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主治医からフランス料理に誘われた私の意思決定を分析するあなた(『医療現場の行動経済学』)✳︎

はじめに
私はフランス料理のフルコースを経験したことがありません。そんなこと知ったことではありませんよね。すみません。

主治医から食事に誘われました。その際、フランス料理とは何か、フルコースの内容、食事する・しない各メリット・デメリットの説明を受けました。さて、私はどうすれば良いでしょうか。

価値観と意思決定

主治医が素敵だから行く、はダメです。主治医は誘ってくれただけで、一緒に食事できるとは限りません。食事中は、人が入れ替わり立ち替わりすることが予想されます。また、食事代も自己負担です。主治医はご馳走してくれませんからね!

迷う私。コースには、必ず食中毒となる生牡蠣も含まれている。予約は平日13時のため、仕事を休まないといけないなんて。食事代も9万。そもそも少食ですぐお腹いっぱいになるタイプ。お酒を飲んだら食べられない、食べたら飲めないタイプ。どう考えても、最初の数皿食べた時点でお腹いっぱい。生牡蠣の食中毒は酷い嘔吐下痢と噂で聞いた…あまりに辛すぎる。無理だー!

誘いを断る私

さほど迷わない私。初のフランス料理フルコースを経験できる絶好の機会。これを逃すともう経験できないかもしれない。昔から信頼できる人に誘われたら、必ず食事に行ってきた私。食通の主治医が私のために選んだお店なんだから、仕事を休んでも行くべきだ。主治医は私の好みも知っている。生牡蠣の食中毒にもきちんと対応してくれると言ってくれている。心強い。行きまーす!

誘いを受ける私
グラスに詰めた海の幸と
宜野座産ジャガイモのロワイヤル


分析

主治医からの誘いを受けるべきか断るべきか。価値観がよく現れているのは、おそらく後者の「誘いを受ける私」だと私自身は考えていますが…。
「私」の価値観と意思決定をどう分析してくださいますか?

✳︎

まず、ひとつ前の見出しは「価値観(と意思決定)」としました。“フランス料理のフルコースを経験する前”の「現在の価値観」の分析をお願いします。

次に、前者「誘いを断る私」にも後者「誘いを受ける私」にも、「価値観以外の要素」が含まれている気がしています。私の気のせいでしょうか。たぶん気のせいではありません。色んなバイアスが含まれています。「バイアス」の分析をお願いします。

最後に、私はどちらを選んだら後悔しませんか?どちらを選ぶと後悔しますか?どちらでも後悔するのか、後悔しないのか。「意思決定」の分析をお願いします。

沖縄近海で採れた鮮魚のポワレと鮑のリゾット
サフランと白ワインのソース


本の紹介

医療現場の行動経済学ーすれ違う医者と患者』大竹文雄、平井啓編著(東洋経済新報社)
※AmazonのKindle版「試し読み」のリンク先です。以下の内容まで読むことができます!

はじめに
目次
第1章「診療現場での会話」
1.「ここまでやってきたのだから」:サンクコスト・バイアス
2.「まだ大丈夫だからこのままでいい」:現状維持バイアス
3.「今は決めたくない」:現在バイアス
4.「がんが消えた」:利用可能性ヒューリスティック
第2章
1.人間の意思決定のクセ
2.プロスペクト理論(確実性効果と損失回避)

『医療現場の行動経済学ーすれ違う医者と患者』より

実は、こちらの本の紹介記事です。
すみません、まわりくどいご紹介で。
しかも「フランス料理のフルコース」なんて話は一切登場しません!

フランス料理のフルコースは「標準治療」
生牡蠣は「抗がん剤」
食中毒は「副作用」
食事代は「治療費」
あたりに置き換えてみてください。

✳︎

がんの治療では、患者さんの価値観は重要ですよ。現在は「生活の質」(QOL)も重視します。

とよく言われます。主治医は初めて治療法を提案する際に伝えますし、患者さんも伝えられるはずです。そして私がこれまで投稿した記事でも書いています。

でも、「価値観」ってそんな簡単ではありませんからね!「生活の質」って抽象的すぎです!と自覚しながら投稿してきました。

考えれば考えるほど深みにはまります。ですから、チラッと立ち読み程度でも構いません。
本書を読んでおくと、あらゆる意思決定の際にヒントになります。なぜ「あらゆる」か?それは命と健康がかかった究極の意思決定の場面を想定しているのですから、他の大切な場面でも応用できるに決まっています

南国フルーツのタルトを変わったアプローチで


あとがき

フランス料理以外にもフルコースがあるのか知りませんが、私にはやはり無理です。披露宴に参列したときの食事でも、最後まで辿り着けませんでしたから。「もし良かったら…」と隣席の友人や親族に、その都度声を掛けてきたのです(挨拶と声掛けとおとなの礼儀は大切です)。

とはいえ、目上の方からのお誘いは断りたくありません。私ごときを誘ってくださるなら喜んで、どうしても無理なら空いている日を複数お知らせしますレベルです。

このとおり、たかがフランス料理に誘われた程度でも意思決定に悩むのです。医療現場でしたら、悩んで当然です。半日でも数日でも半月でも、悩んだ期間は関係ないと思っています。重要なのは、必死になって悩んで考えたという事実かも…

▼注釈
※フランス料理には誘ったことも誘われたこともありません。すべて架空の設定です。

※抗がん剤ですが、嘔吐までは基本しません。
プラチナ製剤(白金製剤)の「シスプラチン」という古典的な抗がん剤があります。様々ながん種で適応となっており、(4段階のうち最も発症割合が高い)高度の催吐性リスクに分類される抗がん剤なのですが、副作用を抑える制吐剤などにより「ムカムカする、なんだか気持ち悪い、食欲があまりない」程度となっています。

※本書は数年前に購入して読みました。あまりに良い内容でしたので、人にあげてしまい手元にありません。なお、続編『実践 医療現場の行動経済学ーすれ違いの解消法』も発刊済みですが、こちらは購入していません。ご紹介もしません。

本記事の注釈

医者「なぜ患者さんは治療方針を決められないのか」
患者「なぜお医者さんは不安な気持ちをわかってくれないのか」
人間心理のクセがわかれば、溝は埋められる!

「ここまでやって来たのだから続けたい」
「まだ大丈夫だからこのままでいい」
「『がんが消えた』という広告があった」
「本人は延命治療を拒否しているが、家族としては延命治療をしてほしい」
「一度始めた人工呼吸管理はやめられない」
といった診療現場での会話例から、行動経済学的に患者とその家族、医療者の意思決定を分析。
医者と患者双方がよりよい意思決定をするうえで役立つ一冊!
シェアード・ディシジョン・メーキングに欠かせない必読の書。

東洋経済STORE HP「医療現場の行動経済学」より


医療現場で医師が考える視点についても!
本記事が学問的な立場からのアプローチ、以下の記事は実臨床の立場からのアプローチ、と便宜上整理できます。とはいえ、前者の「行動経済学」は医療現場に限らず、様々な業界や現場でも導入されています。


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