season5 17話 ポケモン×この世界の片隅にクロスオーバー(ポケモンAYG)
17.『ボタンの心配事』
翌朝、学校に戻ると、エントランスでボタンがこそこそしている。
「ボタンさん?」
「わっ、わっ、ヨーコ!」
ヨーコが声をかけると、びっくりしてのけぞるボタン。
「そんなに驚いて、どし……」
慌てて小声で遮るボタン。
「シィーッ! ちょっと隠れて!」
ボタンについて壁の陰へ。
「ふぃー、あぶなかった……」
「何しとりんさったん?」
「えと……、あの……、その……」
ボタン、少し戸惑った後、
「──白状するしかないか……」
「?」
首をかしげるヨーコ。
「あれ、見て」
ボタンの目線の先にはピーニャとオルティガ。
「ありゃ、ピーニャさんとオルティガさん」
「というわけ……、ね?」
ヨーコ、しばらく首をひねるが、やっぱりわからず、
「……どういうわけなんかね?」
「あ、ごめん、ちょっとビックリしてテンパってる」
ボタン、すぐに詫びて、
「さ、最近ね、団のみんな、学校来るようになったんだけど……、ちゃんと馴染めてるかなって、心配で見てた……」
「なるほど」
と、ピーニャがオルティガに、
「……やっぱまだボクら、アウェーって感じ?」
「そりゃそうだろ」
オルティガうなずく。
「先生たちへの誤解は解けたとはいえ、ハイそうですか、ってみんなわかってくれるわけないだろ」
「だよねえ。やっぱりここは……、路線変更するしかないかもね」
ヨーコ、ボタンと首をかしげあう。
「路線変更……?」
「制服改造しちゃってるし、普通の服着るんかな……?」
ボタン、少し表情が柔らかくなり、
「ピーちゃん……、オルくん……、学校に馴染もうとがんばってる……」
「うん」
一方オルティガもヨーコと同じこと思ったらしく、
「路線変更って、何すんの?」
「え? うーんとね……」
ピーニャ少し考え、
「大きな声でみんなに挨拶してみる? とか?」
オルティガびっくりして持っていた杖を落とす。
「はぁ!? 何それ! 絶対イヤなんだけど!」
慌てて杖を拾うオルティガ。
「……あれ? なんか違くない?」
「あっとると言えばあっとるけどね……」
(汗)なふたり。
「いや聞いて、オルティガ。実際ライムのライヴでもそうなのよ」
笑いながら説明するピーニャ。
「盛り下がってる会場だと、ライムはまず大声でシャウト……、挨拶して場をほぐしてるんだよ」
「それライヴだからだろ。ここ学校なんだけど」
「じゃあオルティガは、このまま何もせずアウェーでOKなの?」
「そ、それはイヤだけど……」
それでも難色を示すオルティガ。
「でしょ? だったらもう声出すしかなくない? ほら、やるよ……」
ということで、ピーニャ挨拶!
「みなさーん!! おはようございまーす!!」
「ちょっとオイ! ピーニャ! 恥ずかしい!」
慌てるオルティガ。
「こんにちはー!! さあ、オルティガも!」
ピーニャ気にせず笑顔で促す。
「オマエさ! 声出したいだけじゃない!?」
ピーニャツッコミも気にせず、
「こんばんはー!! ……ほら、はやく!」
「こ……、こんばんはー!」
半ばやけくそに言うオルティガ。すぐにツッコミを入れる。
「ってかさ、まだ朝だろ今何時なんだよ!?」
「えぇー、何これぇ……」
「ありゃあ……」
突然始まった謎コントに(汗)なふたり。
と、周りから、
「あれって、スター団? なんで挨拶してんの……?」
「なんか、コントみたいでおもしろい」
「意外と怖い人たちじゃないのかな……?」
「……!」
ボタンびっくりして、
「な、なんか印象がよくなってる……? え、なんで??」
「そりゃあ、あれだけ元気に挨拶して漫才みたあなことしとったらね。みんな笑うてくれるよ」
「はぁー……、ピーちゃんもオルくんも、なんかすご……」
ヨーコに振り向き、
「全然心配いらなかったね」
ほっとするボタン。満面の笑顔。
「うん」
「それじゃ、お疲れ様でスター」
「お疲れ様でスター」
*
部屋に戻って朝ごはん用のパンを切らしていたのに気付き購買部へ。
そこで買おうとすると、またもやボタンがいた。
「ボタンさん」
「ヒソヒソ……(あ、ヨーコ)」
レジに目を向ける。シュウメイがいた。彼を見守っているらしい。
「ヒソヒソ……(シュウメイの様子、見てる)。
ヒソヒソ……(小声で話して)」
「ヒソヒソ……(わかった)」
ヨーコヒソヒソ声で答える。
「ヒソヒ……(感謝)」
一方のシュウメイ、レジにて何やら唸っている。
「ムムムムム……、我が学び舎の購買部、なかなか良き品揃え……。正直あなどっていたでござるな」
「……なんか、感動してる」
ボタン、普通の声に戻って、
「バレなさそうだし、フツーに話そ」
