮面。ツタこんぼうで接近しようとするがじしんで足元揺らされ少しダメージ。しかしバランス取って振り下ろす。効果抜群。が、テツノイバラ倒れずストーンエッジ。その勢いてツタこんぼう! とどめ。
4体目、テツノコウベ。
「学習済みじゃ! ぴっかりさん!」
またまたぴっかりさん。ラスターカノンをエレキボールでかき消し、かえんほうしゃをかわしてかみなりパンチを急所に当てワンパン!
5体目、テツノカイナ。
「かくとうタイプなのはわかっとる! ヒナじろう!」
ヒナじろう登場! さっそくルミナコリジョン! テツノカイナかみなりパンチ。
「勢いのって! マジカルシャイン!」
テツノカイナ倒れる。
「想定内ノ進行状況。アイニク、キミノ勝算ハゼロダ」
6体目、テツノブジン。
テツノブジン、ブーストエナジーでクォークチャージを発動。攻撃力が上がる。
「エネルギーノ詰マッタブーストエナジーヲ持タセ、最モ高イ能力ヲ底上ゲシタ」
「……確かにヤバいかも。でも!」
まんじゅう登場! さっそくサイコカッターくらう! 効果抜群! こちらもどくづきでお返し! 効果抜群! しかしサイコカッターを急所に当てられ倒れるまんじゅう。
「まんじゅう!」
「計算通リノクリティカルダ、モウアキラメタマエ」
「──諦めんから勝負は面白いんじゃ! ヒナじろう!」
ヒナじろう再び! しかしソウルクラッシュくらって大ピンチ。
「一か八か、ルミナコリジョン!」
ルミナコリジョンくらわす! 効果抜群! 倒れるテツノブジン。
「バ、バカナアアアア!!」
膝をつくAI。同時にマシン機能停止。
「お疲れ様」
ヨーコ、ヒナじろうを戻す。
部屋全体が暗くなり、マシンが下がっていく。
正常に戻ったらしいことをヨーコが確認すると、
「ヨーコ!」
ペパーの声がして、みんなが駆けつけて来てくれた。
「みんな!」
「何なん、これ……!」
驚愕するボタン。ネモ少し残念そうに、
「一番強いの、倒しちゃった!?」
説明する間もなく、フトゥーAIに詰め寄るペパー。
「オマエ……、誰なんだよ!?」