「うん」
「ある意味、団メンバーで一番心配なの、シュウメイかも……」
と、シュウメイ、店員さんに、
「……して、店員殿。本日発売5着限定コスプレセットを購入したいのでござるが……」
「えーと、忍者コスプレセットは……」
店員さん、在庫をパソコンで見て、眉をひそめる。
「……すみません、先ほど2着買われたお客さんで、売り切れとなってしまいました」
ガビーン!! なシュウメイ。思わずのけぞる。
「なんと……!」
呆然とするシュウメイ。
「あれを購入できなければ、我は……、我は……!!」
頭を振り、
「ええい、先ほどのお客とやらを探し!!」
頭巾を取り去る。
「この眼力にて土下座でお願いしてくれる!」
「わっ、わっ! シュウメイって意外とサワヤカ!」
「うん、美男子さんじゃねえ!」
「い、いや、そんなことより土下座なんて悪目立ちだし……、これ、止めたほうがいいよね?」
ボタン慌てるが、ヨーコはヒロノブが来たことに気付き、
「いや、様子見よう」
「え、でも……」
と、ベストタイミングで、
「あ、シュウメイ殿ー。こんなとこにいた!」
振り向き嬉しげに叫ぶシュウメイ。
「我が同胞!!」
しかし申し訳なさそうに、
「す、すまぬ同胞よ……」
詫びの印を片手で結ぶ。
「我は……、同胞との約束であった忍者コスプレごっこの衣装を……」
「あ、それぼく2着買ってるよー」
あっさり答えるヒロノブ。
「……へ?」
思わず間抜けな声を出してしまうシュウメイ。
「さっき購買部覗いたらちょうど入荷してて、ぼくとシュウメイ殿のぶん、買っといたよ。大人気だから、買えてよかった!」
ヒロノブにっこり笑い、
「さっそく外で忍者ごっこしようよー!」
「……なんと、そうであったか!」
シュウメイ顔がほころぶ。
「では我は部屋から私物の手裏剣をとってくるゆえ、投げて遊ぶでござる」
「わあい! やったー!」
「我の裁縫スキルで、コスを毒々しい見た目にアレンジもできるでござるよ!」
「うーん、それはいらないかなぁ」
「ハハハ……、こやつめ……」
ヒロノブと共に遊びに出かけるシュウメイ。
ボタンひと安心。
「ホッ……、なんとか騒ぎにならずにすんだ」
すぐににっこり笑い、
「ってかシュウメイ、友達できてるし」
「うん。ヒロノブさんって言うん。勝負したことあるけど、シュウメイさんをすごく慕っとるんよ」
ボタン、少しうつむき、
「そっか……。心配で盗み見してた自分が恥ずかしい……」
「ボタンさん……」
しかしボタンすぐに笑顔になり、
*
「それじゃ、お疲れ様でスター」
「うん、お疲れ様でスター」
パンを買って部屋に戻りごそごそしまっているとノックが。
開けてみると美術部の子。絵を見てほしいと頼まれ美術室へ。絵を見て出ようとすると隅っこでボタンがこそこそしている。
「ありゃ、ボタンさん。また会うたね」
「や、やほ、ヨーコ」
ホッとした笑みのヨーコ。
「美術室、初めて入った。絵の具の匂い……、なんかいいな」
「ほうじゃろ? でもなしてここに?」
「……あ、そうなんよ。う、噂でスター団が美術室にカチコむとか聞いて、ちょっと不安になって来た……」
「ホント?」
「うーん、まだ怖がってる人いるし、ただのデタラメだと思うけど……。いや、そんなこと絶対ありえんし」
「ほうよねえ……」
「ってかなんで美術室にカチコみ?」
「うーん……」
話していると、
「邪魔するぜ」
メロコがビワと共にやってきた。
「メロコさんにビワさん?」
「えっ、本当に来たし!?」
ビワ、ムクホークの彫刻に感動。
「わー、ムクホーク! インファイトしてるのかな?」
メロコ、集まってきた美術部員に、
「テメー……、美術部の部員か?」
「は、はい……、そうですけど……」
戸惑いながらも答える男子部員。
メロコ、少し黙る。うろたえるボタン。
「ま、まさか、カチこみの噂は本当!? い、いやそんなわけないよね。とりあえず様子見……」
静観しているヨーコ。
「えーっと、何かご用ですか?」
「あの……、なんだ……、ぶ……、ぶ……」
「ぶ……?」
叫ぶメロコ。
「ぶっ壊す!!」
「はい!?」
「えー!? やっぱカチこみ!?」
驚愕のヨーコ&ボタン。と、ビワがたしなめる。
「違うでしょ、メロちゃん!!」
「っ……」
「照れるのはいいけど、ごまかしかたが雑だよ!」
「わ、悪い、ビワ姉……」
メロコ気まずそうに謝罪し、部員たちに振り向く。
「あのよ……、ぶ……、部員になりてえんだ、オレ……、美術部の……」
安心する男子部員。
「あ、部員! 入部希望ですかね。いやー、ビックリしました! ええーと、入部は全然大丈夫なのですが……」
「やったね! メロちゃん!」
嬉しげなビワとは反対に冷静なメロコ。
「いや待てビワ姉。こいつ、なのですがっつったぞ。交換条件があんのか?」
「あ、いえ、入部したいと思った理由を聞きたいなと……」
「理由か……」
メロコ、少し考え込み、
「この服もブーツも、ダチが作ったんだけど……」
にっこり笑って、
「オレ、こういう火がメラメラしてるデザインが好きで……、自分でも作ってみてえなって」
真剣に訴える。
「……だから! 絵! 描いてみてえんだよ。今まで全然経験ないけど……、壁のヤヤコマの絵見たら、上手くなくても味がありゃあいいんじゃねえか、って思ってよ」
と、男子部員、少し恥ずかしそうに、
「ヤヤコマ……。あれ……、ぼくの作品……」
「テメーの!? 5歳くらいの子供の絵じゃねえのか!?」
驚愕するメロコ。苦笑い男子部員。
「アハハ、よく言われます」
他の部員が明るく、
「部長の絵は、純粋さが売りなんだよー」
「えっ、しかも部長なのかよ」
またまた驚くメロコ。男子部員またまた苦笑い。と、部員たちがメロコを囲み、
「ねえ、きみ名前は!? これからよろしくね!」
「そのブーツカッコいいね! もっとよく見せて!」
メロコ、戸惑いながらも微笑み、
「な、名前はメロコ……。えっと……、ブーツいいだろ? オタクのダチが作ったんだ」
その様子に安堵するヨーコのボタン。
「大人気になりんさった」
「カ、カチコみ勘違いだった。……いや、よかったけど、メロちゃんが美術部員かー」
と、
「メロちゃんが作る絵、はやく見たいねー」
「「うん……」」
「ってビワ姉!」「ビワさん!」
いつの間にかビワが来てる。驚愕するふたり。
「いつん間に!?」
「見てたのバレてた!?」
「隠れてるつもりだったの!? ボタンちゃんたち堂々といるから、おかしいとは思ってたんだ……。でもメロちゃんは緊張で気付いてないよ」
「え? メロちゃんでも緊張するん??」
「あれ、緊張しとったんじゃね……」
ボタンとヨーコぱちくり。
「誰だって新しいことは怖いよ。……だから、私付き添い! でももう一人で大丈夫みたい」
ビワも笑って、
「そうだ! わたしも、タナカちゃんとプロレスサークル作ったんだ。メロちゃんに負けないくらい、学校生活楽しむよ!」
「プロレス!? かっこええ!」
「ふふ、ありがとう。よかったら、ヨーコちゃんも見に来てね。それじゃ、お疲れ様でスター!」
「お疲れ様でスター」
挨拶するヨーコだが、ボタン、黙ってから、
「──メロちゃんもビワ姉も頑張ってる。
うちも……、お疲れ様でスター」
何かを決めたように去っていくのを見守るが、気になってついていくヨーコ。行き先は1-D。
後ろで佇んでいるところに声をかける。
「失礼しまーす」
「あ、ヨーコー」
ボタン笑顔で迎える。
「ここ、うちの教室。理科系クラスなんよ。えっと……、留年とかしてたから、まだヨーコと同じ1年生……」
「ほうじゃったね」
「……ちょっと、話したいことあるかも。ここじゃ何だし、うるさくないとこ行こ」
「うん」
*
やって来たのはボタンの部屋。
「ど、どぞ。これ、うちの部屋……」
段ボールいっぱいの、片付けしてない雑然とした暗い部屋。しかしブイズはくつろいでいる。
「な、なんかちょっと、落ち着かんね……」
「え、嘘……。通販の段ボール、こまめに捨てなきゃかな……?」
うんうん、とヨーコはうなずいて、
「あ、話したいことって?」
「ああ、えと、うちとスター団のこと……」
「ピーニャさん達?」
「うち、スター団のみんな、大好きで大事で不安なん。学校でちゃんとできてるかとか……。だから最近、学校でみんなのこと見てたんよ……」
黙ってうなずくヨーコ。ボタン、笑いながらも、
「けど、みんな心配しなくても楽しくやってるみたいだし……、友達のこと信じてあげられん自分が逆に恥ずかしくて……。スターダスト大作戦勝手にやった時と、うちだけ何も変わっとらん……」
目を伏せるボタンに、ヨーコ、
「心配するんは当たり前って、うち思うけど。みんなずっと辛い目に遭うとったんじゃし」
「そ、そうなん!? 友達って、そういうもん?」
「ほうよ」
「……ありがと。ヨーコと話せてよかった。
えっと、ヨーコも……、うちの大事な友達だから……。……あと、ネモとか? ついでにペパーとミライドンも」
ぴっかりさんが出てくる。忘れんじゃないわよ! という感じに鳴く。
「ピーカ!」
「あ、ぴっかりさん達もか。部屋に人あげるのあんま好きじゃないけど……、ヨーコは特別。いつでも遊びに来ていいよ」
「うん、ありがとう!」
「じゃ、お疲れ様でスター」
「お疲れ様でスター」
ブイズたちと遊んで帰るヨーコ。こっちも一安心とぴっかりさんと笑いあう。